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第二十三話

「それじゃ、お世話になりました」


 館の住人たちが見守るなか、アリスとユリウスは数日間世話になった礼を述べた。

 アーチ状に組まれた石造りの門を抜け、山道を下っていく。木々のざわめきや小鳥のさえずりに、心が洗われるようだった。隣を歩くユリウスが、傷口に手をあてている。


「ユリウス君、傷、大丈夫?」

「傷が開いたわけじゃないので大丈夫ですよ。まだ少し痛みますけど」

「無理しないでね。休憩しながら街に戻ろう」


 吸血鬼を倒したあと、館の住人たちによって、ユリウスの傷の縫合が行われた。抜糸するまでの間、アリスとユリウスはしばし館に滞在した。旅の途中で傷が開いてしまっては困る。

 館の人々の反応はさまざまだった。アリスとユリウスに感謝をして身の回りの世話をしてくれた者もいれば、すぐに館を出た者もいる。吸血鬼を倒したことを喜ばない者はいなかったが、すぐに元の暮らしに戻るわけにもいかないようだった。屋敷に戻ってきた者さえいた。

 屋敷に戻ってきた人は寂しそうに笑うだけだったが、アリスは街で何が起きたのかをなんとなく察した。


 ──「なんで生きてるの?」「本当に吸血鬼じゃないんでしょうね?」「血を研究させて欲しい」……どれもアリスがかけられてきた言葉だ。


 この屋敷にいる人々は、街を襲うと脅され、吸血鬼に差し出された人々だという。血を吸われて吸血鬼になったと疑われたのではないか。あるいは、街の人々が「吸血鬼に差し出した」という負い目から、よそよそしい態度で接したのではないか。

 まるで自分のときのようだ、とアリスは館の人々を哀れに思った。アリスのように吸血鬼を倒せるならば、納得する者もいただろう。しかし館で働いていた人々はそうではない。完全に元の暮らしに戻ることは、難しいのだろう。

 水やりを手伝ったとき、庭師が言っていた。違う街に引っ越して心機一転する……と。一度街に下りた女性は、似た境遇の人々が集まる屋敷にいる方がいいと言っていた。吸血鬼の秘書だった女性は、館で働いていた人々の気持ちの整理がつくまで見守るつもりでいるらしい。

 休み休み山道を下りるうち、街が見えてきた。市場の喧騒が、街の外まで聞こえてくる。活気あるこの街に、かつて吸血鬼に差し出された人々も暮らしていたのだ。


「早く次の吸血鬼を、倒しに行かなくては」


 ユリウスが隣で拳を固めている。きっとアリスと同じことを考えているのに違いない。その横顔には、汗が浮かんでいた。まだ傷が痛むのだろう。


「傷、治してからね」

「そうですね。……アリスさんもご協力、ありがとうございました」


 気が急いているユリウスに念を押すと、彼はアリスにお礼を言った。

 そうはいっても、今回の吸血鬼はアリス一人では倒せなかった。傷を負いながらもユリウスが銃を撃ってくれなかったら、アリスの血を吸血鬼に吸わせることはできなかっただろう。


「今回はユリウス君に助けられたよ」

「エクソシストとしての役目を果たせて、ほっとしています」

「ユリウス君は吸血鬼との戦いに向いてないんじゃないかって思ってたんだけど、なかなかやるじゃん」

「僕でも、吸血鬼を倒す役に立てたんだって自信になりました。もちろん、アリスさんのご協力あってこそですけど」


 アリスは複雑な思いに駆られながら、満足そうにしているユリウスの横顔を見た。


 ──使命感があるのはいいけど、それ、早く死んじゃわない?


 エクソシストとしての能力があるほど、吸血鬼との戦いに赴く機会は増えるだろう。

 どんなに戦う能力があっても、身の危険があるのは変わらない。今回の吸血鬼との戦いで、アリスが危機に陥ったように。


 ──ユリウス君が早死にするのは嫌だな……。


 ようやくたどり着いた宿の主人と親しげに会話するユリウスをながめながら、アリスはそんなことを考えた。

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