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Monsters Evolve Online 〜進化と開拓の記録〜  作者: 加部川ツトシ


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【エイプリルフール番外編】突然の出来事


 とある日曜日の昼下がり。ようやく完全体への進化を終え、次の進化で人化となる超越体への育成が開始になってきた。


「おっし、今日はどこ行く?」

「勝ち取ったばかりの完全体が出てくるエリアに行ってみるか? 今日の早朝に1戦、競争クエストが終わったしな」

「おー、そうなんだ!? だったら、新マップの探索なのさー!」

「勝ち取ったの、どういうエリア?」

「空の浮島エリアって聞いたかな?」

「あー、あそこに見えてるあれかー」


 何度も競争クエストや共闘イベントを繰り返してきて、その度に新マップや新エリアが解放されてきた。今回は前々から増えてきている、空に浮く島というファンタジー的な存在のエリアなんだよな。

 いやー、何回か前の共闘イベントで出てきた敵の撃破から、こういう大自然だけではない不思議なエリアも増えてきたもんだ。敵が敵だから、そういう事にもなるけど――


『……仮想の世界でのシミュレーションはこれまでだ。汝らの避けられぬ滅びの時は来た。全てが終わる前に我らの存在を認知し、肉体を喪失した時に我らへと手を伸ばせ。さすれば、汝らの助けとならん』


 ん? え、なんか直接頭の中に響くように何かの声が聞こえてきた? これは……何かのイベント演出か? うーん、それにしては何か妙な気がする?


「……今の声ってなんだ?」

「……何かのクエストの発生か? いや、それにしては妙だな」


 いつものようにアルのクジラの上に乗って移動中に、急に響いてきた謎の声。いや、違う? 今の声、喋り方こそ全然違うけど……いったんの声に似てた?


「……今の、いったんかな?」

「自信はないけど、多分そんな気がします!」

「……でも、何か変だよね? 今のがクエストとかイベントなら、何かしらのクエスト開始のメッセージとかが――」


<システムメッセージ:身体に衝撃を感知。強制ログアウトを実行します>


「ちょ、なんだ!?」


 ヨッシさんの疑問を遮るように……強制ログアウトが実行になり、現実へと戻されていく。さっきの妙な声といい、その直後に強制ログアウトって一体何が……?


 いや、ちょっと待て!  衝撃での強制ログアウトって事は地震の可能性がある! 俺の部屋の棚から色々落ちてるし、地震の可能性は極めて高い。しかも軽く見ていい震度じゃなさそうだ。

 VR機器はそのままヘルメットとしても使えるようになってるらしいから、有線接続だけ切って、被ったままで無線接続で情報収集をしよう。


「……いや、その前に晴香の確認か」


 父さんと母さんは買い物に出かけたいるとこだけど……強制ログアウトになる地震だと不安になるな。……サヤとヨッシさんは遠いから大丈夫だろうけど、アルの住んでる場所が分からないからそこは微妙か。

 ともかく、今は晴香と合流しよう。そこからサヤとヨッシさんに強制ログアウトになった事をメッセージで送ってもらえば、システムメッセージ経由で伝わるはず。


「晴香、そっちは大丈夫か!?」

「私は平気だけど、自分の部屋のドアが開かないのさー!」

「マジか!? ちょっと待ってろ!」


 くっ、それは流石にシャレになってない! ドアが開かなくなってるって事は、我が家自体に歪みが出ちゃってるって事じゃん。

 俺の部屋のドアは……ヤバい、こっちもびくともしない。これ、VR機器の無線接続は使えるのか……? ……うん、なんとか回線は死んでないみたいで接続は出来る。


「晴香、VR機器をARモードにして通話機能を使うぞ! 危ないからVR機器は外すなよ!」

「了解なのさー!」


 壁越しで大声で会話してても仕方ないから、大急ぎでVR機器をARモードで起動。携帯端末でも同じ事は出来るけど、地震ならヘルメットをしてる状況と同じ今の状態の方が良い。

 まずは晴香との合流だけど、お互いの自室はドアが開かない。父さんと母さん、無事だよな? それはとりあえず後だ。閉じ込められているこの状況は良くないし……あ、出入りする場所でもないけど、窓からなら行けるか。……この際、割って脱出は仕方ないだろう。


「晴香、窓を割ってとりあえず外に出るぞ」

「……それしかなさそうなのです。それにしても、サヤとヨッシから何も連絡がない……」

「え、マジか!?」


 無線の回線は生きてるのに、真っ先に確認してきそうな2人から連絡がない……? 同じ地震で東北と四国が同時に影響を受けるなんて事があるのか?

 いや、ただ単に状況確認の為で回線が混雑してる可能性や、部分的に機能しなくなってる部分もあるのかも。……それにしても、地震速報が出てきてないのはなんでだ?


「……その辺は後回しだ。とりあえず、窓が開くなら開けて、駄目なら割って屋根の上に出るぞ! 晴香、緊急時用の靴はあるよな?」

「うん、それはしっかりあるのです!」

「んじゃ、それを履いて屋根の上に合流! その後、何とか地面に降りてから状況の確認だ」

「分かったのです!」


 まずは慌てず、現状の把握をしていかないと。とりあえず晴香と合流したら父さんと母さんにも連絡をしないと……。

 ともかく今は窓を開けて……ちっ、開かないか。仕方ない、ここは思いっきり叩き割る! あ、俺が叩き割ったのとは別にガラスが割れる音が聞こえたから晴香の方も割ったみたいだな。


 よし、緊急時用に自室に置いてた予備の靴を履いて、割れたガラスで切らないように気をつけながら屋根の上に脱出。……このタイミングで再度の揺れとかは勘弁して――


「…………は?」

「…………兄貴、あれ、何……?」


 窓から屋根の上に出たところで俺の目に映った光景は……全く予想もしていなかったものだった。

 遠目ではあるけど、空中に黒い何かが浮かんでいる。……あえて言うのであれば、それはイメージ上の宇宙船と呼ばれるようなものであった。でも、その姿には見覚えがある。


「……ゲームで出てきた、機械人の宇宙船?」


 いやいや、そんなバカな!? だって、今までやってきたのはゲームだぞ!? そのゲームの中に出てきた宇宙船に瓜二つのものがなんで現実世界に出てくる!?


「どういう事なのさ!? なんで!?」

「…………分からない」


 取り乱している晴香の気持ちは分かる。俺だって何がなんだかさっぱりだ。……頭の整理が追いつかない。

 さっきの強制ログアウトになった振動は……本当に地震? そうとは全然思えない。……混乱してるけど、ともかく周囲の確認だ。


「……見覚えのある、黒いモヤが遠くに見える?」


 ちょっと待て! これ、ゲームの中で地球が滅ぼされた時の映像に似てないか? あれはもっと宇宙船の数も多く、黒いモヤ……瘴気の量も桁違いに多かった。


「……え? サヤとヨッシの方も……同じ状態なの?」

「晴香、サヤとヨッシさんから連絡が来たのか……?」

「あぅ……来たけど、黒い宇宙船が次々と瘴気を投下してるらしいのです……」

「何がどうなってるんだよ!」


 ゲームの中であった演出が、なんで今ここで現実の事になっている!? ただの人間がこれに抗う術がないのは……ゲームの中で良く分かってる事だぞ!

 くっ、何の冗談だよ!? 何か打開策は……そういえば、あの謎の声は何と言っていた? 仮想世界でのシミュレーションとか、滅びの時とか、そんな事を言ってた気がする。


「……もしかして、あのゲーム自体がこの未来を先に知らせていた?」


 荒唐無稽な事を考えているのは分かってる。でも、今のあり得ない現実から目を背ける訳にはいかない。……もしそうなら、待っているのは地球の滅亡だ。


 他にあの声は何を言っていた? 確か『我らの存在を認知し、肉体を喪失した我らへと手を伸ばせ』とか言ってたし、ゲームでの回想を思い出せば……助けてくれる精神生命体がいるはず。

 でも、存在を認知ってどうやれば? それに肉体を喪失した時って……死ぬ時って事か!?


「圭吾! 晴香! 無事か!?」

「圭ちゃん、晴ちゃん! よかった!」

「父さん、母さん!」

「お父さ――」


 車を飛ばして帰ってきたのか、家の駐車場の壁に盛大に車をぶつけたのも気にせずに父さんと母さんが車から飛び出してきた。……だけど、そこに黒い影が覆っていく。

 そして……その真上に、その禍々しい瘴気に呑まれて……え? 父さん……母さん……? 塵になって……消えていく?


「……え? お父さん……? お母さん……?」

「……くっそ!」


 何なんだよ、これ! なんでこんな事になる! あの謎の声の主、こんな事態が起こる事を把握していたな!? ふざけけるな!

 次々と瘴気を纏った岩が投下されて、地面は瘴気に覆われていっている。……このままだと、俺や晴香が瘴気に呑まれるのも時間の問題だ。


「くそったれ! いるんだろ、精神生命体! なんでこんな真似をしやがる!」

『我らが存在を認知させる為。故に、汝らにはその為の猶予を与えた』

「そんな事が出来るなら、そもそも事前にあれを阻止しろよ!」


 この頭の中に直接響く返事をしてきた精神生命体がゲームの内容通りの存在なのだとしたら、それが出来るだけの力は持っているはず。


『勘違いはするな。我らとて、無条件で全てを助ける善なる存在でもなければ、全てを成せる万能な力を持つ訳ではない』

「あぁ、そうかよ!」

「……あ、兄貴……も、もう……そこまで瘴気……」


 くっそ、もうすぐ側まで瘴気が迫ってきてる。……ここで俺も晴香も死ぬのか? 父さんと母さんは……もうどうしようもないのか? サヤやヨッシさんやアルは?

 あぁ、もう! こんな死に方なんて、絶対に御免だ!


『人の身を捨て、生き延びる事を選ぶのなら手を伸ばせ。我らの事を知り、同意を得るのが助ける為の条件だ』

「ふっざっけんな! 知らなきゃ見捨てるのかよ!」

『……我らとて、相当なリスクを負っている。奴らに我らの存在を知られる訳にはいかぬ。故に、回りくどい手段で認知させるしかなかった』

「……そうなのか」

『汝らの両親も可能であれば助けたかった。……そこはすまぬ。だが、汝らを無惨に死なせるつもりもない。我らの手を取れ』

「……あ、兄貴」


 この得体の知れない精神生命体とやらにも、何かしらの事情はありそうだ。空から瘴気を投下している連中に明確に捕捉されてはならない何かが……。

 あぁ、そうか。俺の人としての生きる事は、ここでお終いか。ゲームだと思っていたら、それが現実になるとは皮肉なもんだ。……そしてそれが、唯一の活路だとも。


「……晴香、俺はここで終わる気はない。お前はどうする?」

「……一緒に行く!」

「よし、分かった。精神生命体、ゲームには無かった内容の質問だ。奴らへの復讐は許可されるのか?」

『新たな肉体を得て、我らと別の存在となるのであれば止めはしない。だが、その場合は我らの存在は一切知られるな』

「……それだけ分かれば上等だ」


 それなら、父さんと母さんの敵討ちも出来る。……あぁ、そうか。ゲームの中ではこんな理不尽な形で人の身を失う事になるけど、再び人の身を得たいという気持ちが何となく分かった。

 そしていくつかの集団に分かれてしまった事も……。新たな安住で再び人の身を手に入れたかった者もいれば、力を求めて進化を目指すだけの者もいる。


『さぁ、では始めよう。歓迎するぞ、新たな同胞達よ!』


 俺と晴香が瘴気に呑まれて、その肉体は塵となって消滅していく。あぁ、これが機械人のやっていく事か。……覚悟していろ、絶対にお前らは許さない。


 そして一度意識が途絶えたかと思ったら、次の時にはどこか知らない真っ暗な場所……いや、違う。これは星が見えるし、自身の肉体も感じない。

 ここは……何もかもが荒れ果てて不毛の地へと変わった星が見えているし、宇宙空間か。そして、どこかへと消えていく大量の宇宙船……。



 これはもう地球は滅んだのか。……周囲には俺や晴香と同様に肉体を失くし、精神生命体へと変わった元人間が沢山いる。とはいえ、地球の人口を考えれば僅かな人数でしかないだろう。……全員を助けられる訳じゃなかったんだな。

 でも精神生命体の存在を認知させる為にゲームを使っていたのであれば、知っている相手はいる可能性が高い。まずはアル、サヤ、ヨッシさんを探してみよう。


 あぁ、でもそれぞれの意識が混ざり合って、変な感覚で、思うように動けない。困惑、悲しみ、怒り、絶望、嘆き……そんな様々が感情で溢れている。何を成すにしても、まずはこの状況に慣れる事が必要か。


『助け出せた、我らが新たな同胞達よ。今は急激な変化で負担も大きいだろう。我の力でしばらく精神を休ませると良い。目を覚ました後に、これからの話をしていこう』


 いったんの声のする精神生命体のその声を聞くと、意識が薄れていく。これで目覚めた時には、新しく何かが始ま――



 ◇ ◇ ◇



「うわっ!?」


 なんだか飛び起きるように目が覚めた……。手の感覚がある。足の感覚もある。寝汗でものすごい気持ち悪い。……今のは、夢?


「兄貴、おはようー! あれ、寝汗が凄いよ?」

「……晴香か」


 いつもの姿の晴香が、そこにはいた。そっか、今のは夢だったのか。……でも、これは聞かずにはいられない。


「……父さんと母さんは?」

「お母さんは朝ご飯の準備中で、お父さんはリビングだけど……兄貴、どうしたの?」

「いや、それなら別に問題ないよ」


 今日の日付は……夢の日付を既に過ぎている。ははっ、あんな馬鹿げた予知夢なんて見る訳ないか。単にゲームの設定を元にした悪夢を見ただけなんだろう。……あんな内容、現実のものになってたまるか。


ちょっと嘘とは違う気もするけど、まぁ普段は書けない特別編って事で!

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