46話 階層更新
新しく練習場を作り終わり、ダンジョンの作成画面を閉じた瞬間。
『通知。ダンジョンが14階層まで侵攻されました』
いつものAIの声が流れた。
13階層を突破されたら階層の更新を行う予定だったので、14階層に人が来たら教えるようAIにお願いしてたんだよな。にしてもたった今画面閉じたところで通知来るとはタイミングが微妙だ。
通知で思い出したけどそういえばアンケートの紙触ったらって通知もお願いしたままだった。もうアンケート用紙ないのに。
「14階層に侵入があったらっていう通知とメモ帳に触る人がいたらっていう通知切っていいよ」
『承知しました。通知をOFFにします』
アンケートの方は切らなくても条件満たす人が出てくるわけがないんだから通知は来ないだろうけど、無駄な命令してる意味もないしな。
そんなことよりも新しい階層についてだ。
14階層は左右が落とし穴で歩ける道幅は1mしかないけど、1本道なのでその気になればすぐに攻略されてしまう。流石に初見のゾーンは警戒して強引に進むことはしないだろうから、今日突破されることはないだろうけどさ。
14階層の次は15階層のボス部屋でこっちも攻略は簡単だから、さっさと16階層以降を作った方がいいのは間違いない。
どんな風に作るかはすでに考えてある。
1から5階層はモンスターに慣れるためのチュートリアル。
6から10階層はダンジョンに慣れるためのチュートリアル。
11から15階層は環境変化に慣れるためのチュートリアル。
そろそろチュートリアルのネタが尽きてきたので、方向性を変えて探索者には16階層から19階層を行き来してアイテムを探してもらう、ストーリー仕立てのチュートリアルにしようと思う。
まず、16階層は2万ポイントを使っていつものように迷路を作る。配置するモンスターはスケルトンだ。
ちょっとだけ所沢ダンジョンを意識しているが、こっちは武器持ちしか出現しないし、倒しても武器のドロップはしない。代わりにドロップするのが本の切れ端だ。
そこにはAIに考えてもらった可哀想な少女の物語の1部を載せた。切れ端を全12種類を集めるとストーリーの全貌を掴める仕組みにするつもりだ。
デルタタイプのAIは自分からは何もしないけど、頼めば意外となんでもしてくれる。
入り口にはいつも通りの看板を設置した。
【チュートリアル(終) たからものを返して少女の無念を晴らそう】
(終)と書いた通り、チュートリアルは今回で本当に終わりにする。いや、だってもうネタ無いし……頑張れば出せなくもないけど、ゲームやっててチュートリアルがこれ以上の長さになるなら俺はキレる。
今回は20階層までで一つのチュートリアルという扱いにするから看板の設置は16階層のみだ。
続く17階層はゾンビ、18階層はグールが出るようにし、構造は16階層と同じく迷路。18階層までのドロップアイテムは本の切れ端で固定だ。
そして19階層。20万ポイントを払って環境を朽ちた洋館というものにした。
いつも設置している⬜︎1つでおどろおどろしい雰囲気の洋室になり、隣接させて配置すると部屋同士がドアなどで繋がってる判定になる。⬜︎を道みたいに細長くすれば、自動的に洋館の廊下みたいな内装になった。自動生成された内装を変更したい場合は変えたい⬜︎をタップすることで切り替えられるらしい。
部屋が5種類くらい、廊下は2種類しかないけど、それでも今までの環境変化と比べて10倍のポイントを使うだけあって、なかなかできる事が多い。
せっかく種類を選べるが、方向感覚なくさせるために全部同じ内装を選んで、申し訳程度に部屋の大きさを変えた。全部で部屋は30あり、廊下ゾーンは10個作った。それを適当に組み合わせる。
出現させるモンスターはレイスだ。見た目は半透明の人形をしたナニカで、幽霊を想像してもらうのが手っ取り早い。ただの武器じゃ物理攻撃が通じないのでなかなか厄介な敵だ。倒すには聖属性のある武器か、魔法を使う必要がある。特に光魔法には弱い。
19階層でドロップするアイテムは本の切れ端ではなく確率で1カラットあるかないからくらいの宝石をドロップするようにした。なんの宝石かは完全にランダムである。
9階層に続き、19階層も稼げる階層になるかもしれないな。
20階層に行くには、いつもだったら階段を使うところ、今回は魔法陣にした。
階段より魔法陣の方が細かい設定ができるんだよな。
今回設定した魔法陣の発動方法は"たからもの"を陣の真ん中に置くこと。
その“たからもの”がなんなのかは運が良ければ切れ端1枚あればわかる。
今回ばら撒いたストーリーを要約すると、館の離れに閉じ込められていた少女がもらったタネを育て、赤い花を咲かせる。それを押し花にして少女はたからものとして大切にした。一方本館では夫人がルビーを盗まれたと騒ぎ立てていた。使用人から少女が赤いものを大切に持っていたと聞いた夫人は宝物を出せと詰め寄るが、少女は拒否。夫人は少女を殺し、遺体を探すもルビーは出てこない。証言をした使用人を殺し、宝石が見つかるまで他の館の人間も殺し続け、とうとう館は廃館となってしまった、というお話である。
つまり夫人が少女に盗まれたと勘違いした赤い宝石を置けばいい。
発動した魔法陣は19階層階層から20階層にいける階段のみ設置した部屋へと繋がっている。この部屋のみ朽ちた洋館の中で選んでなかったバリエーションの部屋タイプにして、雰囲気を若干変えた。
20階層はいつものボス部屋だ。
今回配置するボスは19階層でも配置したモンスター、レイス。ただし、少女の形をしており、その子は一切攻撃しない。
AIに聞いたら人型のモンスターは希望すればある程度形を決められるしモンスターを無抵抗にさせることも出来るって言われたからさ。やってみたくなっちゃった。
ちなみに人型のモンスターにはゴブリンやオークなんかも含まれていて、希望すればメスにもできるし、その生物の範囲に収まるなら身長を変えられるし、顔も変えられるらしい。今回のことで初めて知った。
レイスはもちろんゾンビ、グールなんかは人型により近いからもっと細かく決められるのだとか。
ということで、レイスの形を設定してみた。
今回のチュートリアルでは、今までの階層で集めた物語に登場した少女っぽい雰囲気を感じる無抵抗なレイスをどれだけ罪悪感を抱く事なく倒せるかが鍵だ。
少女型のレイスを倒すと少女の本当の“たからもの”である赤い花の押し花がドロップする。なんも効果もないただの押し花だけど、ぜひ探索者には大切にしてもらいたいものだ。
さて。今回のチュートリアルは“たからものを返して少女の無念を晴らそう”というものである。
夫人の宝物を夫人に返して、少女レイスを倒すことが無念を晴らすことになるのか。
よく考えなくても、そんなわけがないだろう。
これで晴れるのは夫人の無念だけだ。
今のままだと少女レイスから“たからもの”奪ってることになるしな。
今の攻略方法でもでもレイスを倒した時に21階層へ続く階段が使えるようになるから先に進めはする。でも、チュートリアルはクリアじゃない。
チュートリアルをクリアしたいならまず切れ端は全部集めることが必要だ。
集めた切れ端をページ順に重ね合わせると、隅に書いてあるページ番号がどれも若干ズレていることがわかるので、それが隠し部屋に続く道順になる。例えば数字が右に寄っていたら右に、上にズレていたらまっすぐ進む感じだ。
そうして進むと、最終的に何もない壁にぶち当たる。そこに隠し部屋への扉が隠されているのだ。
隠し部屋の配置と切れ端に記載する道順の連携はAIがやってくれた。
9階層と同じく定期的に配置換えを行う予定だ。
隠し部屋には20階層へ続く魔法陣が設置されており、赤い花で作られた押し花を置くと起動する。
けど、この魔法陣が行く先は20階層でも最初のとは別の隠しフロアだ。ボスもレイスではなく、レヴァナントというモンスターを配置した。
レヴァナントの見た目は綺麗なゾンビみたいなものだ。ゾンビと違って魔法が使える。
レイスやゾンビの上位種、リッチよりは下の位置付けで、物理攻撃は効くが首を切っても再生するのでやっぱり聖属性の武器か魔法が必要である。
夫人に見立てるために、成人女性の見た目を採用した。
こいつを倒すと、21階層に進める魔法陣が現れ、これを踏んで先に進めば、見事チュートリアルクリア。
最初の部屋の1階層へ続く階段の目の前に魔法陣を設置した。花を返して起動させた魔法陣を踏んだ者のみ発動し、行き先は21階層だ。これで次からはチュートリアルをしなくて済む。
なお、最初の部屋の魔法陣は追加のポイントを支払って条件を達成した者しか見えないように設定した。また、階段の目の前にあるので、スキル使って飛び越えでもしない限りは自動的に21階層に飛ばされる。
1階層にさっき作った練習場を使いたかったり、チュートリアルの階層を探索したい場合は21階層から階段を使って戻って来ないといけないというちょっと面倒な仕様だ。
まぁでも、チュートリアルをスキップさせろと散々言ってきたのは探索者達なんだし、これくらいは許容範囲内だろう。
それに、チュートリアルのクリア方法やこのデメリットはいずれ誰かが情報をばら撒くだろうから、強制スキップが嫌ならクリアしなきゃいい話だしな。
とりあえず今日はここまで。
最後に階層を更新したのは4月だから、おおよそ2ヶ月ぶりの階層更新となった。
こっちは別に動画で宣伝しなくていいや。
主人公がばら撒く用に作った物語を一応載せておきます。
とある大きな館。そこでは父親と少女、それから使用人達で暮らしていました。しかし、新しく夫人が来ると、少女は邪魔だからだと小さな離れに追いやられ、ひとりぼっちで過ごすようになりました。
みんな夫人の言いなりで、誰も少女を助けてくれません。そんなある日、とある使用人が少女に誕生日プレゼントとして、何かを渡してきました。それは、ぼろぼろの袋に入った小さなタネでした。
少女はそれがただの要らないものを押し付けられただけだとわかっていましたが、誰かから何かをもらうのは久しぶりだったので、嬉しくてそのタネを大切に育てることにしました。
少女は毎日、水をやり、話しかけながらタネを見守りました。そしてついに、タネから美しい赤い花が咲きました。毎日愛情を込めて育てた花です。美しい花を見ているだけで1日を過ごせました。
けれど、花はいつか枯れてしまうもの。それが嫌だった少女は、枯れる前に花を摘み取り、押し花にして、常に肌身離さず持ち歩きました。自分のたからものを誰にも渡したくなかったからです。
ところが、本館で事件が起きました。新しい夫人が、大事なルビーの宝石を盗まれたと大騒ぎをし始めたのです。夫人は屋敷中の人々を問い詰め、誰が盗んだのかを必死に探しました。
そんな中、ある使用人が「少女が赤いものを大切に持っているのを見ました」と言いました。夫人は、それが自分のルビーだと思い込みました。
「あの少女が盗んだに違いない!」
夫人はそう言い、離れに駆け込みます。
「宝物を出しなさい!それは私のものだ!」
少女の腕を掴みながら、夫人は怖い顔で捲し立てます。
けれども、少女は泣きながら首を振りました。
「これは私のたからものです。誰にも渡せません。」
夫人は怒り狂い、少女をさらに問い詰めましたが、少女は自分のたからものを手放しませんでした。そして、怒りに任せた夫人は、ついに少女を殺してしまいました。
少女の亡骸を探してみても、出てきたのはただの押し花だけ。ルビーは見つかりません。騙されたと思った夫人は使えない証言をした使用人をその場で殺してしまいました。しかし、それでもルビーは見つかりません。
別の使用人を問い詰めました。答えてくれなかったので、夫人はその使用人を殺しました。それでもルビーは見つかりません。
館のコックを問い詰めました。答えてくれなかったので、夫人はその使用人を殺しました。それでもルビーは見つかりません。
そうして、夫人は屋敷中の人々を次々に殺し続け、ルビーが見つかるまで誰も逃がさないと言い張りました。最後には誰もいなくなり、館は静かに廃れてしまいました。遠い昔のことですが、今でもその館では夫人がルビーを探し続け彷徨っているといいます。
おしまい。




