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怒髪冠を指す

ハツキです。

今、私の目の前にいるのは、淫らな書物を手に赤子のように涙を流す、38歳のおじさんです。



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



「ゆ、ゆるじでぐれっ、パトリーっ…!」


無事ラムダに着いたのもつかの間、タリスの店兼自宅に着いた我々の前にいたのは、まるで逆立った髪が天を突き上げるように怒る、タリスの奥さんであるパトリーの姿だった。


ラムダ到着後、タリスが受けたという高額な依頼というのが落し物の捜索であったことが判明したのだが、なんと報酬が支払われるのは『見つけられたら』という契約であり、タリスが持ってきたのは “よく似た別物”。


結局手元に残ったのは僅かな手数料。そして、


「せっかく持ってきてもらったけど、好みじゃないからあげるよ。」


と成金依頼者に言われて貰ってきた、淫らな書物のみであった。


また、その依頼には特に期限があった訳でもなかったのだが、なんとこの男タリス、金に目が眩んでパトリーとの結婚記念日デートを忘れて家を飛び出してしまったのである。


パトリーが怒るのも当然だ。結婚記念日を忘れて突然家を飛び出し、戻ってきたと思ったら若い女(おれ)と、淫らな書物を連れていたのだ。


「フンッ…!」


「パ…パトリー…っ…。」


彼は今、この世界で最も情けない人物に成り下がった。



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



「はぁ…俺は一体どう謝ればいいんだ…。」


「な、なんでしょう…何がプレゼントとか…。」


「プレゼント…こういう時、何をプレゼントしたらいいんだろう…。」


なんてナヨナヨしいんだ。昨日の彼は一体どこへ行ってしまったのだろう。とはいえ、パトリー激怒の要因には俺の存在も含まれている。ここは何とかしてやりたいものだ。


「それは…タリスさんにしか分からないですよ。私、パトリーさんの事よく知らないですし。」


「何が…パトリーが喜びそうなもの…。

…そうだ!!」



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



辺りは暗くなり、いつもと変わらないであろう通りに妙な緊張感が走っている。

それもそのはず、彼は町中の知り合いを回り、衝撃の提案をしたのである。俺は止めたからな、タリス。






「愛しのパトリー、俺のために出てきておくれ~」


扉が開く。


「はぁ…もういいって。私も悪かったから早く中に……」


パトリーがそういった途端、何処からともなく演奏が聞こえてくる。



「মই আপোনাক ভাল পাওঁ ~~ ♬♬」



恐らく愛を綴っているであろう知らない言語でタリスが歌い初め、通りを歩く人々がリズミカルなで足音を鳴らす。俺も含めて。



タリスの歌とともに聞こえてくる音色がだんだん鮮やかになっていき、“偶然”通りを歩く一般人たちが次々と踊りに参加しだし、一帯はミュージカルの世界へと変貌を遂げる。





~~~~~~~~~~~~





音楽って素晴らしい。音楽は人の心を豊かにしてくれる。先程まで少しバカにしていた自分を殴りたい。


しかし、このサプライズはかなり人を選びそうだ。

「パトリーのことは俺が一番よく分かってる!」

とタリスは自負していたが、本当に大丈夫だろうか。



そんな心配は全く必要なく、タリスとパトリーは今、公衆の面前で熱い口付けを交わしている。


心配ご無用なようだ。


「ヒューヒュー」

「いやー、仲直りできてよかったよかった」

「ハッハッハ、もう喧嘩すんなよー」


歓喜の声と拍手が鳴り響く。


タリスからは誤解が解けたら店の空き部屋を使っていいと言われていたが、今日はやめて置いた方が良さそうだ。

ハツキ

女性の体をしているが、中身は別人の男性。年齢不詳。水や食料をあまり必要としない。記憶が曖昧で自分の名前が分からず、「ハツキ」と名乗ってしまった。


タリス

男性。38歳。パトリーの夫。なんでも屋。金の無いハツキを善意で店に連れてきた。歌が上手い。


パトリー

女性。28歳。タリスの嫁。なんでも屋。サプライズが好き。


ラムダ

とある帝国の小規模都市。民度が高い。

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