49話 ダンジョン研究家
隠し部屋の前で待つこと数分。
コツコツと誰かが降りてくる音がし、すぐにその姿が見えた。
「やぁ。キミが町田のダンジョンマスターだね」
「ええ」
向こうから声をかけられた。いくら階段から降りて視界に入る場所に俺が立っていたとしても、幽影の雑面には存在感を薄くさせる効果があるのに。
うーん……気配察知系のスキルを持ってるんだろうか。
「ふぅん。ま、今日はよろしく頼むよ」
「こちらこそ。では中にお入りください」
隠し扉を開けて研究者さんを中に誘導する。
「おや、前来た時はなかったと思うが、今回のために増設したのかい?」
前来た時には見つけられなかった可能性もあるだろうに、どうしてなかったと言えるんだよ。
東畳さんの時より油断ならないな。
「じゃあそういうことにしといてください」
「その言い方じゃ違うみたいだねぇ」
なんてことを言いながら研究者さんは隠し部屋に足を踏み入れた。
なにやら頷きながら部屋の中を見渡している。
「なるほど。興味深い」
まだ部屋に入っただけなんだけど?
「いや、すまない。初見のアイテムが結構あったのでね。例えばこの魔動式置き時計は一見、時間を調整するツマミやボタンがないように見えるが、現在の時刻を指しているのだろう。これはアイテムを出現させた時から時間があっていたのかい?もしこのアイテムを時差のある場所に持って行ったらどうなるのだろうかといろいろ考えてしまって」
「不思議とその場所の時刻を正確に刻む置き時計っていうのがアイテム説明欄に書いてあったので海外に持って行ったらそこの時刻に合うんじゃないですかね」
「なるほどなるほど。ではこの時計はどうやって正確な時間を測っているのだろうか。見たところ電波時計ってわけじゃない。そもそもダンジョン内に電波は通ってないからね。アラビア数字が12個並んでるのも不思議だ。確かに地球では12進法が一般的だが、十六進化時間だって存在するわけだしもっと他の概念が持ち込まれていてもおかしくない。数字だって漢数字でもローマ数字でも良かったはずだ」
今日はこの人時計の話をしにきたのだろうか。
てかなんでアイテム名知ってんの。
こう、このダンジョンに招く人は一度語りだすと止まらない人ばっかだな。
「あぁ、今日はそんな話をしにきたわけじゃなかったね。まず最初にうちの妹が無理な接触を図ったようで申し訳ない。確かにダンジョンマスターの協力者がいたらもっとわかることは増えるのにとぼやいたことはあったが、それで協力者を確保するまで進めるとは思わなかった」
「いえ、別に。接触してきたのはあなたの妹さんだけでもないので。特に瑛士は本名を出してますからね。やろうと思えば居場所の特定は簡単だし、今までもダンジョン関係でいろいろ言われることもあったようです。俺にまで話を通したってことは瑛士的には悪い人とは思わなかったんでしょう」
瑛士は基本アホだが悪意のある人を見抜けずに俺に紹介するほどバカでもない。
むしろアホだからそこら辺の感覚は優れているというか、良い対人関係を作るのがうまいというか……まぁ、妹さんの所為で探索に行けなくて残念がってても俺に電話を繋げるくらいには悪意は感じなかったんだろう。
「そう言ってもらえると助かる。それで本題なのだが、町田さんもダンジョンの秘密を探っているという認識でよかったかな」
「まぁどちらかというと声の目的が1番気になっているところではあります。あとはあなたがどうしてここまでダンジョンに詳しいのかとかね」
「声か!私も気になるところだ。人類には1度しか流れなかったが、話を聞くところによるとダンジョンマスター側は2回流れたんだろう?どんな風に言ってたんだい。
あぁそれと私がダンジョンについて詳しいのは少々特殊なスキルを持っていてね。見ただけでモノの詳細がわかる真識眼というやつだ。最初に配られたスキルポイントを全て使って手に入れたモノだがなかなか使い勝手は悪い。なにしろ常時発動型なものでこちらではオンオフの切り替えができない。見たくないものも見えてしまうわけだ。
だからあなたのステータスも見えてしまっている。まぁこんな出鱈目なステータスが見えたところで、というのはあるだろうが。とにかくそういうわけだからダンジョンの構造も人より少し詳しくわかるというわけだ。例えば隠し部屋に続く壁や、モンスターがどこから湧いているとかもね」
「なるほど」
こっわ。ステータス誤魔化しといて本当に良かった。
あと、そこまで色々わかるならスポナーの存在も知っているんだろう。そこから何匹出てくるのかも。
ずいぶんチートなスキルをお持ちのようで。そりゃ妹さんが"知ってしまうのは許して"なんて曖昧なことも言うわけだ。
人類は自身に才能があるスキルしか取得できない。最初に貰うスキルポイントも10前後が平均的のようだが、才能がある人にはもっと配られたし、ない人にはもっと配られなかったという話だ。
さて、真識眼をダンジョンマスターが取ろうとすると……うわ、100万ポイントも必要なのかよ。
俺の感覚的にはポイントが高ければ高いほど強いスキルとなっているし、人類で取得する人も少ないスキルとなっている。
それを最初から取れたとかどういうことだよ。天才って言われてたしそういうこともあるのか?にしたってズルすぎるスキルだ。いや、今は置いておこう。
もともとこちらの情報を知られるのは仕方がないという前提で今日は来たんだし。
「ダンジョンマスターが聞こえた声は仰る通り2回です。
最初は“抽選により、ダンジョンマスターに選ばれました”から始まりました。その後1ヶ月後、人類の侵攻が始まるから攻略されないよう備えろって言われた後に“ダンジョンマスターになることを受け入れますか?”と聞かれました。
なお、ここで受け入れなかった場合は記憶が消されていたらしいです。
目の前にボタンが現れ、<はい>を選択すると、承認を得られたからと肉体の仕様変更を行われましたね。肉体の仕様変更と言っても視界が一瞬光っただけで何が行われたのかはこちらも把握していません」
何度もあの時のことを繰り返し思い返していた。だから暗唱できるほどではないとはいえ、詳細にあの時のことも覚えている。
言われた言葉はスマホのメモに残してあったから、スマホ見れば全文わかるんだけど。まぁここじゃ使えないし。
「なるほど。一方的な宣告ではなく、選択を迫られたと言うわけだな。人類側の声とは大きく違う。小嵜さんの動画で言っていた通りという訳か」
「えぇ。ダンジョンマスターは全て同じ声を聞いていると思いますよ。視界が光ったあとは、ダンジョン運営をサポートするAIを選ぶよう言われました」
「サポートキャラというやつだな。AIというのは初めて知った。どういうAIがあって町田さんは何を選択したのだろうか」
文章を読んだだけだから流石に俺もここは正確に内容を覚えてるわけじゃない。
俺はアルファタイプからイプシロンタイプまであって、初心者向けとか防御よりとか攻撃よりとかそれぞれに特色があったことを伝えた。隠すことでもないので自分はデルタタイプを選んだことも。
「なるほどなるほど。つまりダンジョンマスターは全員サポートAIの手伝いがあってダンジョンの運営をしているのだな。これで少し納得がいった。
いくらなんでもダンジョンマスター1人で人類に攻略されないようなダンジョンを作るのには無理があると思っていたんだ。
そしてデルタタイプはサポートが最低限だったからこそ、ダンジョンマスターの思想が強く反映されたダンジョンが生まれた。小笠原ダンジョンや富良野ダンジョンもなかなか個性的だし、あそこもデルタタイプを選んでいるのかもしれない。
AIについてはもっと詳しく聞きたいところだが、先に声について全て聞こう」
「わかりました。AIを選ぶと、ダンジョンポイントの配布が行われる、初期ポイントの10万に加え、俺はデルタタイプ選択特典で追加で2万ポイント配布されました。最後は“以降ダンジョンポイントの配布は行われませんので、お気をつけてご利用ください”で終わりです。以降ダンジョンについてのあれこれはAIによって案内されました」
「ふむ」
「そして2回目は今年の元日。9時ちょうどだったと思います。唐突に“ダンジョンマスターの皆様にお知らせです”と言われました。条件を満たしたダンジョンには、特典として拠点の周辺地域を侵略する権利が与えられる、とのことでしたが、俺は対象外だったので詳しいことはわかりません。ただ、“この権利は24時間で消滅します。特典を利用したい方は時間内にお使いください”と言ってたんで、あの日しかモンスターは氾濫させられなかったんでしょう」
「特典を使うことを選んだところのみ氾濫したのか。それはどういう手順で行われたのか非常に気になるところだが、今回は諦めよう。代わりにいくつか質問しても?」
「えぇ、どうぞ」
こちらもいくつか後で質問するし、今回はそういう集まりだから別に何を質問されても構わない。
ただ、俺より細かいところを気にする相手だ。
答えられるかわからないけどな。




