番外編 あるかもしれない未来のお話(※ネタバレ注意)
なんだか書きたくなって勢いで書いてしまった番外編です。
盛大に大量のネタバレ要素を含むので、それでも構わないという方のみご覧下さい。
荒れ果てた砂漠の中で禍々しい黒く3メートルを超えるような二股の尾を持つ巨大なサソリと、全身が金属質な光沢を帯びた巨大なヘビが対峙していた。互いに多大な瘴気を帯びていて、今にも禍々しいモンスター同士の戦いが始まろうとしている。
その上空へ、巨大なクジラが近付いてきた。その背には人影が5人ほど見受けられ、その中の1人が地上へと飛び降りていく。
「おー、戦闘中の敵発見! 今回のイベントはここだねー! 『傘展開』!」
空を飛ぶ巨大なクジラから飛び降りたのは小柄な、リスと思わしき尻尾と耳を生やした活発そうな栗毛色の髪をした少女であった。服装はリスの毛皮を模したような和服のようなものを着ている。
その少女が飛び降りる際に使用していた半透明なパラシュートのようなものは、小さくなって頭に被る帽子のようになっていた。
「ハーレ、先に行かないの! 『大型化』!」
「まったく、先走るのは収まったと思ったら時々これだもんね」
そしてリスの少女を追いかけるように地上へと降りてくる2人の人影。1人は艷やかな長い黒髪にクマの耳を持つ大柄の女性が紫電を纏う大きな竜に乗っている。
もう1人はそのクマの女性の隣にいる、背中にある氷で出来たような青白い羽根を羽ばたかせている白と紫の斑模様の髪に触角の生えた小柄な少女だ。
「みんな、遅いよー! それにしてもサヤは何で普通のTシャツ風なの!?」
「あはは、和服風でも良いんだけどちょっと動きにくいかな?」
「ま、服装は自由なんだし別にいいんじゃない?」
「ヨッシは和服だもんねー!」
物騒なサソリとヘビの衝突が始まったが、そのすぐ側で和気あいあいと話し出す女性3人である。緊張感など欠片もない様子だった。
「さて俺らも行くか。『武装化・杖』!」
「ちょ!? 『アースクリエイト』『岩の操作』!」
そしてその間に空中にいた巨大なクジラが姿が変わっていき、その背の上にいた長身の男の手の中へ収まるように変化していく。その緑髪で耳の長い男の手には、クジラをモチーフにした身の丈以上の大きな杖へとなっていた。
「3人とも進化してからじゃないと意味はないとはいえ、ちょっと呑気過ぎじゃねぇか?」
「おいこら、アル! 解除するなら先に言えー!」
「ケイなら別に問題ないだろ」
「そりゃそうだけど!」
そうして空中で文句を言っていたもう1人の男が、空中に浮かんでいる岩の上から飛び降りてきた。その姿は右腕が機械となっていて、頭部は海老のような兜を被り、身体の大部分が甲殻とコケに覆われているという少し奇妙なものだ。見方を変えれば甲冑のような感じとも言えるが。
「っていうか、みんな服が選べる種族なだけ良いじゃん! アルとか、そのコートっぽいの羨ましい!」
「……いや、ケイも着れるには着れるだろ? 今は人化したロブスターの中にいるってだけで」
「まぁそうなんだけどさ……。本体のコケの方だけにすりゃ、小さいだけで問題ないけど……」
「ケイさんのコケの人化は私達の中で一番小さいもんねー!」
「いやまぁ、アルの木もそうだけど植物系って人化で変わり過ぎだよな……」
「……それに関しては確かにな」
そんな風に5人組は雑談を続けていた。そのすぐ側ではサソリとヘビが激戦を続けているが、サソリが優勢な様子である。サソリの溶解毒を受けたのかヘビの金属質な体表も剥げており、そこに向けてサソリが追撃を行っていた。サソリの二股に分かれた尾に刺されたヘビはのたうち回り、次第に動きが鈍っていく。
「あ、これはサソリが勝ちそうかな? ケイ、良かったんじゃない?」
「ヘビは嫌だもんな……。よし、サソリ頑張れ!」
「あえて俺はヘビを応援しとくか。ヘビ、頑張れー!」
「誰の味方だよ、アル!?」
2体の巨大なモンスターの激戦を邪魔する事もなく、何かを待つように5人は雑談をしながら過ごしていた。そこに彼らが来た側とは違う方向から人影が現れてくる。
その姿は巨大な太刀を携えた角の生えた鬼のような大男に、甲殻の鎧を着た小さな妖精のような人、背中に翼のある細身の男など、合計6人の姿があった。
「あ、みんな、青の群集が来たみたいかな」
「ま、やっぱり妨害しに来るよね」
「邪魔はさせないよー!」
「どうする、リーダー?」
「迎撃準備! ボスは取らせないぞ!」
「「「「おー!」」」」
そして、サソリとヘビの戦いの横で新たな戦いが始まろうとしていた。新たなエリアの支配権を巡る戦いが……。
「アル、先手で陣地を取るぞ!」
「おう! 属性は?」
「樹で! ハーレさんはまだボスを仕留めさせるな!」
「うん、分かった!」
「サヤとヨッシさんは戦闘仕様に!」
「さて戦闘仕様にしないとね。『武装変化』!」
「私もかな。『武装変化』『武装化・鎧』!」
そのスキル発動の音声と同時に、ヨッシと呼ばれた少女の手には針を模した長い槍が現れていく。サヤと呼ばれた女性の手は毛が生えてきて巨大な爪が現れ、紫電を纏う竜がその身の鎧と化していた。
人化して大きく姿を変えているが、それまでに得ていた力を最大限に引き出して行く為の術を解放した結果である。
「さて、俺もやるか。『武装変化』!」
そしてケイと呼ばれた甲冑と機械の男も姿を変えていく。機械の右腕が姿を変え、巨大な鋏を形成していた。その巨大な鋏の刃の部分以外にも全身のコケが拡がってもいる。
「アル!」
「おうよ! 『樹海創生』!」
アルと呼ばれた男……アルマースが手に持つクジラを模した杖を砂漠に突き立てた瞬間にその場から草が、木が、森があっという間に形成されていく。そして青の群集のプレイヤーが樹海の中へと飲み込まれていった。
「はっ、この程度は想定済みだ。ジェイ!」
「えぇ、分かっています。『腐海創生』!」
だが青の群集もただで初手を渡す気もないようで、生み出され続ける樹海を相殺するように毒の領域を形成していた。生み出された草や木々は毒の海に侵されるが、次第に互いの生成する環境が拮抗し合っていく。
「アル、継続しててくれ! ハーレさん、まずはジェイさんを仕留めるぞ!」
「おうよ」
「はーい! 『魔力集中』『爆散投擲』!」
「『遠隔同調』『アースクリエイト』『増殖』!」
「させるかよ!」
ハーレの腕が銀光を纏い始め、ケイが生成した小石の近くに左手を置いて小石にコケを纏わせていく。その間にも太刀を持った大男がアルマースの作り出した樹海を切り裂きながら、どんどんと近付いてくる。
そしてその前に立ち塞がるように動き出すのはサヤである。両手に存在する巨大な爪を構えながらだ。
「行かせないかな! 『魔力集中』『連閃』!」
「いつまでも負けっぱなしのつもりはねぇんだよ! 『魔力集中』『連閃』!」
サヤの巨大な爪と太刀による、同じスキルではあるものの若干の違いを見せるその銀光を纏う連続の斬撃がぶつかり合っていく。一撃ずつの衝突で互いに銀光が強まっていくが、どちらも互いに負けてはいない。
「サヤ、援護するよ! 『並列制御』『フリーズランス』『フリーズランス』『フリーズランス』!」
「ホホウ、させませんので! 『並列制御』『ウィンドウォール』『ウィンドウォール』!」
「……そう甘くはないんだね」
「ホホウ、それは当然なので」
斬り合うサヤを援護をしようとしたヨッシを妨害したのは翼をもつ細身の男だ。どちらの陣営も互いに引けを取らずに戦闘を繰り広げていた。
そんな中で、新たな人影が現れてきていた。カーソルの色は赤いので、赤の群集の到着のようである。そして、赤の群集の緑髪の長い耳の男がいつの間にかサソリとヘビにそれぞれ一撃を入れて、ポリゴンとなって砕け散っていた。
「あー!? ボスがルストさんに殺られたー!?」
「げっ!? このタイミングでこのメンバーが来るのかよ!?」
「ちっ、ケイ、どうする!?」
「どうするって言っても、どっちも倒されたらどうにもならないだろ!? あーもう! 赤の群集も青の群集も片付けて他のボスを探すぞ!」
「……それしかないかな」
「させるとでも思ってんのか!?」
「えぇ、そうですね。赤の群集の目的は同じでしょうし、足止めに専念しましょうか」
焦っているケイたちとは裏腹に、青の群集は余裕が見て取れる。そして白い髪で猫耳と尻尾を持つ優男と、黒い髪で猫耳と尻尾を持つ女性の二人組が姿を表していた。
「ふっふっふ、やってるねー! シュウさん、行ってもいい?」
「いいよ、弥生。全力で暴れておいで」
「退避しますので弥生さん、少し待ってくれませんか!?」
「早くしてよ、ルストー!」
「分かっています!」
「逃さねぇぞ、ルストさん! 『コイルルート』!」
「は、離してください! アルマースさん!?」
「やなこった。盾代わりに使わせてもらう」
「そんな!? いえ、ならば自力で逃げ出すまで!」
その弥生の言葉を聞いて息を呑み、慌てて駆け出すルストとそれを捕まえるアルマースの姿がある。地面から生える根に捕らわれたルストは味方であるはずの弥生に怯えるという妙な光景であった。
「あーもう、全員殲滅してやる! 『魔法砲撃』『偽核生成』『並列制御』『ウォーターカッター』『ウォーターカッター』『ウォーターカッター』!」
「ちっ、お得意の多角攻撃かよ!?」
「相変わらずあなたは厄介ですね!?」
ケイがコケ付きの小石を投げたかと思えば、複数の場所から同時に凄まじい勢いの鋭い水流が赤の群集と青の群集のメンバーに襲いかかっていた。流石に何度も見慣れたものなのか、ケイの攻撃に狙われた人は回避をしていくが完全に避けきれているとは言えない様子である。
「『モンスター化』! 『人化』! よし、今ですね!」
「ちっ、逃したか!」
一度大きな木の姿に変わったルストは、再度人の姿に変わり根の拘束から抜け出していく。モンスター形態と人化形態での大きさの違いを利用した脱出方法であった。ルストの脱出を見届けた弥生の姿がどこからともなく生まれた闇の中に消えていく。
「あははははは! そうこなくっちゃね!」
「弥生さん!?」
「ルストは邪魔!」
「ぐふっ!?」
そして姿を再び表すと同時に高笑いを始めた弥生が戦場に立つと同時に近くにいるルストを吹き飛ばしていた。どうやら高笑いを続ける弥生には敵味方の区別はないようである。
「アル、最優先討伐対象は弥生さんだ! 魔力値は温存したいけどあの人相手だとそうも言ってられない!」
「分かった、昇華魔法だな。『アクアクリエイト』!」
「『アースクリエイト』!」
ケイとアルマースの生成した魔法が重なり合い、周囲を問答無用で巻き込む土石流が生成され辺りを呑み込んでいく。だが、その強大な威力をものともせずに弥生は風を足場に空中を駆けていた。
「あはははははははは! そんなもの効かないーー」
「だろうな。だが、これならどうだ? 『重脚撃』!」
「……え? きゃ!」
「弥生!」
「……これはまた厄介な人が来ましたね」
そこに現れたのは黒い髪に狼の耳と尻尾、そして黒いコートとコケで覆われた狼男のベスタである。どこからともなく現れたベスタが空中へと逃げてきていた弥生を地面に叩きつけるように蹴り落としていたのであった。
しかし蹴り落とされた弥生が土石流に巻き込まれる事はなく、白い猫耳の男が抱きかかえるようにして助け出している。
「……弥生、大丈夫かい」
「シュウさん、へーき、へーき。あー、ベスタさん相手だと暴走したらきっついねー!」
「そうだね。それなら僕も一緒に戦おうか」
「ちっ、今ので弥生を仕留めきるつもりだったんだがな。……さっさと片付けて、他のボスを探しに行くぞ」
「……ベスタ、増援サンキュー。でもこの人数と質の相手は厳しくないか?」
「分かっている。……だがどうせまた新しい切り札は持ってんだろ?」
「あ、やっぱりお見通し? それじゃ新技でどこまで出来るかやってみるか」
「……またあるのですか、あなたは!?」
そして当然のように尋ねるベスタに、当然のように答えるケイであった。これまで幾度となく繰り返してきた事ではあるので不思議な事ではない。
超越体で人化してその先の進化に辿り着いた今になっても、それは変わらない。
「あはは、やっぱりケイらしいかな」
「ま、早々変わるもんでもないだろ」
「ケイさんだもんねー!」
「ま、それでこそケイさんだもんね」
「さて、覚悟してもらおうか! 赤の群集、青の群集!」
そしてそこから三つ巴での強敵との勝負が本格的に始まっていく。このイベントの勝利条件は自分の群集に割り当てられたボスを進化させた上で倒すこと。ケイ達は他の群集の妨害を受けて1体目は失敗に終わったが、ここからがイベントの本番である。
人化した後の一部の光景でした。
実際にここまで辿り着くにはまだまだ時間がかかりますし、あくまで現時点での構想なので実際にこの通りにとは限りません。(おそらく実際に辿り着いた時にはもっとスキルの種類が増えているので)
またこの話に出てきた内容に関しての解説とスキルのまとめへの反映はしませんので、その辺はご了承下さい。




