襲撃
その日の魔族帝の居城キャッスルノートは静かな夜だった。
星々は煌めき、また月の光が荘厳に照らしていた。
月の光に照らし出されるキャッスルノートは堅牢な高い城壁で囲まれ、高さなどが違う塔が監視塔、居住塔、少数の監獄塔などが無数に立ち並び地上にはレンガ作りの兵達の休息所や食堂、詰所がある。
それら全て細長い回廊で繋がれ、最早要塞といってもいい。
しかし、それら鉄壁の城塞に頼り切ることなく歩哨の兵が通常の倍以上がその任に就いていた。
「異常はないか?」
「はっ!」
壮年の男が監視塔近くの詰所に訪れると詰めていた若い兵に声をかけた。
キャスルノートの警備全般を預かるバル=ロック少佐である。
実直な人柄で軍や官僚の信頼も厚い男だ。
「今宵は満月で明る過ぎる。
賊の侵入は低いかもしれぬが気を引き締めよ」
「了解しました!」
「…皇女殿下とイースの大喧嘩もないだろうしな」
そういうと詰所にいた兵達が笑みをこぼし、バルの目の前の兵は苦笑した。
「———そうそう。あの件だが…」
思い出したかのようにバルが話を続ける。
一通りの要件を済ませ、入り口にバルが向き直ろうとした時だった。
猛烈な爆砕の音が響くと建物が激しく揺れた。
窓は割れ、椅子から転げ落ちる者や立っていたバルは堪らずしゃがみ込んだ。
「なにがあった!?」
同室内にいた上官らしき者が最初に叫んだがそれに答えることができる者はここにはいなかった。
「バル様、大事ありませんか?」
近くにいた兵が窓の破片で傷をおい額から血を流すバルの元へ駆け寄る。
「私のことはいい!
状況を確認しろ!」
その言葉にその場にいた者が焦燥の表情を浮かべ全員屋外へ走り出し、バルもその背を追った。
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集まった兵が見たのはキャッスルノートの無骨な鉄城門が見るも無残な姿に変わり果てた姿だった。
堅牢な正面門がそこにあったのかどうかわからぬほど破壊され両脇の城壁も同様に崩れ、崩壊していた。
ここキャッスルノートの門や城壁は特殊加工を用いると高い魔法耐性を持つグアベルト鉱石と言われるものを使用している。
しかし、その城壁が破壊されるほどの強力な力を持つ者が現れた事実に皆、驚きと恐怖を隠せないようだった。
魔法か異能の力かかなり強力の力の持ち主の仕業だ。
「これはどうゆうことだ」
「バル様!」
その声に兵達がバルに向いた。
「この門がここまで破壊されるとは…
だれか賊の姿を見た者は?」
お互いに顔を見合わせるが首を縦に振るものはいなかった。
「軍に知らせ至急援軍を呼べ!」
そこから矢継ぎばやに指示をだし、ここを死守するものと各方面の状況確認に行かせる者に分け、そしてこの場で一番階級の高い中年の男にはここを任せた。
指名された男はすぐさま指示を出し指揮系統の体制を整えると城門後に強力な防御魔法を張り始めるとバルが頷く。
「状況確認の報告はこいつにしろ。
私は中央に行ってくる」
「了解しました!」
焦燥にかられながら、バルは身体強化の魔法を施しキャッスルノートの中枢に急いだ。
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