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放課後の風景

「ハッ、金髪ビッチはそこらへんの男引っ掛けて、またがりながら耳障りな喘ぎ声でも出してろ!」


「はぁ?あんたみたいな銀髪ネクラは、日々生きてるだけで無駄なんだから、呼吸とかしないでくれますぅ!?」


 歩きつつもよくそんなに口が動くなぁ、と思いつつ、そろそろ周囲の目がきつくなってきて、我関せずを貫くのが難しくなってきたので、


「はぁ、お前らいい加減にしろ」


 そう言って二人の頭を叩き、強制的に黙らせる。


「へぶっ」


「ぐえっ」


 うら若き乙女とは思えない声を出して、頭を押さえる二人。スパーン、といい音がしたので、さぞ痛かったことだろう。当然の報いだ。


「女の子に対し、そりゃどうかと思うぞ、シグレス」


「すみません、どなたですか?」


「え?ちょっ、酷くない?クロウだよ?クロウ=ラグロだよ?」


「声のした方向を見れば、性病患者がいたので、適当に流そうとしたが、面倒なことに絡んできた」


「マジで酷くない!?あと、ツッコミどころ多すぎて、どうすればいいのかわかんないんだけど!?」


「そうだなあ、俺の視界から消えればいいんじゃないかな?」


「いや、『かな?』じゃなくてね?いや、うん、もういいや………」


 さめざめと泣き出したクロウをシカトしているうちに、頭を叩かれた二人が復活していた。


「何するんですか!?こんなうら若き乙女の頭を叩くなんて!」


「そうよ!しかも美少女の!」


「美少女?乙女?それは私の辞書の中には顔のみならず、御心まで美しい女性のこと指すのですが、そのような方たちがどこにいらっしゃるのですか?」


「「ムキー!!」」


 嘲笑とともにシグレスがその言葉を送ると、二人の顔が真っ赤になる。やはり、息がぴったりだ。実は仲がいいのかもしれない。

 やがて、そんな他愛のない(?)会話をしつつ、学園を出た四人は朝にユナと訓練していた場所へとたどり着く。


「つーかさ、何でユナとクロウがいんの?帰れよ。特にクロウ」


「何で特に!?」


「いいじゃない、減るもんじゃないし」


「俺の精神力が減るんだよ。お前とサミュエルが喧嘩するたびにな」


 ここに来たのはサミュエルとの訓練のためだ。

 シグレスは朝はユナと、放課後はサミュエルと、といった具合に二人と訓練することを約束していた。なぜそんな経緯に至ったかは色々とあるが、そこは割愛。とにかくそういうことなので、ユナがサミュエルと訓練するところに来るのは全くないとは言わないが、珍しいことではあった。

 ちなみに、クロウは時々覗きに来ている。うざいことこの上ない。

 

「はあ、ま、いいや。とっとと始めるぞ、サミュエル」


「せっかちな人ですね。早漏ですか?」


「お前、女って自覚ある?」


「失礼な人ですね。ちゃんとありますよ。ほら、時間がもったいないので、早く準備してください」


「…………」


 納得はいかなかったが、これ以上反論しても、シグレス自身が傷つくか、無意味な結果に終わってしまうので大人しく諦める。

 そして、互いに準備し、構えようとしたところで、


「では、始めましょうか」


「何で真剣なんだよ!本日二回目だぞ!帰るぞ、コラ!」


「チッ」


 デジャヴ。激しいデジャヴだ。

 疲れる。本当に疲れる。このままだと、遠からずシグレスの胃に穴が空くこと間違いなしだ。


「では、行きますよ」


 渋々、木剣に持ち替えたサミュエルと対峙し、シグレスも二刀を構える。 そして、その言葉とともに、サミュエルは突出してくる。

 次の瞬間には、素早くシグレスの眼前に現れ、ユナ、あるいはシグレスよりも速いかもしれない剣速で突きを繰り出す。

 それを最小限の動きで避け、避けきれないものは木刀で剣の腹を打つことで切先を逸らし、受け流す。


「くっ、やりますね」


 一向に当たる気配のないことに焦れたのか、サミュエルはもう一段階剣速を上げる。

 頭、喉、腹、手首、太腿、脇。

 あらゆるところへと正確無比に放たれる凄まじい速さの刺突がシグレスを襲い、ついにはシグレスの防御を抜け、腕を掠める。


(よし)

 

 しかし、そこでシグレスは勝利を確信した。

 確かにサミュエルの剣は速いし、正確だ。しかし、戦闘において、焦れて速さを無理やり上げたりするのはタブーだ。事実、少しではあるが、正確さが欠け始めている。所詮、次期魔王といっても、十三歳のガキなのだ。すぐに冷静さを欠く。

 そして今なら、わざと見せた隙にさえ、簡単に引っかかる。

 予想通り、わざと隙を作った、左脇腹へと刺突が迫る。そして、防御から一気に攻勢へと転じた。

 勢いよく体をひねり、一回転。

 その際に右の刀で空を切るサミュエルの剣の腹を強く打ち据える。

 そこでバランスを崩したサミュエルへと、空いた左の刀を―

 

 一閃。


「…参りました」

 

 ヒュウ、と、茶化すようなクロウの口笛が響く。

 左の刀はサミュエルの首筋につきつけられていた。

 サミュエルの言葉を聞き届け、刀を下ろす。


「お前、肝心なところで冷静さを欠くよな」


「むぅ、うるさいですね。自覚してますよ」

 

 シグレスの言葉に不満げなサミュエル。

 そうして、彼女はしばし黙考し、気を取り直したのか、


「うん、OKです。先輩、もう一戦お願いします」


「りょーかい」


「次は楽に勝てると思わないでくださいよ?」


「んなこと、思ったの一度もねえよ」


 いつもなら、騒ぎ出すユナもこの時ばかりは少しでも自分に活かそうと貪欲に戦闘を観察している。

 だからシグレスはこの二人との戦いを避けようとするのだ。この二人は常に力に対し、貪欲で次の瞬間には全く違う成長を遂げる。だからこその『天才』。だからこその『勇者』で『魔王』なのだ。


 そして今も、目の前の『魔王』は先程よりもずっと冷静で、ずっと貪欲な色に染まった赤眼をシグレスへと向けていた。


(ま、やるだけやりますか)


 どこか諦めのような感情で再び突出してくるサミュエルと剣を交わし始めた。


「うひぃ、やっぱ、やべえな。あの二人」


「………………」


 どこか呆れたような口調のクロウとは対照的に、ユナは黙したまま二人を見つめ続ける。


 踊るような『魔王』と『戦士』の剣戟に、『勇者』はただ静かに、ただ貪欲に、その碧く、美しい瞳を向けていた。

前回の話で主人公が「雷魔法」使ってましたが、あれは基本、奥の手的なヤツなんでほとんど使わせないつもりです。

あれ使ったらそれこそチートなんで( ̄▽ ̄;)。

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