10話 来訪
3月。高校の卒業式。
式が終わり、教室で友人達と高校生活を惜しんでいた中、それは起こった。
『ダンジョンマスターからの侵攻を確認しました』
「えっ」
「どした?」
「いや、なんかもうグループ抜けてる人いて驚いただけ」
「うわマジじゃんはや」
「鈴宮なんてやつうちのクラスにいたっけ」
「あーそれ確か高橋だよ」
「は?なんで鈴宮なん?」
「推しの名字らしい」
「えぇ」
よし、思わず出してしまった声を誤魔化せた。
今すぐダンジョンの様子を確認したい。
でもこの状況で視界のカメラアイコンをタップなんてできない。やったらただの頭のおかしい人である。
なんでよりにもよって今日来るんだよ。
どうしよう。でも見たい。
「俺ちょっとトイレ行ってくるわ。まだ帰るなよ。置いてかれたら泣くからな」
「そんなことしねーって」
「いいからはよ行け」
無理矢理過ぎたか?
でも抜け出せはした。宣言通りトイレに行って、急いでダンジョンの様子を確認する。
探索者ライセンス制度が始まってからまだ1ヶ月も経ってない。ダンジョンに来る人数は少ないから、現時点にいる場所で割り出せる筈だ。
時間的に……この女か?
長い髪をポニーテールにまとめていて、メガネをかけている。服装は黒のシンプルで動きやすそうな格好だ。
とてもダンジョンマスターには見えない。
それでも防具は着けておらず、刀一本でオークを倒した様子から、人外味を感じた。
このままだとあっさり最下層まで突破されそうな勢いだ。
俺は慌てて10階層目を作った。
大きさは横幅が1m、縦が50m。そして落とし穴を使い、床の深さも50mになるようにする。
落とし穴の最大幅は本来4mなのだが、もう一つの穴を隣接させることで巨大な穴にできる。
罠同士を隣接しておけるというのは、7階層の罠を設置していた時に気づいた仕様だ。
なお、罠の下に罠は設置できなかった。つまり落とし穴の中に別の罠を仕掛けることはできない。
正直巨大な穴を設置するのはダンジョンとしてどうかと思うけれど、緊急事態だから仕方がない。
コア部屋まで来られるよりマシだ。
このダンジョンマスターの女が空でも飛べない限りはこれで攻略されないはず。
「これって画面の女を追尾して映すことできる?」
『回答:可能です』
「じゃあやって」
『承知しました』
これで様子を見られるようになる。
女のダンジョン攻略の様子を小さく表示したまま、俺は友人の元へと戻った。
「ただいまー」
「みんなでこの後カラオケ行くって話になったけど蒼斗どうする?」
「いっつもカラオケだな。最後くらい他の場所にしね?」
「むしろ最後だからこそだわ」
「それはまぁ確かに」
と言うことでカラオケに行くことになった。
早く帰りたいんだけどな。
「つーか最後とか悲しいこと言うなよ。大学生になったら俺らと会わないつもりか?」
「言葉の綾だって」
「そもそも来週の旅行で会うから最後じゃないしな」
「そーそー!大阪旅行楽しみだよな」
「梅田ダンジョンとか行っちゃう?」
「ライセンス持ってねぇよ俺ら」
「実際ライセンス持ってないと入れないわけではないんだよな。違法なだけで」
別に入り口で確認とかあるわけじゃないしな。
ライセンスって武器を所持したい時にしか役立たないまである。あ、素材を売りたい時にも使うか。
「じゃあダメじゃん」
「外から見るだけなら捕まらないけど……行く?」
「せっかくなら寄って行こうぜ」
「さんせー!」
「みんなが行きたいなら、まぁ」
「お前も内心は行きたいって思ってたくせに」
「ここら辺にダンジョンがあればなぁ」
ダンジョンマスターならここに居ますよ、なんてな。
まぁとにかくせっかく大阪に行くんだ。見るだけじゃなく、もちろん入ってみたいよな。梅田ダンジョンに。
抜けだせる隙あるか?
そんなことよりも今は目の前の脅威なんだけど。
女の現在の様子はというと、今は6階層を探索中だ。モンスターは次々とやられているが、道に迷っているらしい。
マッピング能力低そうだから8階層までは時間を稼げそう。
その後高校生活最後になるであろうカラオケに行って、みんなでファミレスに寄って帰ってきた。
帰宅時には女が8階層までたどり着いており、現在魔法で辺りを照らしながら、進んでいる。使ってるのはたぶん初級の火魔法だな。ちょいちょい罠に引っかかっているものの、死ぬ前に全部避けてる。
この1ヶ月で8階層まで辿り着かなかった人類がいないわけじゃない。
辿り着いた3割くらいの人が看板を見て帰り、残りの4割が最初に飛んでくる弓矢にビビって帰った。後の人たちは光源をなんとか確保して序盤を攻略しているが、罠に引っかかって死ぬ者も普通にいる。
そう考えると罠に引っかかっても無理矢理突破しているこの女は異常だ。
ちょうどそろそろ新しいチュートリアルの階層を作らなきゃなと思ってたけど、もっと早く作成に取り掛かるべきだったなぁ。
女が10階層まで辿り着くまでにはまだ時間がある。ただの穴からモンスターが飛んでる穴に進化させよう。
まず入り口側の天井付近に棒をかける。続いて、鳥類系のモンスター……マメガラスでいいか。こいつらはスズメほどの大きさしかないカラスだが、嘴と爪に毒があり、集団で動いて、獲物を追い詰める。
これでいくら空を飛べたとしても向こう側に辿り着く前にマメガラスに落とされる。と、信じたい。
マメガラスを数十匹配置すれば完成だ。
最初にかけた棒はこいつらの休憩場所。いくら鳥類系でもずっとは飛んでいられないからな。マメガラスに対して休憩場所のスペースが足りなかったから追加で数本棒を増やした。
そして22時を過ぎた頃。
女が階段を隠していた壁を壊し8階層を突破した。
迷うことなく階段を降りて、コカトリスのいる9階層へ足を踏み入れる。
すると、女が灯していた光によってコカトリスが照らされた。
女が戦闘体制に入った瞬間、コカトリスの能力によって石へと変わる。
10階層とマメガラスのポイントが無駄にはなったが、侵略を無事に防げたのだ。
俺は安堵すると共に頭を悩ませた。
この女の石像どうしよう……




