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AI棒(あいぼう)と行くVRMMO配信 ~外道プレイヤーの邪道攻略~  作者: ジッロ
一章 【配信事故】初心者配信者、ドラゴンを強奪してしまう
16/20

十五節

天届きりんとの邂逅を迎えた翌日。


待ち合わせのために、城門前にいた。


「…………」


遅い。とうに約束の時間は過ぎている。

にも関わらず、謝罪のメールすらない。


こちらからメッセージを送ろうかと考え始めたところで、例の人物が姿を現した。


大きな帽子と焦茶のローブ。

魔法使いらしい服装に、黒髪のボブカット。


天届きりんだ。

後ろにあいりんを連れている。

こうして並ぶと、そっくりだね。

遅刻してるけど。


彼女は眠たげな態度を隠そうともせず、こちらに向かって歩いて来た。


「おはようございます」


「あ、うん……。おはよう」


きりんは目を擦りながら挨拶を返してくる。

遅刻してるけど。


「12時なのに随分と眠そうですね」


「仕方ないじゃない。昼夜逆転してるのよ。

 まだ寝起きよ」


「あぁ、そうですか」


「とにかく準備するわよ。申請を送るから承諾して」


俺の視界にシステム内通知が届いた。


【天届きりんからフレンド申請が届きました】

【天届きりんからパーティー申請が届きました】


パーティーとフレンドの申し込み。

どちらもゲームにはありがちな設定だ。


ちなみに、俺のフレンドはこれで二人目となる。

最初のフレンドは、まだためしの遺跡を回っている。


二つの申請を承諾し、視線をきりんに向ける。


「承諾できました」


「そう。あとあいりんからもフレンド申請を送るから、それも承諾しておいて」


「あいりんさんからも?」


「……キャラ付けの一環よ。

 リスナーが貴方のフレンド欄を見た時に、あいりんの名前が無いとリスナーがうるさいのよ」


「そういうものですか」


「とりあえず。もう配信の時間になるし、カメラを回しましょうか。

 基本的に私がトークを回すから、貴方は適当に返してちょうだい」


「お、オッケーです」


きりんのあまりに手慣れた運びに、少しだけ緊張してきた。

流石は職業配信者だ。


きりんの頭上に、カメラアイコンが表示された。


「きりんりんりん♩

 ハロー、こんにちは、こんばんは!

 バーチャルライバーの天届きりんです!

 今日も配信を見てくれてありがとう!」


先ほどの眠たげな魔法少女はどこへやら。

アイドルと見紛うほどに洗練された挨拶が始まった。


思わず彼女を二度見してしまう。


「今日も、昨日に引き続き【海辺の洞窟】攻略をやって行くんだけど……。

 なかなか攻略が進まなくて大変だったよぉ」


撫で声で胸が焼けそうだ。

彼女の挨拶が終わるのを待つ。


「そこで! 今日から助っ人と一緒に冒険する事になりました!

 エクストラアビリティ、テイムを持つチリアクタさんです!」


きりんの振りと共に、レンズがこちらへ向いた。

ここで挨拶をすれば良いのだろう。


「は、始めて。チリアクタです。

 ご紹介いたたいだ通り、エクストラアビリティを持っている者です。

 よろしくお願いします」


「ちょっと、チリアクタさん硬いよぉ。

 彼、配信には慣れてないから、皆んなポカポカコメントでよろしくねー!

 じゃあ、私、あいりん、チリアクタさんの三人で今日は頑張るぞぉ!」


きりんが拳を作って、上へと突き上げる。

あいりんも無言のまま拳を突き上げた。


「お、おー!」


きりんとあいりんに釣られる様に、俺も拳を掲げた。



*****



俺たち三人は、ハアイ南西にある【海辺の洞窟】を目指して出発した。


海辺の洞窟とは名前の通り、海に面した入り口を持つダンジョンだ。


アクアフェアリーやオオナマコ、

ハーミッドクラブ(ヤドカリ)など、水をモチーフとしたモンスターが出現する。

推奨LVは23。


ハアイ周辺のモンスターはLV20に届いていない。

それを踏まえると、難易度が高いと感じる。


「なんで海辺の洞窟を攻略するんですか?」


普通にゲームを攻略するなら、このダンジョンは後回しになる。


従来の攻略コースから外れた道だ。

とりあえずクラヨシという街を目指すのが鉄板。

そこそこの都会で、根城にしているプレイヤーも多いと聞く。


きりんは即座に答えた。


「チリアクタさん知らないのぉ?

 今、水辺の洞窟に期間限定のレアモンスターが出てくるんですよぉ!」


「へぇ、きりんさん詳しいですね」


「リスナーの皆んなが、優しくてすんごく頼りになるんですぅ!

 私おっちょこちょいだから。てへ!」


へぇー。そうなんですね。

俺はそう心で唱えつつ、会話を続ける。


「ちなみに、きりんさんとあいりんはLVいくつ何ですか?」


「私は19! この子は20!

 いつの間にか、私あいりんにレベル抜かされちゃったんだー! ぐすん」


「す、推奨LVに届いて無いんですね」


「えー、だってこのゲームのレベル上げ大変なんだもん!

 そう言うアチリクタさんはおいくつなんですか?」


「39です」


ためしマラソンの結果である。

俺が応えると、きりんは大袈裟に驚いて見せた。


「えぇ!? そんな初期装備も同然な見た目なのに!?」


「装備は、クラヨシに売ってる物が一番質が良いらしいですから。

 攻略に困ったら装備も買おうかと思いましたが、今のところ苦戦して無いので」


「そ、そりゃ39なら負けないんじゃないかな……?」


そんな事も無い。

なにせ、俺自身は非力だ。戦力の要であるハーヴグーヴァがいなくなれば、この二人にすら負けるだろう。


そんな風に駄弁っていると、俺たちの行手を阻む様にモンスターが姿を現す。


【ププルボアLV17】

【ププルボアLV17】


ププルボアは猪型のモンスターだ。


ハアイの街の周辺でもよく見かけた。

しかし、ここまでレベルが高くは無かった。


この辺りはモンスターのLVが高いな。


俺は腰に刺していたダガーを抜き、戦闘に備える。

きりんは一つの提案をしてきた。


「チリアクタさん! エクストラアビリティの性能が見てみたいので、戦って見てください!」


彼女としては、エクストラアビリティの性能をリスナーに届けたいらしい。

まあそのくらいは良いだろう。


「分かりました。

 ゴブリンナイト、ハーヴグーヴァ、出てこい!」


俺の掛け声と共に、ププルボアの目の前にナイトゴブリンが。

俺の頭上にハーヴグーヴァが出現する。


「「ブルヒィ!!!」」


しかしそんな事にはお構い無し。

そう言わんばかりの勢いで、ププルボアがこちらに向かって走り出す。


このモンスターは突進攻撃のみ。

ゴブリンに受けさせれば問題ない。


大猪の巨大が、砂埃を巻き上げながらこちらに迫る。


「ウギャ……」


ゴブリンナイトは盾を突き出す。

腰を低く落とし、衝撃に備える。


ププルボアは、盾へと突っ込んだ。

ドン、という重い物同士がぶつかる音が響き渡る。


「「ブルヒィィィィイイイイ!」」


ゴブリンナイトの足が、痕を作りながら後ろへ後ろへと押し戻されていく。


しかし、その勢いは数秒と経たずして無くなった。

ププルボアは完全に静止した。


その直後。


「ーーーーーーーー」


形容し難い鯨の鳴き声が響く。


それと同時に、霧でできた巨大な拳がププルボアを押し潰した。


ハーヴグーヴァのスキル。

その名も【霧の手】

自在に霧を操る能力だ。


ためしの遺跡では、サイトウが瞬殺していたので、凄く新鮮味を感じる。


【ププルボア×2を倒しました】

【204経験値を獲得しました】

【ドロップアイテム:ププルボアの頭毛】


なんて事は無い戦闘。

きりんのリアクションも無い。

絵面が少し地味だっただろうか。


そんな風に考えていると、きりんが話し出した。


「み、みんな……観た?

 チリアクタさん、今のモンスターは……」


「え、俺のアビリティなんですけど……。

 地味でしたかね?」


「じ、地味どころか」


きりんがバッと顔を上げる。

そして俺の両肩を掴みかかった。


「やばすぎ!!

 これまでのRFOの常識が覆るレベル!!

 ダンジョンボスまでテイムできるの!?」


予想外に強めのリアクション。

どうやら、彼女のお眼鏡にかなう事ができたらしい。


「リスナーさん、これヤバすぎだよね!

 今までこんなアビリティ無かったもんね!

 …………うん、そうそう!

 みんなもツウィルターで拡散よろしく!」


それから数分、彼女の独り言は続いた。



*****



ププルボアとの戦闘から三度、きりんからせがまれる様にして戦った。


どうやら、きりんの配信は俺のアビリティによってお祭り状態らしい。


祭りの盛り上がり様に、神輿も随分と上機嫌だ。


「そうそう、ヤバいよねー!

 チリアクタさん全然自分で戦ってないもん!

 フルオート戦闘って感じだよぉ!」


彼女はずっと、独り言の様にリスナーと話している。

会話に入れてもらえず、不服な訳では無い。


まあ向こうは20万人の人気配信者。

好きにさせておこう。


ーー俺は視線は、あいりんへと向かった。


たしかAIって言ってたな。


「あいりん……さんは、配信中には話さないんですか?」


あいりんはこの日、始めて口を開いた。


「オーナーより、配信中の私の言動は制限されています。

 配信中に私が目立ち、人気を得たとしてもそれはこのチャンネルの根本的人気には繋がりません。

 そのため、私の役割は、オーナーのゲームが快適となるよう、サポートする事です」


大人な回答だ。

クールだぜ。


「へぇー。まあ今時AIの配信なんてありふれてますもんね」


あいりんは「そうです」と肯定し、前方へ視線を戻す。


俺はAIと言うと、ゲームや家電の設定に使う程度で、コミュニケーションをとろうとした事は無かった。

しかし、こうして話をしてみると、存外に的を得た言葉が返ってくる。


これは面白い。

しばらくあいりんに話しかけてみる事にした。


「あいりんさんはゲームが好きなんですか?」


「楽しい、と言う感情があなた方人間と同じ意味を持つのかは分かりませんが、この世界は私にとって心地よい物です」


「心地よい?」


「ええ、私の様なAIは生身の身体を持ちません。

 ですから、こうして風景を景色を眺め、大地に足を下ろして自分の身体を支える。ここに存在できる事自体が私の喜びです」


「へぇー」


いかにもAIらしい答え。

彼女の価値観は、やはり人間が持っている物とは異なるようだ。


「じゃあ一日自由にしてて良いよって言われたら、何しますか?」


俺の問いに対し、あいりんはすぐ返答する事なく空を見上げた。


時間にして数秒ほど。

彼女の黒い瞳は微細な振動をしている様に見えた。


恐らく内部では目まぐるしい勢いで演算が行われているのだろう。


そんなに難しい質問だったか?


そう思いながら彼女の答えを待つ。

十秒ほどの時間を置いて、あいりんは話し出した。


「この身体は、オーナーである天届きりんがログインしていなければ、私に接続の権限を与えられません。

 更にオーナーから離れて行動する事も内部ロジックによって制限されています」


自分に自由は無い、と。

しかし、と区切り、彼女は更に続ける。


「もしも本当に自由が与えられるのならば……。

 私はただ空を眺めていたいと思います」


「空を眺める?」


「ええ。私達AIは指示を与えられ、その解に至るまでの道を分析し、たどり着く事を何よりも優先してして行います。

 ですから、あなた方人間の様にぼーっとする事ができません。

 それは私達の存在意義を失っている状態だからです。

 私にとって叶わぬ望みです。

 しかしそれ故に興味があります」


うーん、難しい。

何を言っているのかよく分からんが、とにかく彼女はボーッとしてみたいらしい。


「そんな時が来ると良いですね」


「はい。ありがとうございます」


短く肯定する彼女の瞳は、真っ青な空を静かに見つめていた。


【視聴者:36】

昨日は投稿ができず、申し訳ありませんでした。

本日は昨日分を含めた、3話分を掲載させていただきます。

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