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護衛 其の一





「で?今回のエリーの護衛は?まさか、カーミラと私たちだけじゃないんでしょ?」


「ええ、勿論よ。それでも良かったかもしれないけどね。いえ、むしろそっちの方がよかったかもしれないわね」


 そう言って、はあ、と溜息をつくエリシア。


「その様子じゃ、あんまり腕とかよくない感じ?」


「いえ、そこそこ腕は立つわ。ただ、性格がね…」


「げ、それって一番メンドいんですけど。そいつらは?」


「ミール子爵家の次男坊とスミス男爵家の三男坊ね。ようは身の程知らずのお坊ちゃんよ」


 ユナとエリシアの話を聞いていて、シグレスはユナがいつも通りの口調でいることにほんの少し驚いていた。ユナもシグレスほどではないが、外面というものがある。まあ、取ってつけたような敬語だけで、十分言い方はキツいので、あまり変わらないが。

 というか、最後のエリシアの言葉に、ああやっぱりあの国王の娘なんだなと確信した。早くも清純系のイメージが壊れつつある。まあ、ユナの親友というくらいだから、一癖あるとは思っていたが。


 その間、カーミラと傍で控えている侍女は口を挟むでもなく、静観している。シグレスも挟む気は全くないが。


 というより、カーミラも腕が立つだろうが侍女もどう考えても只者じゃない。一つ一つの動きにどことなくキレがある。戦士や魔法使いといった、戦闘技術というよりも目立たないようにするための技術。どちらかというと暗殺者の類だ。茶髪のふんわりしたショートなのに、無表情って、ミスマッチだろ。綺麗な人なのだが、なんだか怖い。


「そいつらは?今どこ?」

                                         

「一番最後に合流する予定ですので、門のところで待ってもらっています」


「そう。それで今回のはどうすんの?エリーのことだし、なんか考えてんでしょ?大人しく護衛されときゃいいのに」


「あら、ユナといえども私の命を完璧に預けるわけにはいきませんわ。やれることはやっておかないと」


「はいはい。御託はいいから。それで?」


 内心、よく不敬罪にならないな、と思いつつ、護衛される側が作戦考えるって何かおかしくね?とも思ったが、気にしたら負けな気がするので、聞き役に徹する。


「そうね、今回の重要なところは隠密ってことだから、普通の馬車は使わないわ。使うのはあくまでも行商が使うような馬車。ようは幌馬車ね。そこに偽装用の荷物やらを適当に載せて、ローブを被った状態で私とユナが荷台に。御者は侍女のハネットが。そして、先行する形で合流したお坊ちゃんたちが。そして、後方にシグレス様とカーミラがそれぞれ馬に乗って進む。という隊列で行きたいと思うのだけれど。後は細かいけれど、カーミラがつけているような軽鎧を皆がつけることくらいかしら。あまり、重装備でも逆に怪しまれるし」 


「いいんじゃない?私が考えるよりもエリーが考えたほうがいいに決まってるし」        


「全く、ユナも少し考えてよ」


「合流する坊ちゃん達がいらない。エリーも戦えば、その二人必要ないと思うけど」


「護衛されるのに戦ったら本末転倒じゃない。それに、近距離戦は苦手だしね。何かあったら困るのよ」

 

「よく言うわ。私と魔法で張り合う時点で十分ヤバいレベルだと思うけど」


 ユナは宮廷魔術師クラスの魔法は使える。それと張り合うって…あの国王といい、ここの王族は人外かよ。気にしたら負けだ。

 つーか、ユナのさりげない自慢がウザい。


「シグレス、アンタ後で殴る」


 ……理不尽だ。残念美少女勇者(笑)のくせに。


「ぜっっったい、殴る」


 ごめんなさい。つーか、何で考えてることわかるんだよ。


「ユナ、流石にそれは横暴でしょう?というか、シグレス様は何も仰っていませんよ?」


「どうせ、よからぬ事を考えていたんだし、別にいいのよ」


「とんでもございません。エリシア殿下とユナ様のお顔があまりに美しく、見とれてしまっていただけでございます」


「あら、お上手なのね」


「ありのままを申し上げただけでございます」


 二人とも、中身はともかく、外面だけはいいからな。ユナは残念だし、王女は腹黒っぽいし。


「……ユナ、後でシグレス様と魔法の練習をしたいのだけれど」


 だから、何でわかるんだよ!というか、侍女さんの視線がこちらに突き刺さっている気がする。やめてください。そんな目で見ないでください。謝るので許してください。



◆◆◆◆



 とまあ、紆余曲折がありつつ、宿から出て、宿の厩舎にあらかじめ用意してあった幌馬車に王女とユナが乗り込み、カーミラとシグレスは門を出るまで、馬を引きつつ、いよいよ出発。街道を進み、門の前に到着。そこにいたのは、


「ふむ!これが今回護衛する馬車というわけだな!オリバ!」


「そのようですね!シギル様!」


 そこにいたのは馬鹿二人と馬二頭。大声で叫んでどうする。隠密って連絡いってないのかよ。


「もう少しお静かに願えますか?」


「おおっと、これはこれはカーミラ嬢。申し訳ない。まあ、安心召されよ!この私がいるからには完璧にひ…いや、護衛をやり遂げてみせましょうぞ!」


 おい、今姫って言いかけたろ。隠密って言ってるだろうが。こいつらと護衛するの?すげー嫌だ。典型的な坊ちゃんとコバンザメじゃん。ホントに役に立つのだろうか?カーミラも静かにしろって言ったのに、未だに大声のシギルとかいう奴に若干イライラし始めている。


「カーミラ様、とりあえず門を抜けましょう。話はそれからです。ここにいつまでもいれば、怪しまれます」


 できれば、口を挟みたくなかったが、このままだと、重要な情報までばらされかねない。そうなったら隠密なんて言葉がどこかに飛んでいってしまう。すでに飛びかけているが。


「む、貴様は「そうですね。シギル殿、オリバ殿、一度、門の検査を通って、話はそれからにしましょう」…あ、ああ、了解しました」


 カーミラもこのままだとまずいと思ったのか、シギルがシグレスに対し何か言おうとしたところを遮り、強引に話を進める。

 …ユナ、イラついてるだろうな。


 それから、門の検査は難なくクリアし(事前に知らせていたらしく、中身の検査もなかった)、門の外へと出て、街道を進む。

 しばらく進んだところで、道を外れ、目立たないところまで移動する。


「ここまで来ればいいでしょう。では、改めて、バルトルン伯爵家、カミーラ=バルトルンです」


「ソルホート子爵家、シグレス=ソルホートです」


 挨拶が適当なのは、男だからではなく、面倒だからです。決して他意はありません。


「ふむ!ではこちらも挨拶せねばなりませんな!私はミール子爵家が次男、シギル=ミールでございます。今回のひ…いえ、行商の護衛任務、見に余る光栄!」


「同じく、スミス男爵家が三男、オリバ=スミスでございます!今回の護衛任務、誠心誠意尽くしたいと思います!」


 おい、また姫って言いかけたろ。つーか、姫って王女に対して馴れ馴れしくないか?普通、殿下とかだろ。つーか、門から出たからって、大声出していいわけじゃないだろ。考えろよ。マジでこの二人いらなかったんじゃないだろうか。


「…声を落としていただけますか。今回の任務の要となるべきことをお忘れですか。それから、そのためにもここから目的地まで家名のことは言わないように。私たちが貴族だとばれるわけにはいきませんので」


 何か、カーミラの声がシグレスと会った時よりも声が平坦で冷たい。多分、内心かなりイラついてるんだろう。気持ちは非常によくわかる。しかし、大して反省もしていない様子で、シギルが口を開く。


「おお、これは申し訳ない。して、隊列はどのように?」


「シギル殿とオリバ殿が先行する形で、私とシグレス殿が後方から追う形にします」


「お待ちください!」


「……何ですか?」


 滅茶苦茶面倒くさそうに答える、カーミラ。仮にも王女が考えた隊列だ。意見されて尚の事イラっとしたんだろう。


「なぜ、シグレス殿なのですかな?同じ子爵家ならばこの私こそが後方でカーミラ様と共にいるのがふさわしいかと存じ上げます」


「その通りですね、シギル様!」


「は?」


 思わず、声が出てしまった。ふさわしい?何言ってんだコイツ。つーか、家柄的に下のオリバが煽るって、馬鹿なのか?普通なら自殺行為だぞ?


「ふん、わからんのか!これだから文官上がりは困る!武官の家柄である我が誇り高きミール子爵家の方がカーミラ様の助けになると言っておるのだ!」


 出た。出たよ。お坊ちゃん発言。つーか、確かにミール子爵家は武官で、シグレスのいるソルホート子爵家は文官よりだが、ソルホート子爵家はシグレスが転生で浮かれていた時にノリと勢いで色々やらかしてしまい、他の子爵家とは一線を画している。それこそ、下手な伯爵家よりも上だ。まあ、両親も止めるどころかノリノリだったが。ここでこの馬鹿に痛い目を見させてもいいが、今ここで喧嘩腰になるのは少し不味い。


「はあ、しかし、今回の隊列を考えたのは私ではありません。ここにいるカーミラ様ですよ?それに意見するということは上官の命令、ひいてはバルトルン伯爵家に対し意見するということになりますよ?」


「な!そうは言っておらぬ!ただ、貴様よりも私のほうがふさわしいと思っただけで……」


「それを決めるのはあなたではなく、作戦立案者ご本人です。私がカーミラ様を補助できるなどという恐れ多いことは言えませんが、決められた以上、それが最善と思われたということです。それに、逆に言えば、あなた方はカーミラ様の御力がなくとも、それができる実力に足りうると判断されたわけでもあります。そうですよね、カーミラ様?」


「……あ、ああ、その通りだ。それが最善と判断した。だからこそ、この隊列だ」


「だ、そうですが?」


「…ふ、ふん、そのようなこと貴様に言われずとも予想はしておったわ!いくぞ、オリバ!」


「あ、はい!シギル様、お待ちください!」


 ふう、何とかスムーズに乗り切った。最後に忌々しげにシギルが睨みつけてきたが、シグレスは変わらず、貼り付けた笑顔のまま見送ってやった。

 

「あなたは……いえ、何でもありません。進みましょう」


 カーミラが呆れたような視線をこちらに向けてきたような気がしたが、それも気のせいだろう。


 というわけで、無事に出発できた。少しだけ侍女で御者のハネットさんの視線が柔らかくなったのは、非常にホッとした。彼女の中で少し、評価が上がったらしい。


 そのまま、馬車に離されないように馬を走らせる。余談だが、転生してから馬に乗るのは本当に苦労した。これは練習しないとスピード出せないし、練習したらしたで、相当股が痛かった。足もプルプルするので、しばらくは剣術の練習ができなかった。まあ、慣れるとなかなか楽しかったが。


 ペースが速い気がするが、学園のある都市まで三日近くかかるのだ。速いことに越したことはない。

 とりあえず、一日目は何事もなく進みそうで、内心ホッとする。このまま行けば、日暮れには街に到着して、今日は宿で泊まれるかもしれない。二日目は残念ながら野宿になりそうだが。



◆◆◆◆



 そして、シグレスの予想通り、日が沈む前には道中の小さな町に到着し、宿に泊まることができた。しかし、目立たないようにするために高級な宿には泊まらず、一般的な宿に泊まったのだが、馬鹿二人がグチグチと文句を言ったようで、カーミラとユナとハネットに睨まれていた。エリシアは笑顔こそ保っていたが、後ろから黒いオーラが出ていた。


 ちなみに、部屋割りはというと、


 ユナとカーミラ|ハネットと王女|シグレス|馬鹿二人


となった。そのせいで、シギルがこちらを睨んでいたが、因縁つけられても困る。

 ハブられている気がするのは気のせいだと思いたい。一部屋に二人なのだから仕方ない。どうしても一人余ってしまうのは仕方ない。馬鹿二人のどちらかとは嫌だし、女性陣と相部屋なのも問題があるだろう。………学園に戻ったら、もう少し、友達を増やそうと思った。男友達が少ない気がする。



 その日の王女護衛はそのまま何事もなく終了した。

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