十九節
ネックのリザルト画面を閉じる。
横に視線を向けると、きりんが画面を開きっぱなしのまま喜んでいる姿が見えた。
「きりんりんりん♪
スーパーチャットありがとう!
みんなやったよー! これでやっと次の街に進めるよー!」
このままやってしまうか?
そんな思考がよぎる。
ここできりんを倒し、
その間にあいりんのドラゴンを奪い、
あいりんにもとどめを……。
そう考え始めたところで、俺はその考えを止めた。
ーーこの策は無謀に過ぎる。
きりんを倒してしまえば、そのサブアバターであるあいりんは、一緒にワープしてしまう。
それに、きりんは先刻の様子を見るにMPを使い果たしている様子だが、あいりんはそうでもない。
4つの忍術を使った俺の方が消耗は大きい。
MPポーションはあるが、それはあいりんやきりんとて同じ事だ。
時間は幾らでもある。
もう少し策を練ってから、行動しよう。
リスナーと盛り上がっているきりんを他所に、あいりんへ小声で話しかける。
「……アシストありがとう。
お陰で大成功だ」
「どういたしまして。
この行動がオーナーにとって、最大の利益となると判断したまでです」
つれない反応だ。まあいい。
AIに人間らしい反応を求めるのは無意味だろう……。
そうしたやりとりをしていると、大きな地響きが始まった。
地震か?
一瞬そう考えたが、視界に映る情報から、そうでは無いと判断した。
ボス部屋内を囲んでいた水が引き、底が見え始めたのだ。
底には、水色の玉がいくつも転がっている。
それを見つけたきりんが、反応を見せる。
「あ、出た出た!」
それを探し求めていたかのように、彼女は真っ先に駆け出す。
俺も彼女に釣られるように、川底へ降りて玉を一つ手に取った。
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【アイテム名:しりこ玉】
ネックが人間から取り出した精神力の塊。
これを抜かれた人間はふぬけとなる。
ぬかれた人間に戻す事で、
状態異常ふぬけを治すことが可能。
プレイヤーが使用することで、
パッシブ:水精泳ぎ
を獲得できる。
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やっぱりカッパじゃねえか。
まあアイテム自体は面白そうな効果をもっている。
これが海アップデートに役立つアイテムなのだろう。
内心でそう考えながら、俺はアイテムパーチへとしまい込む。
せっかくだし、5個くらい拾っておこうか。
きりんもそこかしこを走り回って拾っている。
そうして、俺たちはしりこ玉を拾い続けた。
*****
しこり玉の回収を終えた頃。
きりんの方を向き直すと、カメラアイコンが消えていた。
つまり、今日の配信を終えていたのだ。
ハアイの街を出てからまだ3時間ほど。
配信を終えるにはまだ早い時間である。
「今後の予定を伝えるわね」
きりんが唐突に口を開いた。
「予定?」
「そうよ。パーティーリーダーの私が指針を決めるのは当然でしょう?
文句ある?」
「いえ、全然大丈夫です。
続けてください」
どうせあと1日か2日のパーティーだ。
好きにさせておこう。
「明日を休息日として、明後日クラヨシの街を目指すわよ。
クラヨシに入るには、エリアボスを倒さないといけないから準備しておきなさい」
「エリアボスですか。
どんな敵ですか?」
「は?
そんな物ネットで調べればいいでしょ?」
「あ、はい」
あまりにも素っ気ない態度。
思わずダガーを抜いてしまいそうである。
っと言うか、マジやっちまうか。
葛原アクタ! やるんだな! 今ここで!
……落ち着け、落ち着け。
全てはシャドウドラゴンを奪う時まで隠し通すのだ。
それまでの我慢である。
内心でぐつぐつと煮えたぎる怒りを抑えていると、続けてきりんが話し出す。
「あー。あとクラヨシで私の弟が合流するから」
「弟さん」
「そう、あいつ結構なガチ勢だから、基本的に私とゲームする事なんて無いんだけど、
エクストラアビリティ持ちの貴方に会ってみたいんだって」
「まあ、それはいいんですが。
それはきりんさんの配信に載せても大丈夫ですか?」
「そこは問題ないわ。
何回か弟を配信に出した事があるから」
「そうですか」
「……以上よ」
「……はい」
きりんの弟。
そう聞くと人格的にアレな人物を思い浮かべてしまうが、問題ないだろうか。
まあここで考えても仕方がない。
合流してしまえば分かることだ。
沈黙のまま、俺たち3人はダンジョンの出口へと向かう。
会話に意識を割かなくても良い分、思考が自然と巡る。
その弟が合流すれば、ドラゴンの奪取が難しくならないか?
ならばいっそここでーー
いやまて。
ゴブリンナイトだけで二人の攻撃をさばき切れるか?
きりん、あいりん、どちらの攻撃も俺を一撃で屠るには十分な火力を持っている。
ドラゴンの加護を持たないプレイヤーとはそれほどまでに脆い。
ハーヴグーヴァでならーー
そう考え始めたところで、視界に一つの通知が届いた。
【psy10からメッセージが届きました】
【件名:勤めを全うした】
そのメッセージを開いた俺は、不敵に笑みを浮かべたのであった。
【視聴者:49】




