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神様(2)

「まずお聞きしたいのは、今現在どのような感じのスキルの予定なのですか?」


 まずは気になるスキルのことについて聞いてみた。自称とはいえ神様らしいので、一応丁寧な言葉遣いにしてみる。


「そうじゃな、お主が行ったことのあるうどん店のうどんを召喚できるスキルになっておる」


ふむ、なるほど、ということは、このスキルさえあれば、とりあえず食には困らないと言うことか。


「ちなみに、何をもってうどん屋と決めるのですか?」


「そりゃお主、うどんの看板を上げているお店じゃろ」


 何を決まったことを? といった顔で聞いてくる自称神様に、俺はちっちっと指を振り答える。


「俺が行ったことのあるところでは、看板がない民家みたいなところだったり、米穀店だったり、農業用のビニールハウスだったりと、ぱっと見ではわからないようなところも多かったですよ。つまり、ここはうどんを扱っているお店とすべきです」


 びしっ! と自称神様に向けて指を突き刺して言う。うん、我ながら決まった!


 決めポーズに満足しながら続きを待っていると、自称神様は勢いにひるんだのか、


「そうじゃな…… いや、待った。このままではうどんを扱っている店なら寿司屋とかでもOKになってしまうではないか! それはまずい。そんな能力を与えては統一神に怒られてしまうのじゃ」


 最初は納得しそうであったが、途中で待ったを掛けられた。ち、気づかれたか。仕方ない。


 そこで譲歩して提案しなおす。


「では、うどん情報誌やサイトに載っているお店のうどん…… いや、おでんとかもありますからね。うどんだけじゃなく、その店のメニューにあるものが召喚できる、という風に規定してください」


「うむ…… まぁそれなら良いじゃろう」


 最近はブームのおかげもあって、いろいろなお店が情報誌やサイトに載っている。

どさくさに紛れて、うどんではなくメニューを指定したのだが、これももちろん訳あってのこと。うどん屋だからと言ってうどんしかメニューがないわけではない。これで最初よりはかなりのメニューが召喚できるようになったのではないだろうか。


 さらに要望を続ける。


「それとうちの地元では、うどんとトッピングの組み合わせでメニューが決まってたので、うどんとトッピングは別に出したいですね。あとは掃除のこととかも考えて、添加物エタノールとかそういうのも召喚したいのですが」


「それは大丈夫じゃ。今までもそのような要望はあったからの。専用タブレットを召喚できるからそれで出してくれれば良い。それに使い方も表示されるから、向こうでいろいろ試してほしいのじゃ」


 よし、これでうどん以外も柔軟に対応できる。たとえばサラダうどんのサラダだけ召喚できれば野菜に困らないだろうし。掃除用に添加物エタノールなのは、間違えて口に入れてしまっても大丈夫なように、だ。


「あと、うどんはぱっと見た目はひもみたいですし、見た目で拒否される可能性を考えて、相手の口の中とかに召喚できません?」


「むむ…… 相手の体内に影響を与えるのは無理じゃな」


 今まで食べ物については気軽にOKを出してくれていた自称神様だが、これには難しい顔で拒否をしてきた。


「でも待ってください。消化管内は外と繋がっているから、生物学的には体外ですよ?」


「そう言われればそうかもしれんが……」


「ダメ元で、体内を除く任意の場所に召喚できるという風にしてくれません? タブレットで召喚できる物すべてを」


「むむ…… わかった。ただし、タブレットでは肌着なども召喚できるようになっておるから、食べられる物のみ。感知できる範囲で任意の場所、生物の消化管に関しては感知できる範囲にいる対象の任意の場所、ということにしておくの」


 これで召喚場所をけっこう融通できたはず。血管内に塩とか召喚できれば力になっただろうけれど、さすがにそこまでは無理か。あとは、そうだ。


「あと、定番としては物を収納できるアイテムボックスとかありますけど」


「話を聞くと言った途端に図々しいのぉ。向こうの世界にはそういうものが存在するみたいじゃからそれを使うのじゃ。あと転移者特典として、神域の部屋を貸し出しておるからそれを使えば良いじゃろう。ここの部屋と同じ物なのじゃが、お店並みのキッチンに、バストイレ別、この部屋を付けたわんるーむまんしょん?とかいう設備で、自慢の一品じゃ。制限時間として、向こうで過ごした時間の半分しか使えないがの。こもっている間の時間経過も自由に設定できるから重宝するはずじゃ。これで新メニューを作るなどしてくれるとうれしいぞ」


 バストイレ別なのはうれしい。でも、折角お風呂があるのなら、やってみたいよね、混浴! ということで、ダメ元で頼んでみる。


「そのお風呂って、十数人が入れる木造の露天風呂とかになりません? 自宅にそういうの作るのが夢だったんですよ」


「なんじゃケチをつけるのか?」


「いえ、そんなつもりはないんですけど、お風呂でリラックスできれば、新メニューのアイデアも浮かびやすいと思うんですよね」


 口から出任せではあるが、別に思ったことを言っているだけで、嘘ではない。


「新メニューのアイデア…… わかった、ただし、レベルを上げたら使えるようにしてやろう」


 新メニューという餌をちらつかせたら、あっさり許可してくれた。

 転移させる経緯もだけど、この自称神様、食い意地が張ってるな?

 それよりも、だ。


「レベル?」


「言ってなかったか。わらわの世界で文化を広げてもらうのが目的じゃからな。振る舞った人数でレベルを上げられるようにしておるぞ。レベルを上げるごとに召喚できるメニューを増やすようにしておる」


「ということは、ステータスとかがある世界なんですか?」


「転移させるやつによく聞かれるけれど、そんなのはないぞ? げーむ?とかとは違うのじゃ。まぁ、魔力量とかは目安はあったりするがの」


 ほぉ、召喚とか言うからうすうす感じていたけれど、魔力がある世界なのか。ということは、


「魔法とかもあるんですね!?」


 食い気味に聞いてしまうと、自称神様は少し腰を引かせつつも答えてくれる。


「あ。あぁ、もちろんじゃ。 ……あぁそうか、おぬしの世界にはないのじゃったな。魔法はあるが、詳しくは向こうで現地の人にいろいろ聞いてみてくれなのじゃ。おっとそうじゃ。妾の与える神力と魔力は同じような現象を引き起こすこともあるが別物じゃから、気を付けるのじゃぞ」


 神力と魔力は別物だ、なんて大事なことも言ってきた。魔法の存在を聞いておいて良かったよ。しかし別物ってことは。


「それって、ばれるとまずいことが?」


「別にないが、神の力を追い求めて転移者をとらえる国もあると聞いたことがあるからの。おぬしの妹みたいに転移ではなく転生させた者はスキルを渡していないから無事みたいじゃが。そのせいでお供え物が少なくなっておるのじゃ……」


 ふむふむ、ばれると面倒くさそうだ。そして転移と転生ではまた違ってくるのか。でもスキルは魔法と言い切れば良いのだろうか。うむむ、それは魔法を学んでからにするか。


「まぁ、細々した知識は向こうで情報収集してほしいのじゃ。さて、これで満足かえ? 満足なら、早速送ることにするのじゃが」


 自称神様は面倒くさくなったのか、話を打ち切りに掛かってきた。正直いろいろ聞きたいことはまだあるけれど、ここはおとなしくしたがっておくかなぁ。あ、そうだ。


「妹とはすぐ再会できます? あと、神様とまた会うことって出来るんですか?」


 家事とかが苦手な妹だったし、向こうできちんと生きていけているのであろうか。それに転生なら姿や記憶が変わっているかもしれない。それが心配なので聞いてみた。それと、自称神様とはいえまた会えるのなら、能力の改変とかは無理かもしれないがいろいろ力になってくれるかもしれない。そう思って聞いて見るも、


「そうじゃな、記憶は残っておるが姿は変わっておるからの。ふむ、このペンダントをやろう。このペンダントに付いた石に触れて魔力を流し込むと、相手が生きている限り点滅する石じゃ。遠くなら1回点滅、同じ街くらいの近さなら5回点滅するのじゃ」


 そういってどこから取り出したのか知らないが、真珠のような緑の丸い石が付いたペンダントを放り投げてくる。ありがたくキャッチすると首に掛けておく。


「それと妾に会うことじゃったか。まぁ、まれに会いに来るやつはいるが、方法は秘密じゃ。もう良いかの?」


 長い会話に疲れたのか、けだるげに聞いてくる。なるほど、また会う可能性もあるのか。それならここはもう引くことにしよう。


「大丈夫です」


 わかった、と自称神様が片手をあげ、目をつむり何事かを呟く。すると俺の体が光に包まれ、だんだんと薄くなっていく。そのタイミングで、


「おっと、忘れておったのじゃ」


 ふと思い出したように自称神様が言う。


「転移先の容姿じゃが、他の奴らはスキルの要望聞かない代わりに容姿の希望を聞いておるのじゃが、お主さんの場合スキルの要望を入れてやる代わりに容姿はこちらで決めさせてもらって良いか?」


 いやいや最初は要望聞かずに送ろうとしてたじゃん。


 とはいえ、当分の間これが最後の対応になるわけだし、わざわざ突っ込んだり反論して悪印象を与えてしまうのも良くない。こっそり要望を混ぜつつ返事をしよう。


「かまわないですけど、できれば見苦しくない普通の人並みの容姿ではあって欲しいのですが」


「それは大丈夫じゃ。初対面の人が安心して会話できる容姿にはしておくのじゃ。そうしなきゃスキルレベル上げにくいじゃろうし、そうなればお供え物も単調になってしまうからの。それでは新生活を楽しむのじゃ! くれぐれもお供えを忘れぬようにな!」


 最後の台詞がそれかよ。食いしん坊な自称神様め!


 そう思ったのを最後に、意識も光の中へ溶けていくのだった。

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