友達
ラムダの町のなんでも屋に身を寄せてから、およそ1ヶ月が経過した。
廃病院を出る際、「ラムダ」の地名しか見ていなかったが、この国は
“ハルドラ帝国”
という名前らしい。記憶は曖昧なままだが、初めて聞いた感じもせず、言語の壁を全く感じないので、俺はこの国で育った可能性が高い。
「記憶喪失っていっても、普通そこまで忘れるかな。それなりに有名な国だと思うけど。」
「いやー、困ったものです…。」
ミュージカル騒動後、ここに住み込みで働かせてもらっている訳だが、自分のことをほとんど答えられないのは流石に不自然すぎるので、記憶喪失であるということだけは周りに伝えてある。
しかし彼女、パトリーは、そう一筋縄ではいかないようだ。
「うーん、いや、よく働いてくれてるし器用だし、すごく助かってるんだけどね…。
記憶喪失なんだったら、とりあえず教会を尋ねたら色々調べて貰えると思うけど…。」
「大丈夫ですよ。そう……取り戻した記憶が良いものかどうかも分からないですし。」
「それはそうだけどさ。…あっ、来たよ!ハツキ!」
俺がパトリーの優しさに苦戦していた時、一人の男が店に入ってくる。
「よっハツキ! パトリーさんも、おはようございます!」
彼はアラン。なんでも屋の向かいの花屋の息子で、ここ最近それなりに仲良くしている。
今日は彼に遊びに誘われているのだ。
「じゃあ、いってきますね。」
「いってらっしゃ~い!
………(頑張れ!)」
もちろん今、自分が女の体をしていることは分かっている。
パトリーもこれをデートだと認識しているようだが、恐らくはただの友達としてだろう。
俺はあまり深く考えないことにした。
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どこか行きたいところはないかと聞かれ、俺は少し遠くにあるオムライス専門店に行きたいと言った。
「こんなオシャレな店、初めてだわ。」
「えーそうなの?」
「俺の家、あんま外食しないんだよな。」
「自炊するタイプなんだ。」
「ここんとこ、全然儲かってないんだ(小声)。ウチ。」
「なんて触れづらい…。」
「お待たせしました~、スフレオムライス2点でお間違いないでしょうか~」
「わぁお」
「おーー」
目の前に現れたのは、ご飯に対してデカすぎるオムレツが乗った、デカすぎるオムライスだった。
「デカすぎんだろ…。」
「え、フワフワすぎない? ほぼクリーム状じゃん。」
「スプーン入れたら2倍のデカさになった…どうやって食えばいいんだこれ…。」
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「いやー、美味しかった。お会計、折半で良かったのに。お金ないんだから。」
「いやお前もそんなにないだろ…。
てかお前ほんと食い方綺麗だよな。」
「え、私が綺麗~?ほんと~?」
「…。」
要らぬ冗談を言ってしまったと、俺はとても後悔している。
「あ、もうすぐ着くんじゃない? アランが行きたがってたとこ。」
「…。」
「…。」
目の前に広がっていたのは、辺り一面に咲いている花畑だった。
「昔はここ、戦争のせいで焼け野原だったんだと。」
「そうなんだ。…でもすごいね、ほんとに綺麗。
結構遠かったけど、よく来るの?」
「おう…。」
「そうなんだ…。」
「…。」
「……。」
「あ、あのさ、ハツキ。その…俺さ、
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「おっ、おかえり! で…どうだった?デートは。」
「で、デートって、別に何も無かったですよ。いやだな~。」
「……そっかー。…ちょっとお節介だったかな。ごめんね。」
「いや、そんな。」
「あっ、そろそろタリスが帰ってくる時間だ! ご飯作るの手伝ってくれる!?」
「あっはい!すぐに。」
あの後、アランが俺に何を言おうとしたのかは明白だった。
だったのだが、俺はつい強引に話を遮ってしまった。
その後、俺達は何事も無かったかのように、いつもの通りに向かって歩き、普段通りの会話をして、そのまま解散した。
ハツキ
・女性の体をしているが、中身は別人の男性
・年齢不詳 (見た目は20歳くらい)
・記憶が無く、仮で「ハツキ」と名乗っている
パトリー
・女性
・28歳
・なんでも屋
アラン
・男性
・19歳
・花屋の息子




