七節
視界がゆっくりと晴れていく。
「……やられた」
息が漏れた。
立っている場所を確認する。
見覚えのある街並み。
淡く光る石碑。
ここは――トマリの街の石碑前だ。
プレイヤーはHPがゼロになると、最後に触れた石碑へ転移する。
つまり、俺は普通に負けたということだ。
現実を理解した途端、さっきの戦闘が頭の中で再生される。
(なんで負けた?)
(戦略はこっちが上だった。攻撃回数も俺が圧倒的に多かったはずだ)
(しかも相手はモンスター戦の直後だぞ?)
それなのに、一撃。
一撃で、この俺がやられた。
腑に落ちないまま、ステータス画面を開く。
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キャラクターネーム:チリアクタ
LV:6
HP:27/55
MP:22/45
攻撃能力:10+15
防御能力:10+15
魔法能力:10
信仰能力:10
抵抗能力:10
速度能力:14+1
装備品
頭:なし
胴:革鎧
手:革鎧
靴:革鎧
武器:ファーストダガー
盾:なし
アビリティ:テイム LV1
ジョブ:レンジャー
スキル:気配遮断LV2
罠作成
不意の一撃LV1
パッシブ:なし
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その瞬間、コメント欄が一気に流れた。
『ステータス低すぎて草』
『レベル1より弱いやん』
『アビリティのせい???』
「俺が……弱いですと?」
思わず眉がひそむ。
「リスナーさん、同じレベル帯のレンジャーだとどれくらいなの?」
問いかけると、視界に滝のようにコメントが流れた。
その情報をまとめると――
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LV:6 レンジャー基準
HP:100
MP:75
攻撃能力:70
防御能力:60
魔法能力:30
信仰能力:30
抵抗能力:60
速度能力:80
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俺は堪らず叫んだ。
「なんでこんなに違うんじゃい!!」
コメント欄は即答する。
『ドラゴンいないから』
『加護がゼロの状態やん』
『ドラゴンなしならこんなもん』
『RFOはドラゴンゲーやで』
「ドラゴンの加護……」
理解が追いつくと同時に、力が抜けた。
RFOは『ドラゴンを連れている前提のバランス』で作られている。
ドラゴンがいなければ、ただのモブ以下のステータスになる。
俺は完全に――ハズレを引いたのかもしれない。
視界の端を見ると、視聴者数も減っている。
【視聴者:6】
「うぅ……残ってくれてありがとう……みんなのために頑張ります」
『おう』
『がんばれ』
優しい。
優しいけど、核心は変わらない。
このステータスじゃ、いずれ雑魚モンスターすら倒せなくなる。
「……ドラゴンを奪えば強くなれるのか?
でもドラゴンテイマー相手に勝てるほどのステータスじゃないし……」
詰みだ。
どうやっても詰んでいる。
考えがグルグル回る中、一つのコメントが光った。
『レンジャーならジャイアントキリングのビルドあるやん』
「……お?」
その一言が脳を刺激した。
俺は即座にジョブツリーを開く。
ジョブツリーとは、“ジョブを強化する専用の育成ルート”だ。
ポイントを使ってステ上げたり、新しいスキルを取ったりして、キャラクターを強くする事ができる。
ポイントはレベルアップと、特殊な敵を倒す事で入手できる。
要するに、このゲームにおる強化要素の一つだ。
蜘蛛の巣のように広がるツリーを表示させる。
その奥に――あった。
【毒攻撃】
【麻痺攻撃】
【睡眠攻撃】
「……これだ」
プレイヤーは序盤、状態異常対策アイテムを持っていない。
モンスターにも、そして人間に刺さるスキル。
だが――
「習得するのは、ツリーの最後か……」
解放には大量のジョブポイントが必要だ。
「コメントさん、クラス1を全開放って何レベルくらい?」
『31』
「は!?!?」
遠すぎる。
このままじゃレベル上げの途中で雑魚にも勝てなくなる。
「……トマリ周辺じゃ経験値が足りない……。
でも先に進めば死ぬ……」
考えが止まりかけたその時。
(……いや、待てよ)
脳内にひとつの場所がよぎる。
「……あるじゃん。最強の場所が」
俺は走り出していた。
*****
トマリを飛び出し、はじまりの森へ全力疾走した。
スライムを置き去りにするように、足を動かす。
そして森の奥。
そこに、目的の場所はあった。
「はぁっ……はぁっ……着いた……。【ためしの遺跡】……!」
はじまりの森の外れにある隠しダンジョン。
推奨レベルは――36。
序盤で来る場所ではない。
ただ最初から行けるダンジョンとして、配信者がこぞって挑んだらしい。
ただし。そのほとんどは、心を折られ攻略を諦めた。
地獄のダンジョンである。
コメント欄が騒ぎ始める。
『お、おいここは……』
『お、お前まさか』
『やめとけガチで』
そんな声を無視して、俺は入り口の石碑に触れる。
【リスポーン位置が更新されました】
もう逃げ道は無い。俺は腹を括った。
薄暗い洞窟へと足を踏み入れる。
「……俺には、もうコレしか無いんだッ!」
そう呟いた瞬間。
ドガンッッ!!!!
地面が震える。
直後、後ろから巨大な岩が転がって来たのだ。
「うわああああああああ!!!」
死の圧迫が迫る。
一歩遅れれば即死。
ここはそう言う場所。
ためしの遺跡は――“即死トラップの詰め合わせパック”なのだ。
・巨岩
・落とし穴
・飛び出す槍
・針山
・魔法陣の罠
・ムリゲー謎解き
一つのダンジョンでコレほどのトラップ攻略を迫られるのだ。
常人が考えたとは思えぬ構造だ。
だが、クリアすれば大量の経験値。
そしてジョブツリーに使えるポイントが入る。
(もうここしかないんだ!!)
「ためしマラソンやったらぁぁぁあああ!!」
俺は喉が裂けそうな声で叫びながら、死のトラップを駆け抜けた。
*****
――ダンジョン攻略開始から3時間。
挑戦回数、47回。
進んだ距離、8割。
もう大体のトラップの癖がわかってきた。
巨岩ゾーンは左の窪みでやり過ごす。
スイッチ式トラップは最初の床板を踏んでから前へ。
矢トラップはしゃがめば回避。
魔法陣ワープは「左→右→左→左→左→左→右」。
ここまでは問題無い。対応できた。
だが――最後の難関だけは別だった。
広い円形の部屋。
壁に並ぶ十体の甲冑。
中央の机に、十個の箱。
その中には、ルーン文字が刻まれた宝石。
いわゆる“謎解き”だ。
間違えれば目の前の甲冑から即死攻撃。
五分経過で、甲冑が全員動き出して即死攻撃。
「こういうのは苦手なんだよ……!」
宝石の箱にはルーン文字。
正しい組み合わせを選ばなければならない。
時間はどんどん減っていく。
4分、3分、2分――。
「ああもうッ! ええい、ままよ!!」
勢いで宝石を甲冑に押し込んだ瞬間。
ガシャン……。
甲冑の隙間から、黒い触手のようなものが伸びた。
次の瞬間、全身を締めつけられる。
「なんでだよぉぉぉぉぉぉ!!!!」
叫んだところで、大剣が振り下ろされた。
視界が暗転する。
*****
視界が晴れる。
俺はためしの遺跡の入り口で仰向けに倒れていた。
魂の叫びが漏れる。
「ああああああああああああああ
あああああああああああああああ」
唯一残った視聴者が、淡々とコメントする。
『チリアクタ壊れた』
さらに追い討ち。
『色じゃなくてルーン文字読む。クイズや』
「あの謎解きなんなんだよ!
わっかんねえよ!
コメント欄の言ってることはひとつもわかんないよ!
ルーンってなに!
AIで自動翻訳される時代に、母国語以外の言語体系なんてゲーム内で見せんなよ!」
叫び散らかし、息を荒げ、ようやく落ち着く。
「……すみません、取り乱しました。
一旦休憩してきます」
『良い判断』
俺はログアウトを選択した。
【視聴者:3】




