9 親父の夢は俺が……
今、俺は決断を迫られていた。
それは、夢のマイホーム。
魔法の家、それはロストテクノロジーと現代魔法の融合。
魔法の家、それは持ち運べる家。
魔法の家、超希少で手に入れるには大金と運が必要な品。
それが今、目の前で売りに出されていたのだ。
親父はよく言っていた。
『マイホームってのはな、サラリーマンの夢なんだよ! 俺が転勤族じゃなければ家を建てたんだが……。だが、俺はいつか建ててやるぞ! 定年する頃までには必ず! もしかするとお前が働いて建てるほうが早いかもしれないな。よし、勝負だ!」
誰も家を建てるなんて言ってないのに子供のような笑顔で、『勝負だ』なんて言っていた親父を思い出してしまう。
そんなことを思い出してしまったら欲しくなってしまうじゃないか!
近くの街に行き、魔石などを売り払った。
街の道具屋が払えるお金を軽く超えていると思うのだが、大金を手に入れられた。
この辺りはゲームの設定通りだ。どういうシステムになっているのやら。
予定通り大金を手に入れた俺たちは、五番地ランダム屋を訪れた。
ここには本来、物語が進んでからでないと行けない。
よくある、鍵系アイテムを入手してから来れる店みたいな感じだ。
でも前から思っていたけど、隠れた名店どころじゃないよな、客を選びすぎて店としては機能していないと思う。
ゲーム時代もどうやって経営しているのか気になっていたが、この世界でもちゃんとやっているのだろうか? あれ、不安になってきた。
そんな不安を感じながら、ゲーム時代には超えられなかった高い壁を飛んで乗り越え、目的地にたどり着いた。
目的地の店、ランダム屋。
ここに並ぶ品は全てランダム。
大まかな確率はわかっていて約50%で極薬草、最高級の薬草でアイテムの説明文に全回復薬の材料の一つと書かれていた。まあプレイヤーは調薬などできないのでまあまあ良い回復アイテムという認識だ。
約33%で極魔薬草、こっちは極薬草のMP回復版だ。
約10%で極良薬草、これはHP、MP、両方を回復させるアイテムだ。多分良に両がかかっていると思われる。
それ以外の約7%にかなり良い物が振り分けられている。
今回の目当てであった各種状態異常無効化系装備、ダメージ遮断系装備、メーヤに必要な杖系の魔法補助武器なんかはなかった。
その代わり魔法の家が売りに出されていた。
ランダム屋で魔法の家が売りに出される確率は約0.01%。
ゲーム内では1日毎に品は変更されていたが、ここではどうかわからない。
それに1日に3品しか売りには出されない。
ここで逃せば、毎日ランダム屋に顔を出せたとして単純計算で10年は売りに出されないかもしれない。
ゲーム内では移動は難しくなかったし、宿屋で寝れば次の日だったが、今はここまで1日で来るのは相当困難だ。
それにここにある迷宮は中級やら隠しやらで難易度が高く、まだ拠点にはできない。
それらの条件に加えて、現在俺はこれがギリギリ買えるだけのお金を持っている。
魔法の家は、今はそこまで必要がないと言えるが、後で絶対に欲しくなるとも言える。
空を飛べる今だから移動速度も速く、遠くまで行ける。
これが他大陸では空を飛ぶ龍の群れがいたりして、空を飛んだら目をつけられて群れに襲われる。さすがに飛んでいる龍に勝てると思うほど楽観的ではない。
片腕しか使えなくなるし、ブレスを放てなくなるし。
そういうわけで次の街までの移動中に夜営をする必要が出てくる。
そこで魔法の家が必要になってくる。
ゲーム内ではセーフティーゾーン扱いとなり、敵にも襲われず、体力、魔力を回復できた。
こっちではどうなるかわからないが、ロストテクノロジー、元の世界より未来のテクノロジーを駆使して作られた家の可能性が大いにある。
風呂とか風呂とか風呂とか……
「お兄ちゃん、大丈夫?」
ユサユサと肩を揺すられる。
ハッ! 欲が暴走していた。
心配そうな顔で見られていた。
「ごめん、ごめん。ちょっと考え事をね」
「そうなんだ。何を考えてたの?」
さっきまでの表情が一転して興味津々といった感じだ。
「この魔法の家を買うかどうかをね」
「このおもちゃの家を?」
そうか、何も知らなきゃおもちゃの家にしか見えないよな。
ということでこれがいかに凄い品なのがを説明していった。
「お兄ちゃん、買おう! これは絶対に必要だよ!」
凄くキラキラとした目で言われた。
「お兄ちゃんとメーヤの家……二人暮らし!」
……小声で言ってはいるが聴覚も良くなっているのでバッチリ聞こえました。
まああれだよね、『二人暮らしぃ? 嫌!』と言われるよりは良いよね、きっと。
「でもこれ買っちゃうとお金がほとんど無くなっちゃうんだよ。装備とか買えなくなっちゃう」
「そんなのまた稼げば良いんだよ! お兄ちゃんとメーヤならすぐに稼げるよ!」
まあ確かに。レベルを確認して、それ次第では初級迷宮クリアを目指しても良い。
魔法の家を買えば、迷宮の途中、階段のある大部屋に設置して回復することもできる、かもしれない。
ゲームではできなかったが、魔法の家が入るくらいの大きさだったから設置できそうな気がするんだよな。
もしできたら一気に攻略が進むだろう。
できなくてもこれからの生活が楽になる、宿代いらなくなるし。
もうこれは買いだろう。買いだ。
「うんうん、お兄ちゃんとメーヤの家!」
ということで魔法の家、購入いたしました。
ついでに教会でレベルを調べた。
俺レベル23、メーヤレベル20、もちろん寄付はしなかったので睨まれた。
「ムム!」
俺が睨まれたからか、メーヤが睨み返してました。
でも迫力がなく、可愛らしかったからか、おっさんは笑顔になっていた。
ロリコンかもしれない……
「ああいうのはねロリコンって言って危ない人だから近づいちゃダメだよ」
少し離れたところで小声で注意しておいた。
「? わかった、お兄ちゃん!」
よくわかってなさそうだった。
まあメーヤは俺から離れない。
俺がよく注意しておけばいいだろう。
特にここの教会は要注意だな。
あと約10年、主人公たちが動き出す前にレベルを上げなければ。
それにもしかしたらそろそろ主人公たちについての噂も流れるかもしれない。
それとなく情報収集もしていくとするか。




