第8章 「守る」と決めた人たち
■ 静かな会議室で
凪の調査がひと段落して、
会議室に重い沈黙が落ちた。
「……環、今日は何か変だと思ったんだろ?」
柊が静かに問いかける。
「はい……なんか、空気が……
誰かが焦ってる匂いがしました。
怖い、とかじゃなくて……ざわざわする感じで……」
凪もすぐにうなずく。
「僕も、同じ感じありました。
あれは“動き出した人間”の気配ですよ」
◇◇◇
■ 柊、決意を示す
柊は深く息を吸い、
いつになく厳しい表情を見せた。
「……環。
今日から、おまえを1人にしない」
「え……?」
「トイレでも、カフェテリアでも、移動でも。
必ず俺か凪が一緒に行く。
会議室に1人で残るときは、必ず鍵を閉める」
「柊……大げさじゃ……」
「大げさじゃない」
柊が言葉を重ねる声は低く、強い。
「相手は追い詰められている。
焦った人間が一番危ない。
環に何かあったら、俺は……」
そこまで言って、柊は目を伏せた。
その沈黙に込められた想いを、環は胸の奥で感じ取る。
◇◇◇
■ 凪の宣言
凪が、珍しく冗談抜きの声で言った。
「僕も環さんを絶対に守ります。
僕、こう見えて“危険を察知するの得意”なんです」
環が驚いて見上げると、
凪はまっすぐに目を合わせて微笑んだ。
「柊先輩の大事な奥さんを守れなかったなんて、
そんなの僕が耐えられませんからね」
「凪くん……」
柊が小さく笑う。
「……おまえは俺の弟分どころじゃないな。
頼りにしてる」
「もちろん!
僕が守りますよ、柊先輩と環さんの“ぽかぽか”を」
◇◇◇
■ 会議室にルールができる
柊がノートに書きながら言う。
「環が1人になる時間をゼロにする。
この3つを徹底する」
1. 移動は必ず2人以上
2. 会議室は環が1人になる時は必ず施錠
3. 環の位置情報を常に共有する
「なんか……刑事ドラマみたいですね……」
環が苦笑すると、
「環を守るためなら、何だってやる」
柊が即答し、
「僕もです!」
凪が元気よく乗っかる。
環は胸がじんわり熱くなり、
小さな声でつぶやいた。
「……そんな風に守ってもらえるなんて……
なんだか、すごく……ぽかぽかします……」
◇◇◇
■ 不穏な知らせ
そこへ、突然ノックが鳴る。
「失礼します」
顔を出したのは、アストリアの中根麻由美だった。
「少しお話があります。
……“美乃課長の件”、社内でまた広がり始めました。
あまり良くない方向に」
柊と凪が一瞬だけ視線を交わし、
空気がさらに重くなる。
「動き出したな……」
凪が低くつぶやいた。
柊が環の手をそっと握る。
「環。
絶対に離れないからな」
「……はい。柊……」
環は小さくうなずき、
その温度の中に安心を溶かしていった。




