捜索
鑑定師の老婆の店を後にしてから数日が経っていた。
あれからガルは特にルーから魔法、どちらかといえば闇属性魔法についてしごかれていた。
魔法耐性がある対吸血鬼戦では効果が薄いとは思うが《ロスト》や《リヴァ》戦を見込んでのことだった。
その間にギバザルトの足取りを軍やギルドで追っているが今のところその痕跡すら見つかっていないそうだ。
見つかったとしても我らに報告が来ることすら怪しいものだが。
特務隊とは名ばかりと言えばいいのか定かではないが通常の隊より中々厳しい任務が多いのも事実だ。
一応、軍属だがギルドの仕事内容のほうが似ている。
軍内の何でも屋などと陰口を叩かれているようだし、なにより精鋭揃いの部隊———通称『星座隊』のほうがまだ、信用がある。
あちらの部隊長クラスは軍内でも指折りの実力者ばかりだ。
多少、性格に問題を抱えているものもいるが…
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ある夕刻。
その質素な部屋には二人の男がいた。
黒檀の大きめの机と椅子が置かれ、そこに壮年の男が座っている。
蒼色の髪の長髪で同色の瞳、眉間には深い皺を寄せかなり大柄である。
名をザイル=ミラー=スリィーキン聖卿といいこのシャインを治め、若い頃は魔獣の二つ名で呼ばれていた男だ。
その向かい側には銀髪で目つきが猛禽類を思わせるように鋭く、ザイルより長身の男が直立不動で立っていた。
その男、シフト=ガイア=リックはシャイン軍の総帥である。
「———グヴェン山脈の東部地域に件の吸血鬼がいるらしいのか?」
「はっ…まだ、未確認ですが東部地域で吸血鬼の眷属と見られる者とギルド所属の者が交戦したとのことです」
ザイルは顎髭を撫でると一度思案したあとまた、口を開いた。
「別の吸血鬼ということはないのか?」
「その可能性は捨てきれませんが吸血鬼自体の個体数が多くないのと手掛かりが今のところこれしかないことを考えると一度、捜索したほうがよいかと思われます」
「…一つづつ潰していくしかない、か」
と、言うとザイルは目を閉じた。
「イースらを東部地域に派遣して捜索させると考えています。
ギバザルトだとしても動きになにか奇妙なものを感じます。
時間が多少立っているとはいえ、シルベリアとは反対方向ですし、《リヴァ》の存在も気になります」
「だとしても、《リヴァ》の存在はまだ未確認だ。
シルベリアの領主が最後にグレッシェルに報告してきたのを信じれば…吸血鬼がギルドを襲撃した時に傍に吸血鬼とは別の異質な能力を持つものがいたので《リヴァ》ではないか、と考えているだけで確実な情報もない。
それ以来その者は現れたとの報告もないし、イースらが交戦したときも姿を現していない」
だからこそ、不気味な存在だ。
と、ザイルは最後に付け加えた。
「…こちらはこれ以上、兵を割くわけにはいきませんのでイースらに任せたいと思います。
彼奴らなら今度は討ち漏らすこともないでしょう」
「吸血鬼の矜持にかけて、挑んでくるかもしれぬという、わけか…」
シフトは無言でそれに対して首肯する。
ザイルは眼を見開き言い放った。
「良かろう。
シフト、イースらに吸血鬼討伐の令を下せ。
討伐するまで帰還は許さぬ」
「はっ!」
渋ーい回です