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護衛 其の三

部屋がようやく決まった…

マジでキツい…




 出発してから、しばらくの間はこれまでの二日間よりも少し遅いペースで進んでいく。

 

(異常なし、ね)


 ここまでの道中は拍子抜けするくらいに何も起こらなかった。

 現に、馬鹿二人はもうすでに終わった気で、


「どうだね、オリバ!やはり、私が姫の護衛をしたからこそ、ここまで上手く行ったと思わんかね!」

「全くですね、シギル様!」


 などとのたまっており、カーミラは既に諦めたらしく、もう注意する気も起きないようだった。


 そんなこんなでゆるゆると歩を進めつつ、最後の難所である道中の森を抜けようとしたとき――それは起こった。







「カーミラ様」


「分かっています。距離はありますが……どうやら待ち伏せを受けていたようですね」


 数は恐らくは二十数名。一気に突っ切るべきか、ここで一旦止まるべきか。

 確かに、カーミラの言う通り、距離はあるものの、恐らくは振り切れない。だとしたら、


「俺たち四人が先行し、道を作りましょう。そして奴らを引きつけている間に王女殿下、ハネット殿、ユナ様には突っ切ってもらいます。それで構いませんね?」


「ええ、行きましょう!」


「御意です」


 前へと馬を走らせ、カーミラと御者であるハネットに作戦内容を伝える。エリシアの安全を最優先で考えた上での布陣。さらに先に、敵が待ち構えている可能性もあるにはあるが、その時にはユナがいるので、少々の相手なら問題ないだろう。

 少人数という機動性を生かした作戦。本当にこれがベストなのだろうか?いや、考えている暇などない。とにかく今は王女の身の安全が最優先。


「オリバ殿、シギル殿、俺たちで道を作ります!いいですね!?」


「貴様の指図など受けるとでも「私の指示です。何か問題でも?」い、いえ、素晴らしいご判断かと…」


 カーミラが低い声音でシギルの言葉を遮り、前に突出させる。

 その後ろをシグレスとカーミラが追随する。


「しかし、若干地が出たようですね」


「へ?」


 カーミラの唐突な言葉に首をかしげるが、すぐに「俺」と言ってしまったことに気づく。


「あ、あはは…ここは一つ空耳ってことで」


「それは出来かねますね」


 わずかな微笑とともにそう口にするカーミラを横目で見つつ、自分の迂闊さを呪うシグレス。演技力はまだまだ精進が必要なようだ。


『シグレス、聞こえる?』


「うおっ、ユナか?つーか、いつの間に『テレボール』を俺の懐に入れた」


『え?ええっと、まあ、その、そんな細かいこと今はいいでしょ』


「いや、まあいいけども、それで?作戦に文句はねえだろ?」


『ええ、それは構わないんだけどね。ちゃんと追いつきなさいよ?』


「わかってる。それより、気をつけろよ。ここで仕掛けて来るってことは奴さん本気だぞ」


『ええ、そのようね…本当にふざけてるわ』


「怒るのはいいが、王女の身が最優先だぞ?」


『言われなくてもわかってるわよ。アンタなら大丈夫だと思うから、せいぜい襲ってきた奴に地獄でも見せてやりなさい』


「勇者とは思えねえ発言だな、オイ」


『勇者だから許されるのよ』


「魔王の間違いだろ。っと、そろそろ無駄話は終わりだ。しっかり頼むぜ」


『アンタは自分の身だけ心配してりゃいいのよ』


「ごもっとも」


 そう言って、懐で淡く光っていた、小さな水晶のような球は会話を終えると同時に光を失った。それと同時に声を潜めてのユナとの通信も切れる。本当にいつの間に入れたのだろうか。まあ、今は気にしてもしょうがない。


「カーミラ様、俺たちも行きますよ!」

「ああ!」


 そう言って、先行するシギル達を追う。

 馬車自体の防御も不安はあるが、恐らくはユナ一人でなんとかなるだろう。


 不安を押し殺し、馬を走らせる。それからすぐに街道脇の木々から幾人もの、深緑のローブをまとった者たちが、シグレスたちの前に姿を現す。


「き、貴様ら何者だ!」


 シギルが慌てたようにローブの集団に叫び、なんと止まろうとした。まさか敵の気配に気づいていなかったのだろうか。 

 そういえば、シグレスの言葉にも反論しようとしていた。普通なら気に食わなかろうが、言われた通りに動こうとするはず。バカだからと思っていたが、そもそも前提条件として間違っていたらしい。こいつらはただの素人だ。実戦経験もないのに王族の護衛?ますますきな臭くなってきた。


「止まるんじゃねえ!奴らは敵だ!そのまま突っ切れ、バカ!」


 つい、いつもの口調で叫んでしまう。ああ、遂に仮面が剥がれた。カーミラも隣でぎょっとしていたが、次の瞬間にはフッと微笑んだ。シギルとオリバは反論してこようとしたが、止まれば叩っ斬るとばかりにひと睨みすれば、慌てて前を向き、そのまま突っ切ろうとした。剣も抜かずに。


「剣くらい抜け!死にたいのか!?」


 何でいちいち指示しなければならないのだろうか。本当に叩っ斬ってしまいたい衝動をグッとこらえ、シグレスも左の腰の刀を抜き放ち、右手に構える。


「斬られたくなかったら道を開けろ!敵じゃねえなら、森に引っ込め!」


「「「「………」」」」


 しかし、誰一人として黙して語らない。それ自体がこいつらがただの野盗ではないと言っている証拠のようなものだ。一つ幸いだとすれば、シグレスやカーミラが距離があるときに気付けるほどに殺気を隠しきれてはいなかった。つまり、全員が全員プロの暗殺者だとは限らないということだ。


 そう思い、そのまま突っ切ろうとしたのだが、


「「「「ギシャアアアアア!!!!」」」」


 ローブをかぶった全員が突然、奇妙な声を上げる。そして、人間とは思えないような、獣じみた動きで一番前にいたシギルとオリバに襲いかかる。


「まさか、リザードマンか!?」


 カーミラが驚いたように声を上げる。それもその筈、本来、リザードマンはゴブリンやオークといったものと同様のモンスターの一種だ。硬い鱗に覆われ、鋭い爪を武器として扱うでっかいトカゲ人間だ。特徴としては比較的、独立行動を好むというのがある。

 そう、独立行動だ。普通はこのように集団行動などしないし、したとしても、せいぜい、二、三体だ。今回のように二十数体単位でなど行動しないし、待ち伏せといった作戦的行動などもってのほかだ。

 つまり、これが意味するのは、


「どっかに召喚士(サモナー)がいるぞ!」


 そう、これだけのモンスターを操れる者がいる。ということだ。召喚士とは魔法使いの一種でモンスターを召喚し、従わせ、それにより戦うという者たちを指す。魔法使いの中でも特に才能と魔力を持つものにしか扱うことのできない代物であり、失敗すれば、自分が襲われるリスクがあるために、行おうとする者も少ない。出来るとしたら宮廷魔術師クラスかそれ以上。随分と厄介な手合いだ。それに、こいつらはゴブリンやオークよりもなまじ独立行動を好むため、一対一の戦闘で言えばそこそこ強い。


(どうする?召喚士を最初に探すべきか?)


 いや、それは道を作った後にするべきだろう。まずはここから王女を離脱させる。その目的は変わらない。


「やることは変わらねえ!道を開く!」


「ああ!」


 叫び、カーミラもまた同意する。そのまま突出し、


「氷結の意思よ、彼の者に凍てつく槍を!その身を砕け!【グレイシルランス】!」


 カーミラが詠唱をし、魔法を行使。カーミラの周囲に五本ほど氷の槍が生まれ、それがリザードマンたちへと向かう。その内の一本がリザードマンたちに避けられたものの、残りはそれぞれの足や腕に当たり、凍らせ、縫い付けたり、その部分だけ動かなくさせている。


 多少、相手の出鼻をくじいたところで、襲い来るリザードマンたちを道から追い出す作業へと移行しようとする。シギルとオリバはと言えば、


「この、この、死ねえ!」


「ひい!?く、来るなあ!」


 全くの役立たずだった。

 今の状態で何を言っても意味がないだろう。自分たちの身は自分たちで守ってもらうことにしよう。


「カーミラ様!俺たちで何とかしましょう!カーミラ様は右を!俺が左を担当します!」


 そう言って、近くにいたリザードマンをすれ違いざまに斬り、馬車から見て左側のリザードマン達へと向かう。


 そこで、シグレスは馬から跳び、着地地点にいたリザードマンへと刀を突き立てる。本来であれば、馬上からの戦闘のほうが有利ではあるだろうが、今回はできるだけ相手の数を減らさねばならないので、馬だとどうしても突撃や一騎打ちには有利といえども、殲滅には向いていない。


 こいつらを殲滅し、召喚士をあぶり出す。それが王女を逃がした後にやるべきことだろう。だからまずは道を切り開くためにもこいつらの数を減らさなければ。

 そう考え、二本目の刀を抜き、左手に持つ。


「さて、このくらいの数ならやれるかな?」


 馬を回収したいのは山々だが、後回しだ。そして、踏み出し、リザードマンの群れへ向かう。

 そこそこ強いと言ったが、それはあくまで客観的な視点で見ればの話。魔王や勇者様方の訓練に比べれば、はるかに楽だ。


「ふっ」


 鋭く呼気を吐き、飛び掛かり、武器である鋭い爪を振りかぶってくるリザードマン。それよりも速く、魔力操作で刀を覆い、左の刀で腕ごと斬り飛ばす。そして、もう一方の刀でそのまま懐に潜りつつ、頭上から真っ二つに切る。

 シグレスは確かに魔法の才能はないが、何故か魔力だけはあった。今にしても、それが何故かは分からないが、お陰で、リザードマンの硬いと言われる鱗でさえ、魔力操作だけで苦もなく斬ることができる。

 普通はできないのだが、そんなことができる規格外の奴らがシグレスの周りにはたくさんいるので、どうにも特別だという感じがしない。


 真っ二つに切ったことで、リザードマンの内臓の断面図がはっきり見えたことに辟易としつつ、死体と化したリザードマンを蹴り飛ばし、視界を確保したシグレスは次なる獲物へと向かう。


 その間にも、ユナとエリシアたちが乗った馬車は進む。ある程度の道は出来た。あとは馬車が通れるだけ道を広げるだけだ。


「ユナ!でかいのを頼む!」


「分かってるっつーの!【サンダーストーム】!」


シグレスが大声で呼びかけると同時に、ユナは荷台から御者台へと身を乗り出し、無詠唱で魔法を唱え、中央付近に残っていたリザードマンたちを吹き飛ばす。ある者は黒焦げに、ある者は風で吹き飛ばされ、全身を複雑骨折。相も変わらず、凶悪な威力だ。


 そうやって道が開いた途端、御者のハネットが馬車のスピードを上げる。そして、一息に通り抜けたのを見送りつつ、シグレスはリザードマンを斬り飛ばし、突き、そしてまた斬り飛ばす。

 この調子で行けば、すぐにでもユナたちに追いつける。そう思った時だった。


 



『ギャオオオオオオオオ!!!!!!』


 ユナたちが通り過ぎ、今現在いるであろう前方から凄まじいまでの咆哮が聞こえた。

 そのあまりに強烈な存在にシグレスのみならず、リザードマンたちでさえ、動きが止まる。


「冗談だろ……」


 思わず声が出る。シグレスはこの咆哮の主を知っていた。いや、正確には似たような個体と戦ったと言うべきだろうか。そう、その正体は――




(ドラゴン)って、正気か!?」


 この世界の中でも最強の獣であり、魔族でさえまともに戦いたがらないと言われる存在。並みの召喚士では操るどころか、召喚さえしきれない。たとえ、召喚に成功したとしても、その先に待っているのは、殆どの確率で死だ。操るなど夢のまた夢の存在。

 

 個体差にもよるが、こんな奴とまともにやりあえるのは冒険者で言えばSランクレベルかそれ以上。しかも、確実に倒すとなればパーテイーで、だ。ソロでやりあえるのはSSSランクか、『勇者』や『魔王』くらいだろう。確かにユナは『勇者』の中でも『天才』ではあるものの、まだ発展途上だ。今の彼女には荷が重すぎる。


 幸いにも、リザードマンたちの残りは少ない。さらに、圧倒的な存在が現れたことで、逃げ出したものもいる。


「カーミラ様!今がチャンスです!リザードマンたちの掃討を!」


「あ、ああ!すまない!急ごう!」


 呆けていたカーミラに声をかけ、リザードマンを今まで以上のスピードで斬りつけ、片付ける。逃げた者は今は追う暇などない。


 リザードマンの掃討を終え、幸いにも近くにいた馬に乗り、カーミラと共にユナ達の所へと向かう。シギルとオリバは置いてきた。奴らは戦力にならない。いても邪魔なだけだ。


(頼む、間に合ってくれよ……!!)


 今までで初めて、幼馴染の無事を祈りつつ、馬を走らせる。




 最強の獣との衝突はあと少し。










 




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