第二十五話
窓からのどかな日差しが差し込んでいる。アリスは伸びをして、のろのろとベッドから起き出した。
吸血鬼退治の旅から帰ってきてしばらく経ったが、次の吸血鬼は現れていない。とても穏やかな暮らしだ。朝ご飯は何にしよう。アリスはささやかな家庭菜園に水をあげて、野菜を収穫した。かまどに火を入れ、買い置きしていた食パンを切り、温めた。
今は亡き両親に手短なお祈りをして、のんびりと朝食をとる。デザートにはイチジクを食べた。貧血になると困る。
吸血鬼はアリスの都合などお構いなしに血を吸いに来る。アリスは吸血鬼に血を吸われても死なないが、貧血で死なないとは言い切れない。血の吸われすぎで死ぬなんて、まっぴらだ。
川のせせらぎを聞きながら洗濯をしていたところで、足早にやってくる人影が見えた。
「アリスさぁぁん!」
「ユリウス君? 久しぶり」
「ちょっと聞いてくださいよ!」
ユリウスは肩で息をしている。相変わらずだなぁと苦笑して、アリスは水瓶の水を汲む。「ありがとうございます」と差し出したコップを一気に飲み干したユリウスを、アリスは玄関前の折りたたみ式テーブルに案内した。
ユリウスがアリスをエクソシストに誘うことはなくなったが、ときどきこうして話をしにやってくる。ユリウスが部屋に入りたがらないので、玄関前に椅子とテーブルを置いたが、すっかり馴染んでしまった。
「僕、考えたんですよ! 吸血鬼ってワインを飲んでることが多くないですか? ……アリスさんの血を入れたワインを流通させましょう!」
名案を思いついた! と言わんばかりのユリウスの勢いに、アリスは目を細めた。もしもユリウスが犬だったなら、尻尾をぶんぶんと勢いよく振っているのだろう。
「いや、私は見たことないよ、ワインを飲む吸血鬼なんて。血なんて入れたら、異物混入になるじゃん」
「そんなぁ。吸血鬼を一網打尽にする名案だと思ったのに」
輝いていたユリウスの表情が、途端にしょんぼりする。困った犬のようなこの表情を、アリスはすっかり見慣れた。
「多分それ、血が固まると思うよ。……エクソシストの仕事は大変だろうけど、まあ……地道にやりなよ」
「はい。頑張ります」
アリスはまっすぐに返ってきたユリウスの返答に、ため息をついた。ユリウス君は素直すぎるんだよな、と、こめかみに手を当てる。
「ユリウス君は頑張りすぎるから、ほどほどにね」
「じゃあ、ほどほどに頑張ります」
「そういうところがさぁ……真面目すぎるんだよ、ユリウス君は」
ユリウスは困ったように笑うと、椅子から立ち上がった。
「それではまた!」
「え、用事はそれだけだったの?」
「はい」
ユリウスが帰っていくうしろ姿をながめながら、アリスは洗濯かごを抱えた。あたたかな日差しのまぶしさに目を細める。
風が吹いて木々がざわめく。干したばかりの洗濯物が風に揺れ、アリスの胸元でロザリオが光った。
<おわり>




