第10章 静かに忍び寄る影
■ プロジェクト会議の空気
翌朝。
アストリアの大会議室では、新システム会議が淡々と始まった。
プロジェクトメンバーは資料を開き、
それぞれの担当部分を説明していく。
凪と柊は落ち着いた表情で聞きながら、
昨日掴んだ“末松の矛盾”を思い返していた。
そんな中――
ただ1人、落ち着かない視線を動かす人物がいた。
新システムプロジェクトメンバーの
中野莉香。
明るく柔らかい雰囲気で、誰にでも丁寧な女性。
だが今日は違う。
やけにソワソワと、背後のドアを意識している。
環がその変化に気づき、
柊の袖をそっと引いた。
「柊……中野さん……なんか……変です……」
「……俺も感じてる。
会議前に誰かと話していたようだな」
凪も気づいていた。
「僕、さっき見ましたよ。
中野さん……末松さんと話してました」
環が小さく息を飲む。
「末松さん……」
「末松はもう黒に近い。
その彼と話すってことは……」
柊の声が低くなる。
「中野莉香……彼女も“反対派と繋がっている”可能性がある」
◇◇◇
■ 背後から送られる“視線”
会議が終わり、書類をまとめていると
中野がちら、と3人を見た。
その目には――
“怯え”と“迷い”が混ざっていた。
環がそっと呟く。
「……怖がっているように見えました……
何かに……追われてる、みたいな……」
凪は真剣な目で言う。
「使われてるんですよ。
中野さん、自分で動くタイプじゃない。
誰かに“言われて”やってる。
僕、そんな気がします」
柊が頷き、
「そして、その誰かは……末松か、徳山部長だな」
◇◇◇
■ 中野莉香の“不可解な動き”
環が資料を片付けていると、
テーブルの端に何か小さな付箋が落ちていた。
拾ってみると――
『A-サーバー室 22:30 ID:AM—***』
まるで “誰かに渡し損ねた指示書” のようだ。
環の心臓がぎゅっとなる。
「……柊……これ……」
柊は受け取ると、一目で危険な匂いを感じた。
「……これは“誰かにサーバーへ入れ”という指示だ。
そしてこれを書いたのは……中野さんだな。
彼女、字の癖が残ってる」
凪が険しい顔をする。
「22:30って、今日の時間ですよね。
つまり……“今夜何かが起こる”ということです」
「……罠かもしれない」
柊の声が低くなる。
「行けば、こちらが疑われる可能性もある」
◇◇◇
■ 中野莉香は“犯人ではない”
その時――環が言った。
「……中野さん……悪い人じゃないと思うんです。
さっき……すごく震えてました。
何か……怖がってる感じでした……」
凪が深く頷く。
「僕もそう思います。
中野さんは“道具にされてるだけ”です。
犯人じゃない」
「じゃあ……なぜこんなメモを……?」
環は小さく首をかしげた。
柊が静かに答えた。
「“失敗したら自分が終わる”。
そう思わせるほどの圧が、中野さんにはかかってるんだろう……
末松か……徳山か……」
◇◇◇
■ 静かに決まる作戦
凪がノートPCを閉じて言う。
「今夜22:30……僕ら、行きますか?」
「行くしかないだろう。
ただし、罠なら“逆手に取る”。
俺たちのほうが一枚上手だ」
柊の目が鋭く光る。
環は不安げに柊の袖を持つが、
柊はやさしく微笑んだ。
「大丈夫だ、環。
凪と俺が付いてる。
……そしてお前も、もう“巻き込まれた側”じゃない。
一緒に真実を見つけるんだろ?」
環は小さく、でも確かに頷いた。
「……はい。いっしょに、行きます……」
◇◇◇
■ すれ違いざま、中野の瞳
3人が会議室を出たその時。
廊下で中野莉香とすれ違う。
彼女は何も言わず、
ただ怯えたような目で3人を見つめた。
その瞳が語っていた。
――助けて。
――私は犯人じゃない。
――でも逆らえないの。
環は思わず中野に声をかけそうになったが、
柊が肩に手を置き、静かに首を振った。
今ここで声をかければ
彼女が“もっと危険な立場に置かれてしまう”。
環はぎゅっと唇を結ぶしかなかった。
◇◇◇
■ 反対派の動き
その奥の廊下では――
徳山和則が腕を組み、
にやり、と不気味に笑っていた。
「……さて。
そろそろ“こいつら”にも……
痛い目みてもらおうか」
その影は
もう3人のすぐ近くまで迫っていた。




