触れられない問題
「えっ、今月末!? そりゃまた随分と急だな…。」
「はい…。いきなりになってしまってすみません…。」
ハツキちゃんが突然、今月末には町を出ていくと言い出した。
「この町、すごく居心地いいんですけど…当初の目的は一人旅ですし。また違った場所にも行ってみたいなぁと。」
「…アランとのこと、気にしてるの?」
話を聞いていたパトリーが割って入る。アランの玉砕については、以前パトリーから聞いているが…。
「うーん…全く関係ない訳ではないですけど…………」
言葉に詰まっているようだ。他に何か言いづらいことでもあるのだろうか。
「…まあ、いつもの部屋は空けとくから、戻ってきたい時に戻ってきなよ。一人旅、なんだかんだ楽しいからね。」
「おうよ! 俺も昔は一人で帝国をかけ回ったもんだ。流浪の剣士として」
「何年前の話よ…。」
「え、二人とも旅してたことあるんですか?」
「そうだよ。流浪の剣士(笑)だったタリスが行く宛てのなかったアタシを連れて…二人で。」
「あの頃はあんなに可憐な少女だったのに…お前ももう三十路か…時が経つのはイタッ!」
「あんたもほぼ40だろうが!」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
結局、俺とパトリーはハツキちゃんに詳しい事を聞かずに仕事に向かった。マルターナから城に来て欲しいと手紙が来ていたのだ。ハツキちゃんには店番を任せている。
マルターナ伯…俺がガキの頃から知ってる、貴族のジジイだ。今日はまたなんの依頼があって…。
「パトリーちゃん! ますます綺麗になっちゃって! タリス、お前また老けたか? 俺みたいになってるぞ。」
「ぷふっ」
ほんとうるせージジイだなこいつ。先月のエ○本の恨み、まだ忘れてないからな。
「いやーなに、先月のエ○本の件、やっぱり申し訳なく思ってね。お詫びも兼ねて舞踏会をやりたいと思うんだ。それに来る人を呼んで欲しくてね。」
ただパーティーがしたいだけだろ…。
「ただパーティーしたいだけじゃないですか…。」
「ハッハッハ、パトリーちゃんにはお見通しかな。来月に開く予定だから、そっちの店の新しい娘も呼ぶといいよ。」
「あー、そのことなんだけどあの子今月末に町を出ちゃうんだよ。」
「え、そうなの!? うーん…それなら舞踏会は今月にしよう。送別会も兼ねてね。」
「え、そんな急に早めて大丈夫なんですか?」
「大丈夫さ。なにせ、まだ準備は全く進んでないからね。今月も来月も変わらんさ。じゃ頼んだよ。」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「ほんと、自由な人だよねぇ。」
「まぁあれでも、ガキの頃は世話になったしな。自由人なのは今更だ。」
「近所の人たちはどうせ二つ返事だとして、肝心のハツキは来るのかな…。貴族の人も来るんでしょ?」
「ミュージカルの時もノリノリだったし、舞踏会も嫌いじゃないと思うけどな。」
「そうじゃなくてさ…、何となくだけど、騎士の人を避けてる感じがするんだよね。教会にも行きたがらないし、前にマルターナさんが店に来た時も様子がおかしかったし。タリスが元貴族だってことも、一応黙ってるんだから。」
「貴族嫌い…? デリケートな問題すぎて聞けねぇよ…。」
「昔じゃあるまいし。そういうのじゃないって思いたいけどね…。まあ確かに、余計な過去のことなんか聞くもんじゃないか。あたしらも同じようなもんだし。」
「それもそうだな。」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
日が暮れた。近所の人らをだいたい誘い終わったので、パトリーには先に帰ってもらった。俺も教会の修道士を誘ったら、店に戻るところだ。
「あっ、タリスさん! 舞踏会のお誘いですか?」
「なんだ知ってたのか。今月末にやるらしいから、お前らも来いよ。」
「行きます行きます! 最近騎士団の人ピリピリしてたし、憂さ晴らしも兼ねて。」
「なんだ珍しい。なんかあったのか?」
「…ここだけの話なんですけど、最近あの廃病院に人が出入りした可能性があるらしいんですよ。」
「へぇ、あんな外れの建物になぁ。」
何も無い廃病院方面からやってきた、一人旅というには軽装すぎる人物…間違いなくハツキちゃんだろう。
「でもただの廃病院だろ? なんでこんなに大袈裟なんだよ。」
「知らないんですか? 昔あそこで禁術の実験をしてたって噂。」
「どんな噂話だよそれ。それに肝試しで勝手に入る奴なんか大勢いただろうに。」
「うーん、やっぱりただの噂話なんですかねぇ。」
「あんな小さい病院で、禁術の実験なんかできねぇだろ。じゃ、俺は愛しのパトリーの元に帰るぞ。」
「仲良いですねぇ。ヒューヒュー」
「お前ほんとに修道士かよ…。」
ハツキ
・女性の体をしているが、中身は別人の男性
・年齢不詳 (見た目は20歳くらい)
・記憶が無く、仮で「ハツキ」と名乗っている
タリス
・男性、38歳
・なんでも屋
・パトリーの夫で、元貴族
パトリー
・女性、28歳
・なんでも屋
・タリスの嫁




