第3章(後編) 3人の夜
夜のぽかぽか邸。
やわらかな灯りが揺れて、
3人の影が静かにリビングへ落ちていた。
凪がマグカップを両手で包みながら、
ふと思いついたように環へ顔を向けた。
「そういえば、環さん。
美乃さんと給湯室で何話したんですか?
なんか意地悪なこと言われちゃった、とか……ないですよね?」
環は少し驚きつつも、首を横に振る。
「いえ、そんなことないですよ。
美乃さん……昔、柊のことが好きだったって言ってました。」
その途端──
「……なっ……環っ!?
そんな話、聞いたのか!?」
飲みかけのコーヒーをごほっとむせて、
柊が思わず前のめりになる。
凪の口元がゆっくりとニヤァ〜っとゆるんだ。
「うわ〜〜〜……
さすが柊先輩。あんな美人に好かれるとか……
いや〜モテる男は違いますわ〜」
環はくすっと笑いながら、しずかに続けた。
「美乃さん、柊に言わなかったって言ってました。
でも……“好きって言わなかったことを後悔してる”って。」
柊は少し目を伏せた。
「ああ……俺も言われたよ。
この前、偶然会った時にな……」
凪が目を丸くしてぐいっと身を乗り出す。
「で!で!告白されなかったんですか?」
「されてないって言っただろ!」
環はつい笑みがこぼれ、
その笑顔を見て柊の表情が少し安心に変わる。
「そういえば……美乃さん、凪くんと同じこと言ってました。」
「え?僕と同じこと?」
環は胸に手を当ててゆっくり言う。
「はい……凪くん、カフェで言ってくれたじゃないですか。
“柊は私しか見てない”って。
それと……
“私がいなくなったら、柊が壊れる”って……
それと同じこと、美乃さんからも言われました。」
その瞬間、柊が環と凪を見て言った。
「……それ。
俺……正直、一番驚いたのは……
美乃さんじゃなくて……凪が同じこと言ったってことなんだよ。」
凪は、ほんのわずか照れた。
「だって、わかりますよ。
僕、柊先輩を何年見てきたと思ってるんですか〜。
本人がいちばん気づかないだけで、
環さんといるときの先輩……
もう“壊れたら困るくらい幸せそう”なんですよ」
柊は照れ隠しのためか、
後頭部をぽりぽりかいた。
「……まったく……おまえは……
本当にときどき、びっくりすること言うな……」
環はふっと目を伏せ、
ゆっくり言う。
「美乃さん、凪くんのこと……
“かわいいSEさん”って言ってましたよ」
凪は椅子から転げそうになりながら
「か、かわいい!?
いや〜、まいったなぁ〜〜……
見る人が見ればわかるんですね〜僕の魅力……!」
柊はため息をつきつつも、
どこか緩んだ声で言う。
「……誰がおまえに魅力あるって……」
環はぽかぽかした目で2人を眺める。
「こうやって……
3人で話してる時間、やっぱり好きです……
ぽかぽかします……」
凪がにやり。
「僕もですよ〜環さん。
こういう時間があるから、頑張れるんですって」
柊は環の肩をそっと抱き寄せた。
「……俺もだよ。
環がここにいて、凪がいて……
これが一番落ち着く」
ぽかぽか邸の空気がまた満ちる。
外で何が起こり始めていても、
ここだけは変わらない。
この家は、“帰ってくる場所”だ。




