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神殺しと呼ばれた男  作者: 鳴神
『《リヴァ》騒乱編』
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進軍

ウリエルは魔族院の中でも少々変わっている。


本人からすればどうということではないのだが時折、ふらっと街まで出歩くことがある。


一部では徘徊などと揶揄されている。


本人曰く、国民の暮らしも直にみないで民のためなどとほざくなどあってはならないらしい。


ルシフェル曰く、あやつはただ事務仕事から逃げているだけだ、と。


街でウリエルの姿を見た国民曰く、また逃げてきたか、と。


本人は軍人から短い期間に驚くべき速度で魔族院という魔族の頂点に任命されたのが今以て釈然がいっていないし、あまりにも早い出世のためか机に向かう業務自体あまりやって来なかった。


その、しわ寄せが今来ている。


面倒な仕事は秘書官や部下にやらせているがウリエル自身が目を通さなければならないものもある。


それまで任せるのは気がひける。


それでも任命した魔族院の連中やルシフェルもまたそれらを黙認し一笑しているが本人からしたら現場にいたいという気持ちと任せられたからにはやり遂げる気持ちもある。


だが、嫌なものは嫌だというのが彼の本音だ。


部下達には同情を禁じ得ないが。


その当の本人は現在、グレッシェルの南部地域の街に来ていた。


グレッシェルの南部とグヴェン山脈の間には平原と広大な湿原が広がりその隣町にあたる港街は軍船や商船が行き交う。


グヴェン山脈の地理的条件も重なり、砦らしいものはないがそのかわり街の城壁はそれなりに高く、強固な門で守られている。


多種族へ向けたものというより、《ロスト》ら外敵に向けたものだ。


湿原は遮蔽物らしきものもなくその広さは東部地域の国境まで広がり、東部国境からこの街まで軍勢が進軍できるところはない。


足を取られ、ろくに進軍できず過去に東部から南部地域の湿地帯から街が進軍されたことは数える程度しかないがいずれもその軍勢は大敗している。


南部地域を攻めようものなら隣の港街を押さえるか商隊が通れる道が辛うじてあるグヴェン山脈のみだ。


普通の軍勢(・・・・・)が通るような道はない。






「はぁ、はぁ」


一人の傷だらけの青年魔族が門の警備兵の目にとまった。


何者だ、とは言わない。


同族でもあるし、その姿からただ事ではないのはわかっていた。


「どうした!?

《ロスト》にでも襲われたか!?」


二人の警備兵が男に近づき、体を支える。



かなりの深手ではあるがその眼光は未だ失われていなかった。


「う、ウリエル様に御目通りを…

ウリエル様に…」


只ならぬ様子に二人の警備兵は青年魔族を支える。


「開門!!開門だ!!」


すぐさま重厚な音とともに門が開かれ中の詰所から警備兵が続々と姿を現した。


「ウリエル卿に伝令を!」


「ウリエル様に直ちに目通りを!

あの方なら必ず来てくださる!!」


二人の警備兵が口々に同僚達に叫ぶと傍の青年魔族を見て何人かが、弾かれたように飛び出した。


が、それを止める者がいた。


「待って!」


この場を預かる士官らしき壮年の男だ。


にも関わらず飛び出そうとする兵に男は一喝する。


「まず、話を聞け!!

現在、ウリエル様はこの街におられる。

どこにおられるかは不明だが街中を探せ!

それと、治癒魔法が得意なものは治療を施せ!

ウリエル様に目通りするまでになにかあれば我らの責任と心得よ!」


「はっ!」


一斉な兵達が動き出した。


回復を施し、街中に走る者。



門を抜け、両脇に詰所がある。


そこを抜けるとまず最初に扇状に開け、市場が顔を出す。


その広場に人集りが出来ていた。


門が開きっぱなしで警備兵が総出で騒いでいたのを聞きつけた住人たちが何事かと集まって来ていた。


住人たちが邪魔で探す兵たちの足が止まる。


彼らにウリエル卿の居場所を聞こうとした時だった。


「こちらです。

みんな、道を開けてくれ」


群衆の後方から声がかかった。


集団をかき分けて黒シャツにデニム姿の魔族が数人の男女を伴って現れた。


「何事……ラマダス村のグバルじゃないか!?」


青年魔族を見たウリエルが駆け寄った。


「グバル!

お前程の男がなにがあった!?」


レイド大陸周辺は比較的大きな街以外の村などは村民が自警団を形成して、近くの街と連携し治安や《ロスト》から身を守っている。


グヴェン山脈から程近いラマダス村ではタロンからグレッシェルへ陸路で行く商隊の護衛である程度の稼ぎを得ている。


その中でもグバルという男は若いながらも見所があるとルーより聞いたことがある。


その際、下級の《ロスト》程度なら一人で五十体くらいなら討伐経験があると話をしていた。


小隊を組み条件次第では百体程は相手に出来るはずだがその彼が今、満身創痍でウリエルの前にいた。


治癒魔法をかけているが今にも事切れそうだ。


「我がラ、ラバナス村は《ロスト》の大軍に襲撃され全滅。

恐らく、周辺のむ村も…」


「なんだと!?」


住民達はおろか、警備兵たちも色めき立った。


「女子供も力を合わせ立ち向かい、数百程倒したところ、次々と増援が…

五百体までは倒したがその頃には生き残ったのは私だけ…

その後にも無数の《ロスト》が現れ、事の次第を報告しにき…ました。

いくつか…の集団がグヴェン山脈を登ってきてい…ます。

恐らくこち…らに向かってきて…いるはずです。

ただ…ちに防衛態勢を…中隊規模ではやつらに勝てません。

や…やつらは陣形を組み…ます。

す…ぐに…い一軍を」


そこで事切れた。


「グバル!!」


「ウ、ウ…ウリエル様!」


悲しみにくれる間もなく、門付近にいた警備兵が叫び声を上げた。


門外に飛び出したウリエルと警備兵、一部住民達の目にグヴェン山脈から下山し、隊列を組み直している《ロスト》の大軍が目に飛び込んできた。


「なんてことだ…」


誰もが絶望し、膝をついた。


ウリエルもまた目の前のもはや軍勢と言ってもいい《ロスト》の大軍に我が目を疑っている。


未だにグヴェン山脈から下山してきていることを考えるとまだまだ増える勢いだった。














その軍勢の数

『およそ五万』



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