ハツキです
出張を終えて自宅のある町へ戻る道中、知らない女に出会った。こいつも町へ向かっているのだろうか?
もう夕方だが、一人で野宿? だとしたらなんて軽装なんだ。いくらなんでも危なすぎる。
変な勘違いをされるリスクを背負いつつ、俺は彼女に話しかけることにした。
「えっと、どうも、お嬢さん。
こんな時間におひとり様は危なすぎでは? 迷子か?」
「ぇっ、ぁっ、、ぁ……」
ふむ、とりあえず人と話すことは苦手なようだ。超久々に声を出したという感じがする。
「ま、町へ行きたくて、ラムダに…。
あっあと、一人旅です。」
一人旅…理由は分からないが、とりあえずこいつが一人旅を舐めていることだけは分かる。
「なるほど……とりあえず、今日は二人とも野宿だろうから、ご一緒しても? 奥さん一筋の健全なおっさんだから安心なさい。野宿にも慣れてるし、飯もたくさん持ってる。」
傍から見たら、おっさんが若い娘に対してワンチャンいこうとしているようにしか見えないだろう。実に心外だ。
「…! じゃあ、お願いします!」
おっさんの誘いに二つ返事もそれはそれでどうかと思うが、まぁいいだろう。
つまりは飢えているのか…。そりゃ大変だ。
優しい俺は、たくさん持っていた携帯用非常食をいくつか差し出すと、彼女の目の煌めきは一瞬にして失われた。
「あぁ、ありがとうござぃます。」
これは、なんて失礼な箱入り娘だ。非常食なんか食えるかってか?
渋々口に運んではいるが、こんなに微妙な顔で食べるやつは初めて見た。
ステーキが出てくるとでも思ったのだろうか。
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日が暮れ、リュックから予備含めた二つのテントを取り出し、設置する。
知らない若い女と“野宿”か。パトリーに一体どう説明すれば…。
…見たところ、野宿の経験はなさそうだ。だとしたらこいつは何処から来たんだ? この辺には、あの廃病院くらいしかないはずだが。一体何者なんだ?
「俺はタリス。お嬢さん、名前は? どこから歩いてきた?」
「え!…………あーーー、っと、 は、…つ、…ハツキ…ハツキです!
どこから……えっと、どこなんでしょうね。」
なんて嘘に満ち溢れた返答だ。怪しい香りしかしない。
が、ここで問い詰めた末、もし彼女が猟奇的殺人鬼とかだったりしたら、俺の人生はTHE END.
それに彼女にもプライベートがある。今は詮索しないでおこう。
どうか寝ている間に殺されませんように。
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夜が明け、テントを片付けて、俺の自宅のあるラムダに向かっている。
にしても随分と少食な女だ。飢えていたはずでは? あれしか食べていないのに腹が空いていないだって? そんなに不味いか、あれ。
「あ、そういえば、タリスさんは何をしにラムダに?」
「あぁ、出張の帰りなんだ、なんでも屋の。」
「なんでも屋…。」
「文字通り、色んな依頼を引き受けてる。今回の業務内容は秘密だけどな。」
「それでこんな遠くまで…大変ですね。」
「いやいや、今回の依頼者は金払いが良くてな、軽い出張で大儲けよ!」
「へー…金…。」
「…」
「…」
「えっと、ハツキちゃん、君、お金持ってる? 今日泊まるとこある?」
「……」
「…とりあえず、うちの店、来るか。」
素性の分からない怪しすぎる女だが、今だけは心配が圧倒的に勝った。
あぁ愛しのパトリー、どうかお許しを…
ハツキ
・女性の体をしているが、中身は別人の男性。
・年齢不詳。
・水や食料をあまり必要としない。
・記憶が曖昧で自分の名前が分からず、「ハツキ」と名乗ってしまった。
タリス
・男性
・38歳
・既婚者
・なんでも屋
ラムダ
・とある帝国の小規模都市




