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神様(1)

「……じゃ。……じゃ!」


 聞き覚えのない声が聞こえてくる。


「いつまで寝とるのじゃこのアホ!」


 いきなり罵倒だと!?


 だ、誰!? と慌てて目を開けるも、そこに広がるのはただ白い空間。


 あれ、昨日俺はキチンと自室のベッドで寝たはず。それに俺は今は妹と二人暮らしだし、妹はこんな声ではない。つまりこれは夢か……


 そう理解すると早速二度寝の準備に入る。


「夢じゃないわ馬鹿もん!」


 また同じ声だ。そしてほっぺにキュッと痛み。


 誰だ!? ほっぺをつねったのは!

と憤りつつ目を開けると、目の前にはどアップの顔。


 うわっ! と起き上がろうとして、当然のごとく目の前の顔と頭をぶつけてしまう。


 思いっきり痛い。頭を押さえつつ、ゆっくり起き上がる。この痛みが夢なら、夢などさっさと覚めてしまえ。


「夢じゃないと言うておるじゃろこの粗忽者め……」


 前を見ると、同じように頭を押さえた幼女が一人。頭の上には猫耳がついている。


「猫耳幼女?」


 つい口から漏れてしまう。


「違うわ! 妾は神様じゃ!」


 ぷりぷりと怒っている。だけど見ている側としては、幼女がだだをこねているみたいでかわいらしい。


 自称神様は、まったくもう、これだから若いもんは……とか言いつつ数分くらいぷりぷりしていたが、怒りも収まったのか、コホンと咳払いをして語り出した。


「おぬしは死んだからの、妾らの世界へ転生させてやろうというわけじゃ。なに、礼はいらん。妾らの世界で過ごして、時々我に食べ物を捧げてくれればいいだけじゃ」


 自称神様は言う。


「そのために必要なスキルはすでに授けたのじゃ。いわゆる『ちぃと』ってやつじゃ。それじゃ早速我々の世界に送るがよいな? なに、同意さえしてもらえればすぐ送れる。ささ、同意するのじゃ」


「ちょ、ちょっとまって」


 勢いよく言い切った後、目をつむり片手を持ち上げ、何かをしようとしている自称神様を慌てて止める。


 そりゃ俺だって異世界転生ものの小説はよく読む。小説の中では、チートスキルをもらって異世界に渡るのもよくあること。


 でも、そういう主人公は重要人物をかばって死んだだとか、何かしら神様に恩恵を与えたから転成させてくれるってのが定番だ。少なくともただ事故で死んだから転生させてあげるってことはない。


 だいたい連れてこられる場所も、白い空間が定番だろう。今いるのは六畳間の畳敷きの部屋。右には床までのカーテンが掛かった窓らしき壁、左の壁にはドアノブの付いたドアと、まるでワンルームアパートの部屋だ。


 それにこの自称神様の言い分。どうも俺の住んでいた世界の神様ではなく、元の世界から自分の世界に拉致しようとしているようにも聞こえる。俺のような一般人を拉致してどうするのかは謎だけど。


 悩んでても仕方ない。今でも途中で止められて不機嫌そうなのに、さらに待たしてはどうなるかわからない。答えてくれるかはわからないけれど、とりあえず思いついたままに聞いてみる。答えてくれやすいように、不安そうな態度も演技しつつ。


「ホントに神様なんですか? 部屋もなんだか元の世界で見慣れた部屋だし信じられないんですが。それになんで俺なんです? あなたの世界で何をすれば良いんでしょうか? そしてなぜ死んだか教えてもらっても良いですか?」


 自称神様は、ふん、と鼻息をならしてこっちを見る。とりあえず話には答えてくれるらしい。


「おおかた白い部屋じゃないから不満に思っておるのじゃろ。ここに来た奴らはみんなそんなことを聞きよるわ。この部屋は昔の転生者と共同制作して気に入っておるからそのまま使っておるだけじゃ」


自称神様がパチッと指を鳴らすと部屋はなくなり、目の前が白い空間になった。


「これで妾が神だと言うことはわかってもらえたと思う。連れてきた理由は、おぬしが食べていたうどんとやらが美味しそうじゃったから、そしていろいろな店を食べ歩きした記憶を持っておるからじゃな。記憶にあるそれらを召喚できるようにしておいたから、向こうの世界で過ごして、時々召喚したものを捧げてほしいのじゃ。もちろん自分で作った物を捧げてもかまわないし、むしろ自作の方がうれしいのじゃ。部屋の方が落ち着くからそろそろ戻すぞえ?」


 自称神様が再度パチッと指を鳴らすと、先ほどの部屋の中に戻っていた。続けて質問に答えてくれる。


「あと、死因じゃったか。おぬしは家に突っ込んだトラックに轢かれて死んでおる。ああ、おぬしの妹も巻き込んでしまったから、妹は一足先に転生させておるぞ」


 疑問に思っていること以上にいろいろと気になることが聞けた。衝撃的なこともあったけれど、それは置いておいて。


「それだったら職人を呼べば良いのに……」


 何気なく呟いたふりをすると、自称神様はむすっとした顔をしていろいろ愚痴ってきた。


 なんでも、食の神様として職人を呼びたいのはやまやまだが、それは食文化の発展を阻害するとかで地球の神様に阻止されるらしい。同様に食べ歩きブロガーなんかも発展に寄与しているからダメなのだとか。そしてそれ以外の一般人の呼び込みについてはお目こぼししてもらっている状況らしい。


 しかし、せっかく連れてきても召喚できるのは記憶にある物だけ、しかもジャンルも絞る必要があるらしく、決まった店にしか行かない人ではもったいない。そこで探した結果、食べ歩きしているもののブログとかで発表はしていない俺が選ばれたとのことだ。


「しかし、選んだ、ってことは、神様が殺して連れてきたってことなんですね」


 いままでの不安そうな態度を一変させ、わざとふてくされたような態度で呟くと、今までぐちぐち言っていた自称神様の肩がびくっと震える。


「だって俺の家は住宅街にあるし、トラックが勢いよく突っ込める場所ではないはず。それで別の部屋で寝ている妹を巻き込むほどの勢いってことは、神様が何か手を加えたってことですよね」


「な、何を言っておるのじゃろうな。さあ、さっさと向こうに送ってやるから転送に同意するのじゃ!」


 続けて突っ込むと、自称神様は焦ったように早口でそう促してくる。これはビンゴっぽい。同意を促してくるってことは、最初に勢いに載せられて同意してたら即送られた訳かな。ということは同意さえしなければ送られない? そう考えて突っ込んで聞いてみる。


「まだスキルの話を聞いてませんし、同意なんて出来ません。何を呼び出せるか、どうやって使うかも聞いてませんし」


「ぐっ、ならばこのまま消えても良いというのか! 消してやるぞ! ホントだぞ! だから早く同意するのじゃ!」


 早口でそう言ってくる自称神様。これは何も出来ないから慌てているのでは? それに死んだというのなら本当なら元の世界には戻れまい。一番大切な妹はすでに転生してもらっているらしいし、それなら元の世界で訳のわからないまま死んでしまっているのも、ここで消されるのも変わりないだろう。

 そう考え、譲歩を引き出すために会話を続ける。


「考えてみてくださいよ、うどんを召喚する能力でしたっけ? その内容もここでキチンと決めておいた方が後々美味しいものを食べられる品数が多くなるのでは? あとで能力を改変してくださるなら良いですけど。たとえば、地元のうどん屋さんではおでんがあるのが定番でしたけど、ちゃんと召喚内容に含んでくださってます?」


「む、其処を突かれるとは…… 確かに後で改変は出来ないからの…… それになるほど、おでんが定番なのか…… それは知らなんだ。確かに決めておいた方がいろいろ楽しめそうじゃな。仕方ない、話を聞いてやるのじゃ」


 今までの慌てようは何だったのか、ドスンと椅子にもたれ掛かって話を促してきた。

椅子はどこから出てきたのだろう。まぁ、自称とはいえ神様だし、それくらいは自由なのかもしれない。

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