六節
トマリの森での戦闘は順調に進んでいった。時々ダメージを負う事もあるが、問題ないレベルだ。
レベルは6に上がり、ゴブリンの装備も一新。正に敵無し。
「次のトウゴウ村は推奨レベル7か。
ここまで余裕あったし、このまま進んでもいいな」
コメント欄も肯定的だ。
『そんだけ戦えるなら問題なし』
『エリアボスとかテイムしてほしい』
『トウゴウの次のハワイに入る手前』
『さすがにエリアボスは無理だろw』
『エリアボスまでテイムできるならぶっ壊れ』
『要検証』
『はよ進んで』
何と身勝手な。ただ確かに、エリアボスってテイムできるのだろうか?
今のところ、どのモブにもテイムは効いている。しかしHPを減らすまで、確認出来ていないのが難点だ。
「設定でアイコン表示変えられないかな……」
呟きつつ、設定画面を出す。しばらく設定を漁っていると、それらしき項目を見つけた。
「お、これか。
エクストラアビリティの詳細……」
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テイムアビリティに関する設定
テイム可能表示:可能時のみ
生物への指示:口頭
召喚エフェクト:派手
館内生物への指示:休眠
生物への経験値共有:オン
………他
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思ったより項目が多い。しかもスクロールすれば、まだまだ設定できるところがあるようだ。作り込まれてるなー。
『ちょい設定アップして流して』
「あ、いいですよ」
カメラを近づけて設定画面を一通り流して見せる。
とりあえず
・テイム可能表示を常時
・指示を思念へ変更
これでテイムが可能な生物には常にアイコンが出る。
HPが1割を切れば色が変わるはずだ。
探索再開。トマリの森を歩き出す。すると前方から人型のシルエットが現れる。
ーー今までとは明らかに違う背格好。
俺は茂みの中へ身を潜めた。よく観察すると、プレイヤーの様だった。
数は2人。年若い男と女。俺と同じ歳くらいだろう。
2人はコボルトやレッサーフェアリーの群れに囲まれており、戦闘の真っ最中だった。
「せいやッ!」
男が刃渡り1mほどの大剣を振るい、コボルトをポリゴンに変える。肩には赤いドラゴン。ファイヤドラゴンだ。いいなー。男の動きをカバーするように火を吐いている。
ドラゴンいいな……いや、良くない良くない。俺のはレアアビリティだぞ。レア! ゴブリンを従えてるプレイヤーなんて俺だけだ。
男が戦う後ろでは、女が詠唱を唱えていた。その肩には緑色の竜が留まっている。
「風の竜がここに存り。
空を駆ける風。
集めて成すは竜の爪。
ウインドカッター!!」
風の刃がレッサーフェアリーを三匹まとめて両断する。
戦士と魔法使いのパーティー。ドラゴンの加護もあり、そこそこ戦えているようだ。
女のドラゴンに目が向いた、その時。
「!?」
心臓が跳ね上がった。コメントが即座に理由を告げる。
『ドラゴンにテイムマーカー着いてね?』
その通りだった。女の肩のウインドドラゴン。
その頭上に、モブと全く同じテイムマーカーが浮かんでいた。コメント欄が爆発する。
『マーカー着いてるって事はテイムできるってこと?』
『人のドラゴン奪えんの?』
『マ?』
『ま?』
『MA?』
怒涛のコメントだ。俺と同様の考察を思い浮かべたらしい。内なる俺が勝手に口を開く。
あわわわ。
テ、テイムできるんでしゅかぁ〜?
人のドラゴンを??
でもでも、RFOのドラゴンってずぅーと連れ添ってくれる相棒なんですよ〜。
ダメだ。IQが限りなく0に近くなっている。もう辛抱黙らん。俺は茂みから飛び出す。
二人組は戦闘を終え、リザルト画面に視線を向けていた。しかし姿を現した俺に気付き、男が声をかけてくる。
「もしかして、さっきのモンスター狙ってました?
すみません、もう……」
うるせえ、黙れよ。俺は返事をせず、2人との距離を縮める。
「なんですか? し、失礼ですけど大丈夫ですか?」
「ねえ、ナオキ君あの人変じゃない……」
うるさい。よこせ。
「ちょ、コッチに来ないでください!」
男は女を庇う様に前に出て、剣を抜く。もう止まらない。止められないのだ。
俺は無言のまま、近づいていく。ふと視聴者の数字に目が留まる。
【視聴者数:30】
ああ、視聴者まで最高潮。俺ってやっぱりツいてる……。
視線を男に向け直し、歩みを進める。
「プ、プレイヤーキラー!?」
男が叫んだ瞬間、俺は短剣を抜いて駆け出した。同時に女の後ろにゴブリンを召喚。
「ウギャ!!」
「こ、こんな時に!?」
野生のゴブリンがポップした、と思ったのだろう。
男の注意が後ろに向く。その瞬間、俺はぐっと距離を縮める。ガラ空きの男へ、刃を突き立てる。
しかし意外にも、彼は剣で受け止めた。
鍔迫り合いになる俺と男。
男は更に話す。
「こ、このゲーム、PKしたら1日中レッド表示が付きますよ……!」
きっと初めてプレイヤーに襲われたのだろう。
彼の表情には若干の怯えが見える。
ああ、そそる。
「聞いてますか!?」
関係ないね。そんなデメリット以上の価値を君たちは持っている。だが、自分達の価値を、俺の真意を彼は知らない。その事実が俺に笑みを作らせる。
「うひひひ」
「き、キモいですよ!」
男の言葉を皮切りに鍔迫り合いが解かれる。両者の刃が打ち上がった。
ーー大きな隙が生まれた。
俺はすかさず男の背後にゴブリンを召喚。
「ウギャ!」
館から飛び出たゴブリンは、男を羽交締めにした。驚愕の表情を浮かべる男。今度こそ、短剣を男の胸に突き立てた。
「うぐ……っ」
近接のコイツさえいなければ、ソロのリトルウィザード等かかしも同然。まずはコイツのHPを削り切る。
「ナオキ君!」
ゴブリンと相対する女が叫ぶ。しかし俺は止まらない。何度も何度も短剣を突き刺す。
さあ、無様にポリゴンの塊となるが良い!
ーーいつまで経っても男は死なない。
「?」
その内、男は後ろにいたゴブリンを掴んで適当に投げ飛ばし、何食わぬ顔で俺を見据えた。
「弱く無いですか?」
「……。あれ?」
俺と男は顔を見合わせる。
「えと……。ごめんなさい」
次の瞬間、男の剣が振り下ろされた。俺のHPは0になり、視界が暗転した。
【視聴者:8】




