2 それについては考えないようにしよう
それにしても容姿が変わっているのはどういうことだろう? 元のファイナルドラゴンであった彼はこんな赤黒い髪をしてはいなかったし、顔は明らかに俺、高嶺空夜の影響が出ている。
これはどういうことなんだ?
……あ、ふむふむ、そういうことか。龍は半魔法体、肉体もあるが魔力で身体が維持もされている。上位の龍になるとある程度魔力を操れ、姿を変えることができると。
実際、ゲームでも上位の龍は人型を持っていたしな。
その龍を喰らい左腕を補った俺は半魔法体、もしくは四半魔法体くらいで、意図していなくても魔力が勝手に元の自分に近づけてしまったのだろう。
それにしても、疑問に思ったことを継承龍の知識から引き出せるのか、便利だな。
そうなってくると心配なことは一つ、俺は下半身を確認した……よし! 息子があった!
男の意識があるのに性転換とか意味わからないからよかった! 顔だけ魔力で男になっている可能性もあったから安心した。
いや!? もしかしたら息子も魔力で作り出したものかもしれない! いや、それについては考えないようにしよう。
でも主人公がレオンかアンジェかで俺の元の性別もわかるんだよな……
主人公には極力会いたくないなぁ。
ゲームでは主人公の性別を選べた。兄のレオン、妹のアンジェリーナ、二人のうちどちらかを選ぶとそのキャラがドラゴンに対抗できる力を持って生まれてきたことになる。
そして、その対を成す存在がドラゴンイーターの能力を持つ人間、ゲームではラスボスであるファイナルドラゴンとなっている。
対を成す存在の為か、同じ性別にはならないようになっていて、主人公に会えば自分の本来の性別を知れてしまうのだ……
ラスボス転生? 憑依? で忘れていたが、そうか、主人公がこの世界にはいる可能性が高いのか。
そうなってくると少々まずい、いやいない方がもっとまずいんだろうけど。
うん、主人公がいないとまあ間違いなくドラゴン様達に人間は滅ぼされてしまうだろう。結局、このゲームは人類滅亡エンドだから滅ぶのだが、その時期は早まり、悪あがきもできなくなってしまうだろう。
だが、俺個人としては、いや、ファイナルドラゴンとしてはいない方が楽なのかな?
ラスボスの敵ということもあるのだが、間接的にファイナルドラゴンが狂った理由は主人公にもあるのだから。
覚えているファイナルドラゴンの設定ではこうなっている。
人類は過去に増えすぎ、増長しこの星を一度破壊の炎で焼き尽くした。
その結果、多くの命が失われただけでなく星の環境を激変させ、生命を育める地ではなくなった。
星は嘆いた。自分の子である生命の死に、そして、その子らを育てられないことに。
さらには、自らの傷の深さに眠りにつかなくてはならないのだが、このまま放っておいたら生命の存在しない死の星になってしまうことに。
星は考えた。そして眠る自分の代わりに管理してくれるものを生み出すことを決めた。それが五大龍、星の力を受け継ぐものだ。
それだけでは足りないので生命を強化することを決めた。
魔法という力を全生命に分け与えた。
その結果、生命は過酷な環境下でも生きることが可能になった。
しかし強化された力を悪用もできてしまう。
知能が発達したがゆえに星を焼いた人間のように。
そこで龍を産み出すシステムを作り、人間を管理させた。
そうして、時が経ち、人類には二つの敵があった。星と人類の管理者たる龍、そして龍を生み出した星そのものだ。
主人公とファイナルドラゴンは、これら敵に攻撃を受けるうちに生まれた、人類種の突然変異体である。
主人公はこの星の影響を減らす、もしく受けなくすることができる、反魔法体質だ。性質としては、星に対するカウンター生物。
ファイナルドラゴンは、ドラゴンイーターという能力を持ち、龍を食べ能力を強化することができる。性質としては龍に対するカウンター生物だ。
主人公とファイナルドラゴン以外にもそういった能力を持つ者たちはいる。
主人公パーティーに入る仲間たちもそうだ。
能力の強さは様々だが、一応主人公とファイナルドラゴンの二強だとされている。
そんな本来は人類の救世主となるはずのファイナルドラゴンがどうしてラスボスになってしまったのかというと悲しい設定がある。
ゲーム内ではあまり語られないが、攻略本などに詳細が書かれていた。
地龍が治める地、その三番地の人間を取りまとめる家、スレイブ家にファイナルドラゴンは産まれた。
彼もしくは彼女の名前はゲーム内でも語られることはなかった。
その子は五歳の時、継承龍に襲われ、これを逆に食らう。
これは俺がさっき体験したことだ。
ここからはこの世界では未来のことになるが、ファイナルドラゴンは龍の腕を持った為に父親に監禁された。
そして父親に継承龍から得た知識を話すと人間ではなく龍に味方している、この子は呪われているとさらに厳重に監禁された。
そうして何年も監禁されているうちに心は病んでいき、さらに自らの能力であるドラゴンイーターが、というよりは力をつけた継承龍が心身を傷つける。
継承龍とは特別な龍だ。龍種最弱と言われ、その力は五歳児のドラゴンイーターのスキルで食われてしまうほどに弱い。
そんな弱い継承龍だが、龍内での地位は高い、なぜなら五大龍が倒された時にその力を受け継ぐという特別な役割があるからだ。
それはファイナルドラゴンに食われたとしても変わらない、いや能力としてはかなり劣化しているが。
ある時から、ファイナルドラゴンに食われた継承龍の力がどんどんと上昇していった。
主人公パーティーが五大龍を倒しだしたのだ。
その結果、継承龍の力は強くなり、精神的にかなり弱っていたファイナルドラゴンは龍の力に飲み込まれていくようになった。
五大龍が全て討伐された時にはファイナルドラゴンの自我は崩壊、主人公に討伐された五大龍の憎悪と力だけが残り、人間たちに滅びをもたらす存在となった。
それが俺の知っているファイナルドラゴンの物語。
よし、子供を信じられず、人類を破滅に導くことになったクズな父親でも煽りに行くか!




