0 煽りすぎました
その日、俺は今日が何か良い日になる気がしていた。
早朝にレベル上げをしていたゲーム、『ファイナルドラゴン』では大して期待していなかったレアドロップが手に入り、朝のニュースを見ていたら、ミニコーナーの占いでも一位だった。
だから朝日を存分に浴びて、深呼吸をして少し早いが通学の為に家を飛び出した。
なのに━━これである。
いつもより一つ早い電車に乗っていたら目の前に足を怪我した人が乗って来た。
「どうぞ」
俺は快く席を譲った。
そうしたら、緩やかな動作しかできない怪我人を差し置いて女子高生が座りやがった。
流石にこれにはカチンときた!
「お前に譲ったわけじゃねぇんだけど!」
「ハァ?」
コイツむかつく! これでブスなら性格もブスかよとか煽れるのに美人系なのがさらにむかつく!
「お前頭おかしいんじゃねえの?」
「ハァ?」
ハァ? しか喋れないのかよ! しかも退かないし!
ここは煽るしかないな。このタイプにはこれだろう。
「怪我人に席を譲ろうとは思わないのか? 小学生だって知っているぞ。義務教育を終えてそんなこともわからないお前が哀れだ。そんなお前よりも、大切に育ててきた娘がこの程度に育って金をドブに捨てたお前の両親が哀れだ。お前の教育に携わってきた人々が哀れだ。この程度のこともわからない奴に必死で勉強を教えようとしていた教師は本当に哀れだ。お前の教育の為に金を出した市が、県が、国が、哀れだ。でもハァ? しか喋れないお前がやっぱり一番哀れなのかもしれない」
思いの外、長くなってしまった。
周りの目が若干、俺に対して不審者を見るような目に変化している気がする。気がするだけだよな?
「〜〜!?」
女子高生は真っ赤になっている。
プルプル震えている。座るんじゃなかった、変な奴に絡まれたと反省しているのかもしれない。
乗り換えの為に降りるまでじろじろと見ておこう。
乗り換えの電車を待ちつつ、スマホで小説を読んでいた。
あ、電車が来た。
━━トン
突然背中を押され、ホームに落ちながら振り返る。
さっき煽った女が俺を押していた。
反射的にその手を掴んだ。
俺と女が一緒に落ちる。
「煽られたくらいで殺人を犯すお前があわ……」
━━グチャ
一面真っ暗な闇。
どうやら煽りすぎて殺されたらしい。
あんなに煽るんじゃなかった……
ていうか、煽りすぎて殺された俺が哀れだ……
反省していると突然視界が開けた。
「????」
「????」
ビクッ━━ざわざわと意味のわからない言語で叫ばれているのがわかった。
周りを見渡すと3メートルはあると思われる巨人が重武装をして俺を囲んで叫んでいた。
ナニコレ? いや、よく見ると俺を守ろうとしている?
重武装の兵士らしき者たちが絶叫しながら武器を前に構えた。
そちらを見るとドラゴンが大口を開けて兵士と俺の左腕に噛み付くところだった。
「ギャーーー!!」
痛い痛い痛いイタいイタイ……
━━スキル『ドラゴンイーター』が発動しました。
あんなに痛かった左腕の感覚がなくなっていく、俺は死ぬのか?
薄れゆく意識の中で、神様、俺二度も殺されるなんて、何か罪深いことを犯しましたか? と考えていた。




