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レスキュー。  作者: 壱宮
2/5

1.食堂にて

「赤紙って……あー、でももうそんな時期か」


五階ごとに設置されている食堂で、友人と夕食をとる。ポトフを食べながら先程届いた赤紙を見せると、友人はなんだか複雑そうな顔をしてみせた。


「ナツのところには赤紙届いてなかった?」

「私? 来てないよ。ていうかレスキュー隊に入りたい訳でもないし」


ナツはショートボブの髪をふるふると振って否定する。そして食べているカレーについていたスプーンをひょい、と私の方に向ける。


「ていうか、レスキュー隊に入るのに抵抗がないリッカの方が珍しいよ」


ナツはそう言って、続けざまにカレーの中に入っている大きな肉の塊を二口ほどで食べる。私はそれを見ながら、そうかな、と声を出した。

確かに食堂を見回してみると、他にも赤紙が届いている人がいたのか、なんとなくいつもと雰囲気が違った。嫌だと嘆いている人や、金のためにはやるしかないと自分を奮起させようとしている人、はたまた赤紙で紙飛行機を作っている人もいる。レスキュー隊に任命されて嬉しそうな人もそれなりにいるだろうと思っていたが、見回す限りそんな人は少数派だった。


「なんで皆そんなにレスキュー隊になりたくないんだろう。食堂勤務や郵便配達員、建物の建設者よりも給料はいいし、それにあのQにだって捕食される可能性は低いのに……」

「捕食される危険がちょっとでもあるから行きたくないんでしょ。地上には伝染病も蔓延してるだろうし、危険だから給料も高いのよ」


ナツの冷静な分析を浴びせられると、なるほどそれもそうか、という気がしてきた。


この土地に住んでいる人々が何故高い建物を造り、そしてそこに住んでいるのかということには理由があった。

十年前、この土地に謎の伝染病が流行るようになった。発症すれば体の免疫力が低下し、致死率は40パーセントを超える。人々は恐怖した。それとほぼ同時期、地上に奇妙な生物が現れ始めた。体長30センチほどの、愛玩動物のような少し可愛らしい生物。しかしこの生物は人を捕食した。人間が半径二メートル以内に近付くと、平常時の十倍ほど肥大し、人間を丸呑みにする。伝染病と同時期に現れたため、恐らく伝染病はこの生物がもたらしたものだと思われる。そしてこの生物の横から見た姿は、アルファベットの「Q」に似ているという理由でQと名付けられた。「、」の部分は尻尾に見立てているらしい。


「まぁ、百歩譲ってQの危険性は分かるけど……伝染病に関しては地上でも空でも変わらないんじゃない」

「でもこうやって地上から離れて生活し始めて、発症者は減ってるのよ? 土壌が汚染されてる可能性が高いわ」

「そう言われると、それっぽく思える」


ふぅ、と息をついてポトフのスープを啜る。それっぽいというか真実だろうけど、とナツは言ったけれど、それはもうどうでも良かった。


「それでも私はレスキュー隊に入るよ」

「……何がリッカをそんなに突き動かすのかな」


ナツは最後に女の子とは思えない仕草でカレーの残りを掻きこみ、諦めたように笑ってみせた。

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