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レスキュー。  作者: 壱宮
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3.1011番

レスキュー隊員としての初日の朝。あまり使ったことのないオンボロエレベーターで、一気に五十階分下降する。三十階より下からは壁も天井も小綺麗になっていくのがエレベーターに付けられた窓から分かった。

同じエレベーターに乗り合わせた人々は皆赤紙を持っていて、不安そうな、そして複雑そうな顔をしていた。レスキュー隊員になることについて覚悟をしきれていない人もそれなりにいるんだろう。けれど赤紙が届いたからには、辞退することは出来ない。病気や怪我などのそれなりの事情があれば別だがそもそもにそういう人達は選考外なので、選ばれた人々は大抵もやもやした気持ちを抱えながらもエレベーターに乗り込んでひたすら下降するしかないのだ。

チリン、とエレベーターのベルが鳴る。ふと見上げると10という文字が光っており、十階に着いたことが分かる。開いたドアを見つめて、息を飲む音が数か所から聞こえた。


「…………行くしかない」


知らない、私より少し若そうな男の子の声が聞こえた。それを聞いて前の方に立っていた人が足を踏み出す。それに続いて、その後ろも踏み出す。一番後ろに詰め込まれていた私はエレベーターから出ていく人々を後ろから眺めて、拳を握りしめている人が多いなぁとぼんやり思った。

エレベーターから出て、白い壁の通路を歩く。少し行くと道の脇に体格の良い男性二人が立っており、そこを通る人々の赤紙を確認して何か指示をしているようだった。赤紙には集合場所は十階としか書いていなかったから、あの男性達が詳しい行き先を教えてくれるのかもしれない。私も前にいる人と同じように男性のところに行き、赤紙を提示する。男性は赤紙をじっと見て、「十一班ですね。この通りをまっすぐ行って左手にある1011番の部屋になります。部屋で本人確認をして頂き、班長の指示を聞いてください」と言った。とりあえず軽く頭を下げて、男性に言われた方へと足を進める。各部屋に下げられた部屋番号のプレートは綺麗なもので、私が住んでいる部屋にかけられているものとは全く違う。そのプレートの中から1011と書かれたものを探し出して、それがかけられたドアを控えめにノックした。


「入れ」


低い声が聞こえた。思ったより無愛想な返事に一瞬体を強張らせる。「入れ」の一言だけで判断するのは良くないかもしれないが、以前勤めていたところの上司よりも高圧的な人が中にいるに違いない。それでもドアの前で突っ立ったままでいる訳にもいかなくて、覚悟を決めて「失礼します」と声を出してドアを押した。

まず目の前に飛び込んできた光景は、大きな机に置かれた二つの拳銃と一つの狩猟銃のようなもの。そして椅子に座って足を組んでいる、兄弟のお下がりのようなぶかぶかな服を着ている男性……だった。


「……は?」


思わず声が出る。銃はいい。レスキュー隊員がこのような武器を使っているということは義務教育中に学んだことだから。けれど目の前にいるこの男性は、なんだかちょっとおかしい。態度が大きい割にぶかぶかな服を着ているし、それに顔がとても若く見えるためぱっと見では上司になんて見えない。そして座っているから正確なことは分からないけれど、身長も私より少し大きいくらい、といったところではないだろうか。

私の失礼な声に、その男性は眉根を寄せる。けれど一応手元にあった書類に目を通し、私に向かって口を開いた。


「タチバナリッカ、b-6025番だな。書類の写真と顔が一緒、よし。本人確認終了だ。他の奴が来るまでその辺の椅子に座っておけ」

「は、はい」


言われるがまま、私はドアの一番近くにあった椅子に座る。暫くそのまま待っていたがなかなか他の人が来なくて、少し気まずい。普通の人と気まずい空気なだけならまだ良いのだが、この上司とおぼしき男性は普通の人っぽく思えない。だから気まずい空気が更に気まずく思える。男性は他の書類を見ながら、目を細めていた。なかなか到着しない他の班員の書類なのだろう、その目は「早く来い」とでも言っているようで、ちょっと怖い。


「あ、あの」


せめて居心地の悪い沈黙を何とかしようと、男性に話しかける。男性は目を細めたままこちらを向いて、「何だ?」と息を吐くように言った。


「えっと、貴方は……私の上司ですか?」


これまた失礼な言い方かもしれないと思ったが、咄嗟に出てきた質問がこれなのだから仕方がない。男性の反応を見るのが少しばかり怖かったが、彼は小さく頷いた。


「上司だ。それ以外だったらおかしいだろう」

「今回配属された方かなぁ、とも思いまして……」

「その場合、何故俺がお前の本人確認をするんだ?」

「まぁ、それもそうですよね」


あはは、と笑ってお茶を濁す。やっぱりこの人は上司で間違いなかったようだ。当たり前といえば当たり前なのだが、私より若そうなこの人が上司というのは変な感覚だ。実際私より若いのかもしれないが、初対面で年齢を聞くのはさすがに気が引けた。


「じゃあ……十一班の班長ですか?」


今度はこんな質問をしてみる。すると、上司は首を横に振った。


「いいや、班長は別の奴だ。新人より遅れて来る班長だから、期待すんなよ」

「あ、はい」


どうやら班長は、まだ来ていない別の人らしい。それは納得したけれど、この人より格上の「班長」は一体どれだけ高圧的な人なのだろうか、と少し不安になった。


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