双魂の男
高校時代に書いた自主出版の小説を加筆、直した作品です
戦った。
戦って、戦い続けた。
それでも種族間の戦は終わりを告げることなく、何千年も大戦、平和、紛争がいつまでも絶えることはなかった。
戦いという名の螺旋は兵士達だけでなく、多数の種族を巻き込み巨大で邪悪なものだった。
その螺旋に巻き込まれるのに拒み続けた結果がある種族は覇を唱え、またある種族は外界を拒絶し、またある種族はその手を汚したことに自責の念にかられ自らの殻に閉じこもり、そしてまたある種族はその種族達を憂慮することなく傍観者であることを変えなかった。
その結果が自滅にも似た破滅だった。
カナーディアン地方レイド大陸の東部地域は西にマンテス海を抱き、北方にグヴェン山脈がある。
その山脈の北側の麓に沿って魔族中枢国グレッシェル。
さらにグレッシェルの北東にあるラバーサン湖からマンテス海に向けて全長数百キロのガナー川が流れそれを隔ててレイド大陸東部の最北端に同盟国家シャインがある。
そここそ我セクト=リヴァイル=クライの宿主、白鷹の二つ名で呼ばれるイース=ガイ=ヴォルフが住む国である。
シャイン南方のハバナと呼ばれる街の一角で剣戟が響きわたっていた。
「……?!まだいたか」
宿主は白のローブを羽織りその背には誇り高い鷹がその大きな翼を羽ばたかせていた。
左右を煉瓦の民家に囲まれ宿主が未知の生物を斬り倒している最中に前方の民家の間から新たに上半身が人間、下半身が蜘蛛のような八つ足の《ロスト》が現れた。
(手を貸すか?)
「…いや、いい」
我が内奥から語りかけるとさらりと返された。
宿主がまわりの《ロスト》の首を次々と跳ねていくと緑の液体が空を舞った。
周りの《ロスト》が斬り倒されると先程現れた《ロスト》はそのまま宿主へと正面から向かってくる者と左右の煉瓦に張りつきながら飛びかかろうとする者の三方向に別れる。
「わかれたか……」
宿主は言葉を残し、前方へ飛び込んだ。
前方の《ロスト》と接触する前に左右から飛び掛かろうとしていた《ロスト》に向けて懐から取り出した手榴弾を放りそれをホルスターから抜いた黒銃で撃ち抜いた。
轟音とともに煉瓦の破片と交じった《ロスト》の肉片が飛び散る。
走りながら黒銃を戻し、先頭の《ロスト》に向け斬り掛かった。
《ロスト》の長く伸びた鉤爪状の爪が宿主へ逆袈裟に振り下ろされた爪を宿主は右切り上げに手首ごと斬り飛ばし、軽く飛びながら剣でその胸板を貫いた。
《ロスト》の蜘蛛のような口から緑色の液体が零れたと同時に剣―――神無を引き抜かずに斜め下へ切り裂きながら左足数本を切り落とした。
《ロスト》がバランスを崩して左へ倒れこむ前に右へ駆け抜けながら胴体を切り裂いた。
続いて、前から来た数体の《ロスト》の首を左斜めに飛びながら斬り飛ばす。
斬り飛ばした《ロスト》の後方でさらに向かってきていた一体の《ロスト》の両肩に着地すると同時に脳天へ神無を突き刺した。
すると、周りの《ロスト》が蜘蛛のような口から宿主へ緋色の糸を吐き出した。
「ちっ!」
神無を引き抜きながら手榴弾を四つほど残し《ロスト》の顔面を蹴り付けながら後方へ飛んだ。
着地より先に《ロスト》は宿主に飛び掛かろうと体を沈めたが先程の手榴弾の爆発が《ロスト》を左右の煉瓦に破壊音とともに叩きつける。
宿主は左右の大きな穴が開いた煉瓦の民家へ向けて残りの手榴弾をすべて放り込み、後ろへ下がると前方から最後の《ロスト》が向かってきた。
宿主はデスペラードを抜いた。
その瞬間、手榴弾の炸裂音によって宿主の前方に粉塵と白い煙が立ちこめた。
その煙から《ロスト》が抜け出す。
轟音―――
轟音―――
轟音―――
轟音―――
轟音―――
煙が風のって流れると頭部が四散している《ロスト》が地に伏していた。
頭部が四散しているのを見ると銃弾は恐らく炸裂弾であろう。
中々、値がはる弾丸だ。
そこに空高くからなトカゲにコウモリの羽を生やしたような二メートル近い《ロスト》が飛来した。
しかし、宿主の頭上三、四メートルのあたりで奇声を上げながら体が膨張し、血肉が四散した。
「ルーか……?」
すべての血肉が落ちきったあと眼を細目ながら頭上を見上げると、民家の屋上の縁より黒のローブを羽織った者が飛び降りた。
その姿が途中で蜃気楼のように消えると一瞬の間をおいて宿主の後方にその者は現れた。
「よくもこれだけの数を一人でやるものじゃな」
「五十程だ」
宿主は振り向きもせず問い掛けに淡々と答えた。
「人間のくせにここまでやれるものじゃ」
「……ただの人間だったらよかったのにな」
黒のローブを羽織り、褐色の肌のルー=ハルモニア=ファルである。
褐色の肌は彼女の種族である魔族特有だ。
「引き上げるか」
「じゃ…な」
ところで宿主。
いくら《ロスト》から町を守ったとはいえあの煉瓦の穴の修理費は誰が出すのだ?
修正しました、