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学園 其の一

遅れてすみません。更新速度は期待しないでください。






「そろそろ時間だし、切り上げるぞ」


「えー」


「やるなら、一人でやってくれ。俺は食いっぱぐれるのはゴメンだからな」


 ユナにそう声をかけると、不満そうに頬を膨らませた。

 朝からこんなにも動いたのだ。朝食を逃したら、昼まで持つ気がしない。

 シグレスの暮らす寮の寮母は時間厳守がモットーであり、遅れればその時点でアウトなのだ。

 それに、汗もかいた。できれば、軽く水浴びもしておきたい。


 そう、二人は汗をかいていた。それも滝のように流している。それだけで二人の訓練がいかに激しかったかが、窺い知れる。

 繰り返しになるが、汗をかいているのだ。ユナの服はぴったりと貼り付き、身体のラインを見事に浮かび上げていた。

 ユナはこの年にしては胸が大きい。というか、ぶっちゃけ巨乳だ。

 しかし、残念なことにそれに対し、ちっとも食指が動かない。

 どうも、長い時間を共に過ごしたせいで、そういう目で見れなくなってしまっているのだ。


「ほらほら、美少女勇者の巨乳だよ?どう?興奮した?」


「俺の好みはお姉さん系で巨乳なんだよ。てめえみたいな乳臭いガキの巨乳はただの宝の持ち腐れだ。生まれ直せ」


「んだと、コラァ!」


 ブチギレたユナに腹パン入れられましたとさ。


 余談だが、そのせいで朝食にはありつけず、寮母さんに、


「時間厳守だぞ★」


「何、★入れてんすか。歳考えてくださいよ」


 という会話の後、本日二回目の腹パンをいただきました。




◆◆◆◆




「やばい。このままじゃ死ぬ。死んでまう…」


 シグレスは本日の朝食こと、腹パン二発とお水を二杯をいただいたあとに、体を拭いたあと、元凶であるユナと共に学校へと向かっていた。


「あれは女性に年齢ネタをふる、アンタが悪い」


「その前はお前のせいだろうが」


「アンタがデリカシーがないのが悪い」


「お前には言われたくない」


 などと他愛のない会話している内に、巨大な建造物が見えてくる。


 王立シルゼヴィア学園。この白を基調とした学園は、シグレスたちの暮らす、ここシルゼヴィア王国によって創立された学校であり、魔術、剣術、体術、教養など幅広くも、専門性の高い講義を受けることのできる学校だ。

 何よりも特筆すべき点は、成績が優秀でさえあれば、たとえ平民でも入学を許されるという所だろうか。

 だからこそ、シグレスはここを選んだ。もともと、転生者であるシグレスはあまり、この世界の貴族と平民という身分の分け方が好きではない。

 貴族の学校というのもあり、子爵家であるシグレスはそちらにも行くことができたのだが、そういうこともあり、こちらを選んだ。すると、何故かユナまでついてきたのだが。

 ユナのノーレンス家は勇者の一族ということもあり、公爵家というかなり偉い貴族様なので、てっきりそちらへと行くと思っていた、シグレスとしては完全に誤算だった。

 現に、他の勇者の一族(・・・・・・・)はその学校に所属している。


「シグレス、アンタ今日の授業は?」


「んー、歴史学に、中級回復魔法、上級剣術、魔力操作、上級体術、薬草学だな」


「ふーん。んじゃ、一緒になるのは剣術から体術までかしらね」


「だな」


「シグレスも攻撃魔法とればいいのに。使えるわよ?」


「てめえと一緒にすんな。回復魔法だけで手一杯だ」


「ま、いいけど」


 そんな軽口を叩きあっていると、校舎内に入る。それと同時に、


(またか…)


 あちこちから視線を感じる。主にユナのせいだ。シグレスも大分慣れては来たが、だからといって、注目を浴びたいわけではない。

 勇者の一族というのはそれだけで注目される存在なのだ。一度、あまり一緒に行動するのを避けたい旨を伝えたのだが、ものの見事にシカトされた。それ以来、もう諦めている。


「気にしなくてもいいのに」


「俺は神経細いからな」


「よく言うわ」


 ユナが注目されるのはそれだけではない。

 この学校では、年に一度、『剣聖祭』、『魔導祭』という二つの行事がある。簡単に言ってしまえば、勝ち抜き戦のトーナメントなのだが、名前からわかるように、それぞれ体術や剣術などの格闘術のみと魔法のみしか扱ってはならない、という制約がある。

 そして、ユナは昨年、その二つで優勝したのだ。確かに二つに参加することはできるが、その二つで優勝というのは前例がなかった。その前例を作ってしまい、名実ともに『勇者』というスターとなったのだ。


 ちなみにシグレスは『魔導祭』は参加資格を満たしておらず、『剣聖祭』は体調不良を理由に不参加だった。

 実際のところはサボって、屋台を営んで、小金を稼いでいただけなのだが。

 あとでユナにバレてぶちギレられたのは笑い話で済むだろう。


「あ~あ、あんたが『剣聖祭』にさえ参加してればなあ~」


「それを文字通りに後の祭りっていうんだよ」


「いや、別に上手くないから。ホント、なんで参加しなかったのよ」


「だから、前にも言ったと思うけど、目立ちたくねーの」


「そんなことで私との公式での試合を放棄したっていうの?」


「何でそう、俺を公式戦に出したがるかねぇ」


「べ、別に特に理由はないけど…」


「んじゃ、いいじゃねえかよ」


「むぅ…」


 ユナを言い負かしている内に、別れ道に差し掛かった。


「またね」


「んじゃな」


 どちらからともなく、別れを告げ、それぞれが専攻する授業へと向かった。


 ここ、王立シルゼヴィア学園は十歳~十八歳までを対象としており、カリキュラムは生徒が自主的に組み、卒業に必要な単位を取っていく方式だ。

 カリキュラム は一年ごとに組み直しができ、卒業するだけなら、入学して地道に出席を稼げば誰でも可能だ。

 ユナほどに優秀な成績を収めていると、実はもう、卒業できちゃったりするのだが、本人曰く、


「アンタに剣で勝ったらね」


とのことらしい。


 その言葉を聞いて、喜びいさんで、負けたのだが、ぶちギレられ、腹パンを入れられただけだった。どうせえっちゅーねん。

 そんなことを考えつつ、一時間目の歴史学の教室に到着。


「あ、先輩。おはようございます」


 声の方へと振り向けば、美しい銀髪に赤い瞳。ユナとは対極に位置するような静的な美しさを持った美少女が座っていた。

 彼女の名前はサミュエル=ラグルース。ユナとは違う意味でかかわり合いたくない少女だ。

 なぜかと問われれば、彼女の本名がサミュエル=サタン=ルシフルだからと言えば分かるだろうか。

 

 そう、彼女は他ならぬ魔王の娘なのだ。







「ああ、サミュエルか。お前も歴史学だったのか」


「ええ、学園長に言ってカリキュラムに入れ込んでもらいました」


「おい、やめてやれよ。あのじいさん、そろそろ本気で胃に穴があくぞ」


「先輩みたいに問題児じゃないですから」


「そういうことじゃねんだけどなあ…」


 ちなみに、サミュエルは十三歳。シグレスの後輩にあたるので、サミュエルはシグレスのことを『先輩』と呼ぶ。

 次期魔王のくせに礼儀正しいのは親である魔王の教育が良かったからであるらしい。案外、教育パパだ。凄まじく違和感があるが。


「つーか、お前さんこういう授業とか受ける必要あんの?」


「私のトコでも結構、歴史というものが重視されるんです。魔国には遺跡の中とかにいろいろなものが残ってますし、覚えとかないと困るから、案外必須なんです」


「へえ、あんまそういうイメージなかったな」


「まあ、そうでしょうね。そもそも、魔族と人間では戦争以外の関わりが薄いですから」


 シグレスもサミュエルも基本、社交的な性格ではないのに、どうして親しげに話すまでになったかといえば、シグレスは『アルバイト』の途中、ふとしたことがきっかけで、サミュエルの秘密を知ってしまい、現在に至っている。

 これはユナでさえ知らない。知っているのはシグレスを含め、この国でもごくごく一部だ。


「んじゃ、俺は寝るから、後で書き写したやつ見せてくれ」


「授業が始まる前からそんな発言しないでください。ていうか、嫌です」


「俺、朝弱いんだって。つーか、ユナのせいで朝食食いっぱぐれて死にそうなんだわ。頼む、寝かせてくれ」


「知りませんよ」


「ほら、お前のイメージ変わるよ?一気に聖人君子にまでなれちゃうよ?」


「先輩からのイメージなんて変わったところで、どうせ卑猥なものでしょうし、どうでもいいです」


「おい、コラ、何決めつけてんだ。泣くぞ」


「いや、だって変態でしょう?」


「違うの?みたいなノリで聞いてんじゃねえ。つーか、てめえみたいな貧乳なんて対象外だ。対象外」


「あ゛?今、なんつった?」


「いえ、何も言っておりません。サミュエル様のご尊顔を拝見出来て光栄だと思った次第にございます」


「そうですか。いえ、今先輩が死にたい的なことを言ったかと思いましたよ。慈悲深い私は思わずその願いを聞き届けてあげるかどうか迷いましたけど、何も言っていないのなら良かったです」


「とんでもございません」


 危なかった。危うく死ぬトコだった。ラスボスといきなり戦うところだった。


「まあ、先輩がド変態の生ゴミ野郎なのはどうでもいいですけど」


「いや、ちっともよろしくねえよ」


「授業が始まるので、静かにしてください」


「……………」


 やがて、諦めて肩を落とすと、教師が教室に入ってきて、授業が始まった。




◆◆◆◆




 今現在、人間は魔族と戦争している。それは太古の昔から続いている純然たる事実だ。それにも関わらず、サミュエルはこの学園に所属している。

 これは裏で色々な駆け引きの末になった特例だった。もちろんのこと極秘であり、知っているのは国王、学園長、そして何故かシグレスの三人だ。あくまでもシグレスが知っている内ではだが。

 もしも、公になれば、いくら魔族たちとは停戦中とはいえ、国際問題どころではない。下手をすれば、この国自体が滅ぼされかねない、危険な綱渡りだ。

 しかも、よりにもよって、ユナと同等クラスの『天才』である、次期魔王なのだ。シグレスに言わせてもらえば、頭がイカレてるとしか思えない、馬鹿げたことだ。

 相応の理由もあるらしいが、シグレスはそれを聞くことを拒否した。ただでさえ面倒なことなのだ。ぶっちゃけ、これ以上巻き込まれたくなかった。


 こうして、二人の『天才』に挟まれている学園生活が今のシグレスの現状だ。

 そして、こんな二人が近くにいれば、いくら、シグレスが『転生者』とはいっても、自分が『特別』だという気持ちは急速に衰えていった。

 今や、英雄になろうだとか成り上がろうだとかいう気は全くなく、いかにして金を稼いで、遊んで暮らすかということしか考えていない。

 そのために学校に通い、あらゆる意味で『強さ』を身に付ける。それもこれも異世界ライフを謳歌するための布石なのだ。




◆◆◆◆




 やってくる睡魔との激しい攻防を繰り返し、無事歴史学の授業を終えた。ところどころミミズみたいな線が見られるが、なんとかノートも取れた。


 というわけで、お次は中級回復魔法の授業だ。

 繰り返しになるが、シグレスは魔力こそあれ、魔法の才能があまりなかった。だからこそ、使う魔法をたった二つに絞った。その内の一つが回復魔法というわけだ。

 そのおかげか、なかなかのスピードで取得し、中級回復魔法も粗方使えるようになっていた。もうすぐ、上級の繰り上がりも認めてもらえるだろう。

 まあ、どこかの某金髪と某銀髪は上級さえも(攻撃魔法含む)粗方習得し終わっているが。


「なんですか?何か言いたそうな顔ですね、先輩」


「いや、別に」


 某銀髪と共に歴史学を終え、途中までサミュエルと歩くシグレス。やはりというかなんというか、視線が集中している。

 サミュエルもユナに負けず劣らず有名人なのだ。『剣聖祭』と『魔導祭』には運悪く参加できなかったものの、参加していれば結果はまた違ったのではと言われるほどの謎めいた力を持つ、ルーキー。という認識を受けている。

 シグレスとしてはラスボス戦はよそでやってくれと言いたい。


「はあ、なんでこう、目立つんだろうな」


「周りが勝手に言ってることですから。どうでもいいです」


「お前らの神経の太さが羨ましいよ」


「先輩も大概だと思いますけどね」


「いや、俺極細だよ?最近、胃薬が手放せなくなってきたくらいだよ?」


 そんな会話をしているうちに、サミュエルと別れ、シグレスは次の授業の教室へと向かった。




◆◆◆◆




「ああ、眠ぃなあ。腹減ったなあ」


 そんなことをぼやきつつ、教室に入ると、


「よう、シグレス。相変わらず不景気なツラしてんなー」


 と、声をかけてきたのは、この国では最も多いであろう髪の色である、茶髪をセットし、アクセサリーをつけ、整った顔に軽薄な笑みを浮かべたチャラ男――もとい、クロウ=ラグロだった。


「話しかけんな、チャラ男。性病がうつる」


「持ってねーよ!」


 このチャラ男は軽薄な姿に似合わず、実は結構な名門である伯爵家の息子だったりする。

 そして、その恵まれた地位と恵まれた容姿で、日々、女性をナンパすることに心血を注ぐ男であった。

 休みの日に見かければ、隣には大抵(約95% シグレス調べ)女性がいる。女性が変わることもしばしばだ。しかし、男友達が少ないかというと、そうでもなく、むしろかなり多かったりする。

 なんだかんだで憎めないヤツ。それがこいつのポジションだった。


 まあ、シグレスは普通に嫌いだが。


「うるせーな。女に刺されろ」


「酷くない!?俺の扱い酷くない!?」


「モテる奴とイケメンは基本男の敵だ。すなわち、てめえは俺の敵だ。もげろ」


「何がもげるの!?ていうか、だとしたらお前も男の敵だぜ?」


「はあ?ユナとサミュエルのこと言ってんなら、お門違いだぜ。むしろ、代わって欲しいくらいだ。つーか、マジで代わってください。お願いします」


 鬼のような早朝訓練と魔王の口撃を代わりに受けてくれるなら、大歓迎だ。

 クロウはシグレスの反応に苦笑しつつも、返す。


「だが、断る。死にたくないからな。あの二人のことじゃねえよ。つーか、お前、自分が結構人気あるの知らねーのな…。まあ、あの二人がいて、アプローチなんざできねえか…」


「は?もっと大声で話せよ。それとも何か?ついに妄想で女の子と話せるレベルで頭がイカレたか?」


「ねえ、何?お前、俺のこと嫌いなの?」


「当たり前だろ。キモイこと聞くな」


「即答!?さらに追い打ち!?」


 なんてことを話している内に授業が始まった。




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