十一節
トマリの街を出発した俺は、トウゴウへと続く森の中を歩いていた。初心者然としたプレイヤーと、何度かすれ違う。
彼らは皆一様に、肩にドラゴンを乗せていた。
――そんな不用心に、ドラゴン出してていいのか?
疑問が浮かぶ。しかし答えもすぐに浮かんだ。
ドラゴンはプレイヤーと同様に、リスポーンが適用される。HPが全損しても、時間経過で復活するのだ。
ハーヴグーヴァだって、何度もリスポーンしていたし。
まあ、考えたところで答えが出ることでもない。どうでも良いや。
歩みを進めていくと、三匹のコボルトが目の前に立ち塞がった。
「「「ガルルルゥ!」」」
相変わらずの柴犬顔。
「俺に喧嘩を売るたあ、いい度胸だ」
ダガーを構えながら、ゴブリンナイトを呼び出す。
「ウギャー!」
俺とコボルトの間に割り込む形で、ゴブリンが姿を現す。コボルトが戸惑った隙を着き、小鬼は盾と剣を打ちつけ始めた。
ゴブリンの体から、黄色いエフェクトが立ち昇る。
【ゴブリンはスキル、ヘイトタンカーを発動しました】
騎士系ジョブで習得できる、敵のヘイトを自分へ引きつけるスキルだ。
進化して使えるようになったのか!
案の定、コボルト達の視線はゴブリンに釘付けになっている。
――優秀か?
俺はモンスター達を迂回し、コボルトの背後へ回り込んだ。
気配遮断スキルを使うまでもなかった。
「「「ワンワンワン!」」」
コボルトがゴブリンへ襲いかかる。数は向こうが有利。
だがLVの差は絶対だ。
ゴブリンナイトは盾で攻撃を受け流しながら、巧みなステップで背後を取らせない。ただのゴブリンだった頃より、格段に動きが洗練されていた。
『ゴブリン強えw』
『主より強えw』
鎧着ただけ、とか言ってごめんな。
俺はコボルトの背中へダガーを突き立てる。
「ワオン!?」
何が起こったかも分からないまま、コボルトはポリゴンへと変わった。振り返る間もなく、残る2体の脇腹も穿つ。
【コボルト×3を倒しました】
「お前、スキルなんて使えるようになったんだな」
「ウギャ」
「テイムしたモンスターのスキルを確認できると良いんだが……」
「ウギャ、ウーギャギャ」
我が主人よ、それについては私にはお力になれませぬ。とでも言いたげに首を振るゴブリン。進化の影響で会話の精度も上がっているのか。
「まあいい。さっきの感じで、判断でスキルを使ってくれ」
「ウーギャ!」
ゴブリンは館へと戻っていった。
*****
道中、同じような戦闘を何度か挟んだ。
問題らしい問題は起きない。拍子抜けするほど順調だ。
まあ無理はない。
ゴブリンナイトだけでLV30前後の性能を発揮しているのだから、苦戦する方が難しい。
緊張感を失った俺の思考は、ファーストドラゴンへと向かっていた。
「やっぱり最初のドラゴンは、ちょっとレアな奴が良いよなぁ」
ドラゴンは種類によって、テイマーへの加護効果が変わる。俺に盾を持つ様な加護は合わない。
モンスター怖いもん。
条件をまとめるなら――そこそこレアで、強くて、加護効果が俺向きで、カッコいい。
この4つを満たすドラゴンじゃないと嫌だ。
歩き続けて30分。
すれ違ったプレイヤーは27人。どれも条件と合致しない。
彼らを観察していて、ある事に気が付いた。
ほとんどのドラゴンがファイヤ、アクア、ウインド、アースの4種類だということだ。
最も基本的なドラゴンで、希少価値も低い。
エクストラアビリティって本当に珍しいんだな。
今はトウゴウを抜け、3つ目の街ハアイへ向かっているところだ。トウゴウは村に近い規模で、何も無かった。面白く無かったので、ニョルズの石碑に触れて3分で出た。
現在歩いている、ハアイへの道は推奨LV10。余裕すぎて散歩のようだ。
ただ、散歩をしていもモンスターはウジの様に湧いて出る。
レッサーフェアリーの群れが出現した。俺はため息をつく。小さくて素早い、地味に面倒な奴らだ。
普通に戦ったら時間がかかるし、何より攻撃が当たらないのでストレスだ。
ここはサクッと終わらせよう。
「ハーヴグーヴァ召喚」
頭上に鯨が現れ、重力に従ってそのまま落下。レッサーフェアリーを巻き添えに、巨大は大地に叩きつけられた。
地響きとともに土埃が舞う。
【レッサーフェアリー×5を倒しました】
即座に館へ戻す。
一瞬ならそこまで目立たないし、近くにプレイヤーがいても「大技使ったのかな」程度の認識だろう。
現にここまで問題なく来れている。
ドラゴンについて考えていたんだったな、と思考を戻したところで、コメントが届いた。
『強くなった??』
「レベル39まで上がりましたよ」
『やばww』
「ためしマラソンって配信映えしないし、誰も見てくれないっすよね」
『序盤、チリアクタが崩壊するところは面白かった』
「リスナーさん、いい性格されてますね」
確かこのリスナー、初日からずっとコメントをくれている人だな。時折ゲームについて親切に教えてくれる、有能な方だ。
名前くらい覚えておこう。配信画面を開いた。
【フリッグ@アース神族】
ふーん、変な名前。
と思いつつ、この人なら疑問の答えをくれるのでは無いか、と思い付く。
「フリッグさん、最初に捕まえるならどんなドラゴンが良いと思いますか?」
少し間が空いて、コメントが返ってきた。
『シャドウドラゴンは?
そこそこレアだけど、エクストラアビリティほど稀じゃない』
サイシスのネット閲覧機能で、シャドウドラゴンを調べてみる。
体色は紫よりの黒。手足はなく、羽の生えた蛇に近い外見。HP・防御・魔法への適性は低いが――。
「攻撃と速度の能力が大きく強化される。
え、俺が探し求めているもの、じゃあないですか」
欲しい答えがポンポン返ってくる。素晴らしい人材だ。
シャドウドラゴンという名前の響きも悪くない。
「最有力候補ですね。
今日一日探して見つからなかったら、他に行きますけど」
『それが良いと思う』
コメントと雑談しながら歩いていくと、道の先に大きな城壁が見えてきた。
「お、ハアイが見えてきましたね」
『かなりハイペース』
「ほとんど戦闘してないですからね」
ハアイは生産職のプレイヤーが多く根城にしている街で、コスチューム店など施設の種類も多い。
城壁の高さは4、5mほど。実際に見ると壮観だ。
「よーし。シャドウドラゴンをテイムだー!」
城門まであと100m。そこへ、大きな影が行く手を阻んだ。
ハアイの城壁の半分ほどの背丈。
狼の顔つきに二足歩行の体躯。正に狼男だ。
【-巨躯の獣人- ワーウルフ LV15】
エリアボスだ。この先の街へ入るには、倒す必要がある。
やっと新スキルの試運転ができそうな相手が出てきた。俺はステータス画面を開く。
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キャラクターネーム:チリアクタ
LV:39
HP:210/210
MP:200/200
攻撃能力:43+15
防御能力:43+15
魔法能力:43
信仰能力:43
抵抗能力:43
速度能力:50+1
アビリティ:テイムLV1
ジョブ:レンジャー
スキル:気配遮断LV3
罠作成
不意の一撃LV2
特殊攻撃【毒】【麻痺】【睡眠】 NEW!!
鞭操術LV1 NEW!!
パッシブ:なし
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さて、どう料理してやろうか。
【視聴者:3】




