招集
「シフト、国境の守りを捨てるというのか?」
「いえ、呼び出すのはあくまで隊長クラス。
《リヴァ》にしろ、魔族にしろ少数精鋭でこれにあたります。
無駄に兵や士官を無駄に損じることはないかと」
ザイル卿がそれに対してそうか、とだけ答えた。
「ただし、皆様方にも動いてもらう必要もあります。
恐らく、キャッスルノート襲撃の報は国民に時期に知ることになりましょう。
その際の混乱などの対処には内務卿と司法卿にお願いします」
「心得た」
と、司法卿。
内務卿はただ頷くのみだ。
そこで今まで沈黙を保っていた外務卿が口を開いた。
「私は北東部のディジフェニア共和国と東の小国家群に睨みを効かせればよいのだな?」
「さすがは外務卿。
その通りでございます」
シフト卿が珍しく笑顔を浮かべながら白々しく外務卿を称えた。
シャインとグレッシェルの東側には十数ケ国に及ぶ小国家が乱立し、絶えず争い興亡を繰り返している。
一方の北東部のディジフェニア共和国はレイド大陸の南部の大半をその領土とする人間達の首都ラカードの同盟国であり、ラカード程広くはないが国内に色々と問題を抱えている国だ。
だが、その保有する戦力は侮り難く我らやグレッシェルからすれば現在、最も警戒している国の一つだ。
「外務卿。
小国家群から仕掛けてくることはほぼ、ないが問題は共和国。
種族や人種を多種多様に抱え、近年では国論が一つに纏まったことは皆無。
しかし、グレッシェルの中核が襲撃されこれ幸いと思い無理矢理世論をまとめて攻めてくることも十分に考えられる。
共和国の動きには十二分に注視せよ」
「はっ!」
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シャイン東部、小国家群国境
「ロベルト様、中央から伝令です」
筋骨隆々で肌は若干浅黒く、腕は丸太のように太く歴戦の古強者のように古傷が見て取れるが以外に歳は若かった。
彼の銀色の甲冑の胸には双子座が描かれている。
聖卿直属黄道近衛部隊、通称星座隊。
全12部隊の内の一つであるジェミニ隊の隊長が彼である。
「……副官」
部下が渡した命令書を読むとすぐさま傍の副官に手渡した。
副官はそれを見ると顔をしかめてロベルトへ目を向けた。
「ただちに中央に戻る。
偵察にでたレモンを喚び戻せ」
「はっ!
ご武運を!」
その後、ロベルトはその日のうちに牡羊座の隊長、レモン=フェイとともにハートレヴァンへ向けて帰還するのだった。
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シャイン東南部、ディジフェニア共和国国境
黒髪に銀の甲冑を纏い背には二振りの剣を背負い若干細めで猛禽類を思わせる目つきのその男、獅子座隊の隊長グローリー=サム=ハンは朝方から《ロスト》の集団に幾度も遭遇し、その対応に追われていた。
普段は見ない兆候に訝しげに隊のものも感じていたが散発的に現れ、下級眷属の集団のため大した被害が出ていないのが幸いだった。
「グローリー」
丘陵から国境付近の森を眺めていると後ろから声がかかった。
「楓か」
シャインやグレッシェルの西に広がるマンテス海を挟んだところにある大陸の国、八咫の青を基調とした忍び装束という服装に身を固めた長髪の女性が伝令を伴って現れた。
「中央からの命令書が届いた。
星座隊の隊長のみ至急、ハートレヴァンに戻れって」
そう言って彼女はグローリーに伝令が携えて来た命令書を手渡した。
水無月楓。
水瓶座隊の隊長である。
彼はは手渡された命令書を一瞥すると表情を変えずに側にいた副官に後を託すと楓とともにグローリーもまたハートレヴァンへ急いだ。
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『《リヴァ》出現の可能性あり。
星座隊隊長は可及速やかに帰還されたし』
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「そろそろ、僕の出番かな」
タロン北部、グヴェン山脈の麓で一人の少年が呟いた。
前方にはグヴェン山脈。
その後ろにあるはずの村からはいくつもの黒煙が上っていた。
「ホルスト様。
周囲の村、殲滅完了しました」
「ご苦労様。
じゃ、魔族とシャインの愚鈍な奴らに挨拶に行こうか」
そう言ってホレストはグレッシェルに向けて歩を進めた。
その後ろには統率され、整然と並ぶ数千の《ロスト》の姿があった。
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