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転移(1)

 目を開けると、緑が目に飛び込んできた。


 さぁっと風の吹く音がする。


 目の前にあるのは風に揺れる木の枝。背中側に地面があるのか、引っ張られている感覚がある。どうも木の下に倒れている状況のようだ。そこまで把握した俺は、さっそく起き上がって周りを確認してみる。


 目に映るのは、うっそうとした木々。人や動物の鳴き声も聞こえず、ただ木の葉の擦れ合う音がするだけ。


 どうやら森の中に転移させてくれたらしい。


 ただ、目に映る物がすべて大きく見える。俺は元の世界では身長が高い方だと思っていたが、この世界では全体的に大きいのかな。


 「せっかくだし、異世界を楽しむぞ~!」


 そう言ったつもりだが、聞こえてくるのは慣れ親しんだ低音では無く、甲高い少女の声。


 「え、誰かいるの!?」


 そう問いかけるも、また同じ声。


 これはもしかして……!



 腕を見る。白くてすべすべで、簡単に折れそうな細腕。その先にあるのは小さな手。


 頭を触る。すべすべの髪の毛。そのまま手を滑らせていくと、肩を通り越して腰まで伸びている。毛先をつまんで見てみると、見事な金髪。


 下を見る。ほんのりある胸の膨らみ。


 触ってみる。幻覚なんかじゃなく、触れられている感覚がある。


 なんとなく胸が押されているような感覚が、とおもってよく見ると、シャツみたいなもので胸が軽く押さえられている。えっと、大胸筋矯正サポーター?


 そういえば、太もももすーすーするような…… と自分の服装を見てみると、膝丈までの長さの真っ白なワンピース。


 そこから伸びる足もすらりと細い。カモシカのような脚って言うんだっけ。


 足の先には白いソックスと登山靴。服装には不釣り合いだが、森の中なら必要だろう。


 そして股間はといえば、なんだかぴったり布地が張り付いている感がする。トランクスの時には無かった締め付け感。


 もしや……! と、布地越しにおそるおそる股間を触ってみる。うん、当然のごとく無いよね。


 これらのことを統合するに今の俺は。


 とりあえず、深く息を吸って思ったことを叫んでみる。


「なんで女の子になっているんだ~!」


動物の気配すら無い森の中。その叫びに答えてくれる人はもちろんいなかった……。




 放心すること数刻、胸に何かが当たっている感触に、ふと我に返った。


 大胸筋矯正サポーター……ではなくスポーツブラですね、これ。そのスポーツブラと胸の間にある何かを取り出してみてみると、それはペンダントだった。


 そういえば、自称神様…… 実際に神様なんだろうしもう神様で良いや…… にペンダントをもらってたんだっけ。魔力を流せば光るとか言っていたな……


 その神様にもらったペンダントには3つの石か付いていた。それぞれ青、白、緑、と色鮮やかだ。


 この中のどれか、もしくは全部に魔力を注げばいいわけかな。


 ……魔力の扱いとか聞いていないんですけど。


 まぁ、定番なら体の奥にある力であろう。なんとなく前の世界では感じられなかった熱みたいな物も感じられるし、これがそうじゃないかなぁと思う。


 とりあえず、その熱みたいな物を指先に流すイメージを強く持ってみる。すると指先に集まってきた……ような気がする。

 その状態で青い石に触れてみる。なにも起こらない。白い石にも触れてみる。何も起こらない。最後に緑の石に触れてみる。すると熱が石に移動したような感じがする。


 と、石が大きく一回、ゆっくりと光を放った。今の感覚が魔力で間違いないらしい。そして今の光からすると、神様の言い分を信じるなら妹は無事に転生して過ごしており、しかし今いる場所からは遠いと言うことなのだろう。


 しかし、これが魔力か…… つまり、これで魔法を使えるのか!?


 そう考えると、先ほどと同じように指先に魔力を流し、「ファイア!」と叫んでみる。


 ……何も起こらない。


 ならば、と鮮明なイメージを思い浮かべつつ魔力を流し、「ファイア!」と再び叫ぶ。


 ……やはり何も起こらない。


 どういうことなんだろうなぁと、再度緑の石に魔力を流してみる。吸い取られる感覚がして、石が光る。


 吸い取られる感覚があると言うことは、石が重要な役割を担っているのだろうか。


 今度は白い石を触ったまま、イメージを浮かべつつ「ファイア!」と唱えるも、石はただ光るだけ。同じように青と白の石でも試してみるが、こちらは何の反応も無い。


 ふむ、これは詳しい人に聞いた方が早そう。


 そう判断して、魔法のテストはあっさりあきらめる。使ってみたかったけど、ここで試行錯誤するより先に身の安全を確保しなければ。ここは森の中だし、いつ何かに襲われるかわからない。


「せっかくなら妹の近くに転移させてくれれば良かったのに……」


 そう呟いて見るも、その声はソプラノボイス。まだまだ違和感がある。この姿に慣れてから会いに行けば良いと考えると、遠い場所というのも良かったのかもしれない。それに魔法のある世界なのだし、姿を変える魔法もあるかもしれない。探している間に運良く神様に出会える機会があれば、なぜこんな姿にしたのか問い詰めてもいいし。


 とりあえず妹の無事、そして魔法は簡単そうでは無いことが確認できたことだし、まずは今の状況を整理し、安全を確保しようと周りを見渡す。


 と、後ろの大木の根元に大きなリュックサックがおいてあるのが目に入った。見た限り汚れもなく新しそうだし、膨らみ具合から中身もたくさん詰まってそう。


 なぜこんな森の中に不釣り合いなほど綺麗なリュックが、と警戒しながらも近づいてみると、肩紐にネームタグが付いており、そこには『餞別の品 "自称”神様より』と日本語で書かれていた。ここの言葉がどんなのかは知らないが、同じ日本語と言うことも無いだろう。そう考えると見覚えのある日本語だし、言葉通り神様の餞別だとしてもおかしくない。しかし”自称”って……


 ……恐ろしいことに気がついてしまった。というよりなぜ今まで思いつかなかったのだろうか。

 物語では神様は心を読んでくる。ということは、あの神様も読めたとすると、俺が自称神様と連呼していたのが聞こえていたと言うことでは。だからこそ、このタグにも自称とわざわざ付けたのでは。


 つまり、この体になった原因、そしてこんな場所に転移させられたのは、俺の浅はかな自称の連呼か……?


 「すみませんでした!」


 大空に向かって全力で謝って、待つこと数分。しかし特に何事も起きず、時間が経過するのみだった。

続きは今日の12:00に。

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