去る者と贄
石材の弾丸が風の刃で細切れになり、その刃が届こうとした時ウリエルは剥き出しになった地面に拳を叩きつける。
【大地よ、我が壁となり我を守れ地塁壁】
半円状に隆起しながら土壁となり風の刃を完全に防ぐ。
だが、その最中にブラウエルの魔法の第二波の爆炎の塊が上空より飛来する。
速すぎる。
タイミング的に風の刃発動後のはずだ。
恐らく奴は同時魔法発動を可能にするスキル、二重詠唱を保有しているようだ。
上空を見上げるウリエルだが石壁とは逆の方向から驚くべき速さで回り込んだブラウエルが肉薄する。
防御のための石壁が逆に仇となり逃げ場を失うウリエル。
一際、巨大な爆発音がキャッスルノートに響き渡った。
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業火絢爛な装飾の数々そして、堅牢な石壁に囲まれたそこの一番奥には数段の階段の上に一際目立つ、玉座があった。
照らす灯りもなく、座る主が行方知れずとなって久しい。
その静かな闇に支配されている玉座の間に一人の男が立っていた。
短く切り揃えられた金髪碧眼で細身のサングラスを掛けていたその男は玉座を静かに見つめていた。
玉座を見つめ、微動だにせず立ち尽くしていた。
ありし日の皇帝がいた日々。
誰もが平伏し、敬い、恐れ、慕っていた。
ルーの父親、魔族帝ザック=ハルモニア=ファル。
彼はある日、突如として姿を消した。
魔族院も捜索に乗り出し、紆余曲折あったが現在は王の位は空席のままとなっている。
「あなたも、行くのですか?」
闇から慈愛に満ちた女性の声がかかった。
わかっていたと言わんばかりに男は一言。
「はい」
と、だけ呟くと嘆息だけが聞こえてきた。
そこへ地鳴りと爆発音が響く。
「ウリエルとブラウエルがようはしゃいでおるわ」
また、別の声が聞こえた。
男は闇に紛れている二人に向けて声を掛けた。
「ルシフェル様、ガブリエル様。
今までありがとうございました。
今生の別れでございます。
ザック様にもう一度お目にかかりたく、思いますが叶わぬことでございましょう」
膝をつき、頭を垂れる男にルシフェルは声を掛ける。
「…貴公の選んだ道だ。
とやかく、言うつもりはないが若い者達が次々といなくなるとは魔族も先が短いかも知れぬな」
「私が居なくとも、ウリエル公やルー皇女殿下が居られます。
魔族のためにも私達のような者達も必要でしょう」
「つまらぬ、役をさせますね。
頭を下げるのは我らのほうです」
ガブリエルが悲痛な声で若き魔族に伝える。
「…それでは、これにて…
魔族にマナの導きがあらんことを」
そう言って若き魔族はその場を後にする。
「行ってしまいましたね」
「突然、ザック様が帰ってこられたら我ら魔族院の命はない、と思え」
決意。
ルシフェルの声はなにか一つの絶対的な覚悟があった。
「はい。
ザック様、子飼いの者たちを贄として我ら魔族は一つとなりましょう。
これで、反魔族院の貴族諸侯も黙らせることにもなります」
「うむ。
煉獄に落ちるのは我らだけでよい。
あとは皇女殿下に後の世を託すのみよ」
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