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EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season10 ― 言わなかった後悔、言わなくてよかった光 ―  作者: 柊梟環
EVOLVE〜エヴォルブ〜 Season10 ― 言わなかった後悔、言わなくてよかった光 ―
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✦ Interlude ― 美乃と再会した午後 ―

仕事帰りに立ち寄った、

なんてことのないカフェ。


ほんの少しの偶然が、

たまきの胸を小さく揺らした。


しゅうの過去に触れるのは、

ときどき少し怖い。


だけど——

その“揺れ”の先にあるものは、

いつもぽかぽかとした「安心」だった。


柊、環、そしてなぎ

3人が何気なく過ごす日常の一幕。

その中にある“選ばれた手”と

“家族のような温度”を描いた、小さな物語です。

カフェの静かな午後。

ミーティングを終えたしゅうなぎたまきは、いつものように席に向かおうとしていた。


そのとき、背後から落ち着いた女性の声がする。


「……柊くん?」


振り返った瞬間、柊の目がわずかに見開かれた。

そこに立っていたのは、かつてクロノス時代に同じプロジェクトで働いた先輩――北澤美乃きたざわよしのだった。



◇◇◇



最初に彼女が口にした言葉は、

いつかしゅうに届かなかった想いの残り香だった。


「好きと言わずに終わる。

 ……これほど後悔するとは思わなかったわ。」


その表情は、凛として、少しだけ寂しげで――

自分自身にようやく区切りをつけた女性の表情だった。


「あなた、いい人見つけたのね。」


柊は一瞬だけ視線を落とし、言葉を選ぶ。


「……はい。結婚しました。」


その言葉を聞いた途端、美乃よしのの瞳がやわらかい光を帯びた。


「そう……なら、安心したわ。

 もし私があなたのそばにいたら……きっとあなたを壊してた。

 私ではダメだったのよ。」


そう言って微笑むその横顔は、やっぱり美しくて、

どこか諦めて、そして祝福していた。


「結婚おめでとう。

 あの子の手、離しちゃダメよ。

 ……あの子がいなくなったら、きっとあなたが壊れてしまう。そんな気がするの。」



◇◇◇



少し離れた席で、たまきはその姿をただ見つめていた。

胸がぎゅっと締めつけられ、言葉も出ない。


なぎが気づいてそっと声をかける。


「環さん、大丈夫ですよ。

 しゅう先輩、環さんしか見てませんから。」


そのひと言に、環の胸の奥がじんわり熱くなる。

少し涙がにじんだ。



◇◇◇



美乃よしのとの会話を終え、しゅうが戻ってくると、

たまきは笑顔をつくったが、隠しきれない不安がにじむ。


それに気づいた柊は、黙って環の手を握った。


そこへ、なぎがいつもの調子で割り込む。


「柊先輩、あの方誰ですか?

 まさか元カノとか?……じゃないですよね〜。」


「凪、何言ってんだ。違う!そんなんじゃない。」


環はまた胸がぎゅっとして、視線を落とした。


「じゃ〜誰なんですか〜? 何話してたんですか〜?」


凪がいたずらっぽく追及する。


柊は小さく息を吐き、ふっと苦笑した。


「あの人は、俺がクロノスに入って3年目くらいのころ、同じプロジェクトメンバーだった人だ。

 ……昔の気持ちを、さっき初めて聞かされた。」


環の肩が小さく震える。


「でも、結婚したって言ったら……」

柊は環の手を軽く握り直す。

「すぐに環のこと、わかったみたいだ。

 『大切にしろ』って言われたよ。

 だから安心していい。俺には環だけだから。」


「……柊……」

環は小さく頷いた。その目には少し光が戻っていた。


凪がニッと笑う。


「ほら〜!やっぱりそうだと思ってましたよ〜。

 ね、環さん。」


「……凪くん……ありがとう。」


柊は照れ隠しのように環の肩を少し強く引き寄せる。


「凪、おまえ、環になんて話してたんだよ……?」


「聞いちゃいます?

 “柊先輩は環さんしか見てませんよ”って言っただけですよ〜。」


「……っな……おまえな〜……」


「だって、本当にそうじゃないですか。

 もし環さんがいなくなったら……柊先輩、壊れそうですもん。」


「……は? おまえ、話聞いてたのか?」


「いや、聞こえませんでしたよ。ねぇ環さん。

 まさか同じこと言われたんですか?あの人に。」


「……あ、ああ……そうだ。まったく同じこと言われた。

 ……凪、おまえ、ときどきびっくりすること言うよな。」


「え〜? そんなの毎日見てればわかりますよ〜。」


そのやり取りを聞きながら、環がふっと笑う。


「お、やっと笑ったな。」


「……はい。

 2人の会話って、なんかぽかぽかしますね。

 私、柊と凪くんと一緒にいられて……幸せだな〜って思いました。」


「そうか……俺も環が隣にいてくれて幸せだよ。」


「もう〜またイチャイチャ始まった〜!

 ちょっと僕もいるんですからね〜!」


「はは……そうだな。

 凪、おまえも入ってるよ、ちゃんと“幸せ”の中に。」


「そうですよ。私たち“家族”ですから。」


「よかった〜!ありがとうございます〜!!」



◇◇◇



深夜の寝室。

淡い灯りの中、しゅうたまきを抱き寄せながら、目を閉じていた。


――あの言葉。


“あの子がいなくなったら、あなたが壊れる。”


そしてなぎの同じ言葉が、不思議と胸に刺さる。


同じ頃、環もまた思い返していた。


「もし私がいなくなったら、柊が壊れる……」


胸がきゅっと痛んで、柊の胸元に顔をうずめる。


「……環、どうした?怖い夢でも見たか?」


「ううん……違うの。

 今日、凪くんが言ってた言葉思い出して……

 柊が壊れるって……怖くなったの。」


柊はしばらく黙り、環の髪に手を添える。


「そうか……

 俺もその言葉、思い出してた……」


「え?柊も?」


「うん……俺は、自分でもそう思う……環がいなくなったら俺は俺自身を見失うだろうなって。」


「……柊……私、柊の前からいなくなったりしません。なにがあってもここにいます。……だから安心してください。ちゃんと柊の隣にいます。ずっと……私は柊を壊したりしません。」


「うん。わかった。ありがとう、環。」


「柊……怖かったんですか?」


「そうだな……ああ言われて驚いたけどな、俺はずっとそう思っていたのかもなって思ったら怖くなった……」


「……柊……私も怖かったんです。

 柊が壊れるって聞いたとき、私じゃなくて柊が壊れちゃうのがいやだって思いました。私が柊を壊してしまうのがいやだって……柊を壊したくない……柊は柊のままでいてほしい……私は絶対、柊を壊さない……そう思いました。」


「……環……」

柊は環のぬくもりを確かめるように強く抱きしめ

静かに息を吐いた。

ほんの一瞬の不安も、

誰かを想っている証なのかもしれない。


たまきは、不安になった自分を嫌うのではなく、

“隣に手を差し伸べてくれる人がいる”

ということを、あらためて知った。


しゅうは言葉で説明するよりも、

手を握ることのほうが誠実だと知っていて、

なぎは2人が少し揺れると、

そっと背中を押す役になる。


3人でいるときに生まれるあたたかさ。

それは家族と呼びたくなるような、

静かで優しいひかり。


不安でさえ、

この場所ではぽかぽかに変わっていく——

そんな幕間でした。

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