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ジェノクレスの遺産  作者: 桂はじめ
Chapter 3
19/25

再会

 土ぼこりが舞う荒野に、石のような材質で作られた塔のような残骸が地面から突き出ている。

 その殆どが原型を止めておらず、残骸の断面からは、ひしゃげた鉄の棒が何本も飛び出していて、それはまるで引きちぎられた血管のように見えた。

 ディアナは、それらを物珍しそうにきょろきょろと眺めながら歩いている。

「そんなに珍しいか?」

 アルに問われ、ディアナは素直にうなづいた。

「これは、旧文明時代の街の遺跡だ。旧文明では、街にこういう塔をいくつも建てて、そこに大勢の人間が暮らしていたらしい」

 わざわざディアナに歩調を合わせ、横にならんでアルが説明する。

「高いものだと、百メートルを超える高さの塔もあったらしい」

 アルは、数メートルほどの高さがある残骸に視線を向け、言葉を続けた。

「そんなものを人間の力で築きあげるなんて、昔の人って凄かったんですね。そんな高度な文明が、なんで滅びちゃったんですか?」

「伝承によれば、破壊神が現れて、世界を浄化しようとしたらしい」

「アルさんって、意外と物知りなんですね」

 ディアナは、心底意外そうな表情をアルに向ける。

「俺はトレジャーハンターだからな」

「初耳です」

「今まで言う機会も、必要性もなかっただけだ」

 ディアナの反応を軽く受け流しながら、アルは話を続ける。

「そして、こういう場所には、必ずと言っていいほど……」

 アルが言葉を続けていると、物陰からガラと人相が悪い男たちが現れ、行く手を阻んできた。

「こういう奴らがいる」

 立ち止まり、親指で野盗たちを指しながら、間合いをはかる。

「おい、ガキィ。女と荷物を置いていけ」

 剣や斧など、思い思いの武器を手に、男たちはにじり寄ってきた。

「八人か」

 野盗たちの人数を冷静に数え、アルが剣の柄に手をかけて呟いたとき、

「待てぇい!」

 あたりに男の声がこだまする。

 浮き足立って、あたりを見回す男たち。

 ディアナは、デジャヴのようなものを感じ、アルは無言でジト目になっている。

「おい、あそこだ!」

 野盗たちの一人が、高くそびえる遺跡の上に、腕組して立ちすくんでいる、腰に刀を差した人影を見つけ、指をさして叫んだ。

「ひとつ、人の世、女三昧。ふたつ、ふしだらな女三昧。みっつ、淫らに女三昧! 咲かせてみよう、男道。 そこの君、今助けるぜ!」

 男は、ディアナを指差し宣言する。

「助けてもらわない方が良いような……」

 ディアナは、思わず本音が出た。

 後方から土煙を上げながら、無人の側車付きバイクが走ってくる。

 男は、掛け声とともに遺跡からダイブし、二回ほど宙返りをして降りてきた。

 バイクが走りこんでくるのと、着地のタイミングを合わせようとしたのだろうが、バイクが走りこむのより先に着地してしまう。

「やべっ」

 男がそう呟いたその直後、後方から走りこんできたバイクにひかれてしまい、派手な土煙を上げながら、バイクもクラッシュした。

『………………』

 その場を、無言の空気が包みこむ。

 何事も無かったように起き上がった男は、倒れたバイクを起こし、キックペダルを何度も蹴ってエンジンを始動させた。

 二、三度エンジンをふかし、後輪を空回りさせながら勢いよく走り出すと、そのまま男たちとディアナたちの間に割ってはいるように横滑りさせながら滑り込ませる。

「早く乗れ!」

 生傷だらけでボロボロの青年が、二人に向かって叫んだ。

 ポカンとしているディアナをおもむろに抱きかかえたアルは、そのまま側車に飛び乗る。

「きゃあ、アルさん!?」

「良いから黙ってろ」

 抗議の声を上げようとするディアナを黙らせ、アルは男に目で合図を送った。

 男が小さくうなづくと、アクセルを全開にまわし、土煙を盛大に上げながらバイクを急発進させる。

 野盗たちは、ただ呆然としながら、土煙のむこうに消えていくバイクを眺めているしかなかった。


「危ないところだったな」

 男がアルに向かって言った。

「余計なことを」

 視線を合わせず、仏頂面のままアルが返す。

 二人のやり取りから、どこか気心知れたもの同士の雰囲気が漂っていた。

(この二人、知り合いなのかな?)

 ディアナがそんな事を思っていると、男がゴーグルを額にずらし、端整ではないが、気の良さそうな素顔を表す。

「その娘は、あのとき村から連れ去られた娘か?」

 そう言いながら、風圧でフードが脱げたディアナの姿を凝視した。

「…………」

 そして、男はそのまま固まる。

「あ、あの、何か?」

「う、美しい……」

「は?」

「俺が今まで生きてきたのは、君と出会うためだったに違いないっ!」

 男は、ディアナの手を握り、顔を覗きこむように身を乗りだして真剣な目で言った。

「ば、馬鹿、前を見ろ、葉月!!」

「ハンドル持ってぇ! きゃあああぁぁぁ!!」


 荒野を歩く、三人の姿があった。

 服が土で汚れている。

 アルと葉月にいたっては、いたるところが擦れたり破れたりしていた。

 その割りに、目だった怪我はない。

「すげーな、魔法って!」

『…………』

 三人に目立った怪我が無いのは、ディアナが魔法で治療したからだ。

「さすがはアルだ! よく、あの状況でその娘をかばえたな!」

『…………』

 あのあと、バイクは岩に激突して大破した。

 アルは、咄嗟にディアナをかばい、バイクから飛び降りたので、彼女に目立った怪我はない。 

 フレームから歪んでしまったバイクは、もはや修復不可能と判断し、その場に放置してきた。

「ディアナって言ったよな。俺が仲間に加わったからには、百人力だ! 帝国なんて目じゃねぇぜ!」

『…………』

 簡単な自己紹介は、魔法治療のときに済ませている。

 この男は葉月といって、ずっとアルとコンビを組んで、トレジャーハントをしていた仲間なのだという。

「次の街まで、あとどれくらいかなぁ」

『…………』

 先ほどから、葉月が一人で喋っている。

 ディアナとアルは、仏頂面のまま、ただ前だけを見つめて黙々と歩いているだけだ。無視しているとも言うが。

 葉月が口を開けば開くほど、あたりに重苦しい空気が埋積していく。

「えぇっと……」

 葉月は頬を掻きながら、冷や汗を滲ませる。

「すいませんでした」

 空気の重さに耐え切れなくなった葉月は、ぽつりと一言、謝罪の言葉を口にした。

Chapter3が始まりました。

のっけからギャグ回です。

この作品のギャグ担当、Chapter1に登場していたアル君の相棒が再登場。

彼のおかげで、作品の重たさが軽減されます。

実力は、アル君より上なんですよっ!

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