残留者
矢を放った男達は街の残留者とギルドの生き残りだった。
エルフ族のロイが宿主達より先に訪れ街を守りたいという強い意思のある者達に弓を指南していたのだという。
身体能力が高い彼ら魔族は短い期間でも街を守るという意識の高ささえあれば非戦闘員でも弓を会得することはそう難しいことではなかった。
「ありがとうございます…」
円形のテーブルに擦りつかせるように頭を下げ、顎から髭を伸ばした商人風の男は背後で大騒ぎして酒を飲んでいる男達を尻目に言葉を紡いでいるが周りの喧騒な騒ぎのため最後のほうはあまり聞き取れなかった。
宿主は男の前に座り、ルーとロイはテーブルの左右に座して男のに目を向けていた。
「港の責任者、ヨルダと言ったかの?」
「は、はい」
責任者ヨルダはルー嬢の呼び掛けに頭を上げた。
「言い方は悪いが妾達は仕事で来たのじゃ。そろそろ頭をあげてはくれないかの?」
「それでも一時といえども救ってくれたことにかわりはありません」
「それはいいとして、なぜ今まで報告が遅れたのですか?ヨルダ殿はなにか知っていますか?」
ロイはシャンパンを口に含みながらヨルダに視線をおくった。
「お気づきとは思いますが現在、ここを収めているはずの領主はおりません。
当初はギルドに対応可能だと過小評価したあげくギルドが襲撃され、その結果、領主や戦闘ができる主だったものは殺されほとんどの領民が逃げ出したのです。
しかも、魔族の本国にはかなり犠牲者も少なく見積もって報告していたようです」
なんともずさんな領主だ。
どうりで数人しかやられていないのにこちらに処理を頼むわけだ。
シャインの上層部はここの様子を怪しみ我らに偵察も含めた処理が本当の目的といったところだろうか?
「ですが私たちも黙ってはおりませんでした。
何人かの使者をヴァーリ族に使わして状況を伝えたところヴァーリ族から調査隊がきたのですが…
悪いことに此度のヴァンパイアの裏にはかなり上級の《リヴァ》がいるらしいとのことでそのままヴァンパイアを狩れば《リヴァ》が確実にでてくると考え、調査隊がシャイン側に伝えたところ今回皆様方が派遣されたということだと思います」
すこし間をあけヨルダはゆっくりと語った。
なるほど。
そういうわけか。
一方の三人はそれを聞き、眉を持ち上げたがあまり驚いた様子はなかった。
ただ、納得したような表情だ。
ヴァーリ族もギルドもヴァンパイア狩りでのみ国境を無視できる。
《リヴァ》もいるとなれば話は変わってくるということだ。
《リヴァ》とは《ロスト》と同じ眷属の魔物ではあるがあきらかに戦闘力が異質な者達で上級のものはヴァンパイアより厄介な凄まじい戦闘能力を持つ。
動こうにも動けない。
下手をすれば状況がもっと悪くなる可能性もあったということか。
以上が今回のあらましだがヨルダがそこまでの事実をなぜ知っているのだろうか?
ヴァーリ族の調査隊が伝えたのだろうか?
それもあってかロイは表面上、納得した表情をしながらも口を開こうとせずにいた。
危機管理能力が薄い領主を持つと領民は大変です