第1話「月光の目覚め」
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<テルミア村>
晴れ渡った空、太陽に照らされた村のメイン通りには、さまざまなお店が並び、村人が行き交って賑やかにしている。
並んだ店の一つに、ある鍛冶屋がある。
青年栗色短髪の青年が、農耕用の鍬を丁寧に鍛造している。
ハンマーを置き、額に流れる汗を腕で拭うと、鍬の鉄の部分を横から熱心に観察している。
レオン「よし。終わりました!どうぞ。」
ボラス「お!ありがとうよ。これで今年もいい作物が育ちそうだ。いやー。それにしてもレオン、おまえさんまた腕を上げてきてるんじゃないか?」
レオン「本当ですか?ありがとうございます!・・・まぁ父さんには及びませんけど。でも、まだまだ修行します。また不調になったらいつでも持ってきてくださいね。」
ボラス「あいよ。世話になった。」
レオン「ありがとうございました!」
レオンは、ボラスを店先まで見送った。
底に村の子供達が走って駆け寄ってくる。
ティノ「レオンーー!」
ユリエル「レオン兄ちゃんーー!」
ミリーナ「待ってよー!」
レオン「お!ティノ、ユリエル、ミリーナ。おはよう。」
ティノ「はぁはぁ。レオン!この前の続き!剣、教えてよー!」
ユリエル「ちゃんと順番守ってね、ティノ。この前、途中だったんだから!」
ミリーナ「ユリエル。あんたも負けるとすぐ不機嫌になるじゃない!ねぇ、レオンお兄ちゃん。ちょっとだけでいいから!」
レオン「わかったわかった。ちょっと待ってて。」
レオンは鍛冶屋の奥から、木の枝で作った遊びに使う小さな剣を持って店先まで持ってくる。
3人の子供達に剣を渡しながら。
レオン「よし。じゃあ、今日は構えからだね。剣は振り回すんじゃなくて、使うんだよ。」
木の枝を使って、レオンが簡単な構えを見せる。
子供達も真似して構える。
レオン「うん。みんな上手い上手い。」
ティノ「ねぇ、今度は敵を倒すための使い方を教えてよ!」
レオンは、木の枝をおろし子供達の前に膝をつく。
レオン「剣はね、人を傷つけるためのものじゃない。」
ティノ「じゃあ、やっつける時はどうするの?」
ユリエル「それは守るためでしょ?」
レオン「そう。剣は、守るためのものなんだ。誰かが怖がってたり、泣いているとき、その人のために、前に立つために構えるんだ。」
ミリーナ「私も、誰かを守るために構える!」
ティノ「よし!俺も!・・・えい!守るための剣ー!」
ユリエル「レオン兄ちゃん!構えもう一回見せて!さっきのカッコよかった!」
ミリーナ「うん。レオンお兄ちゃん。本当に騎士様みたい!」
レオン「はは。騎士だなんて、僕はただの鍛冶屋の見習いだよ。」
子供達は、木の枝でふざけてじゃれあっている。
そこへ、重い荷物を持った老婆が通りかかる。
重い荷物を抱えてよろよろと歩いている。
その姿を視界にとらえるとレオンはその老婆へ駆け寄る。
バステラ「やれやれ。この歳でこんな荷物を運ぶとはねぇ。はぁはぁ。腰が・・・」
レオン「バステラさん!ちょっと待っててください。手伝います!」
バステラ「おや?レオンかい。いつも助かるよ。」
レオン「どちらまで行くんですか?お送りしますよ。」
バステラ「坂の上の倉庫までね。頼んでもいいかい。」
レオン「もちろんです!みんな、剣の続きは、また明日ね!」
ティノ「うん!約束な!また明日!」
レオンは、子供達に手を振って、バステラと並んで歩き出す。
バステラ「あんたの剣は、本当に優しい剣だねぇ。」
レオン「あぁ、さっきのですか?父さんから人を守る剣を教わったんです。」
倉庫まで荷物を運び入れるレオン。
レオン「よし、と。ここで大丈夫ですか?」
バステラ「えぇ、えぇ。助かったよ。蔵の奥は暗いし、足元も悪いから。」
レオンは笑いながら、腕でひたいの汗を拭いながら倉庫から出てくる。
バステラ「ほんと、似てきたよ。おまえの母さんに。」
レオン「母さんに?」
バステラ「いや、優しすぎるところは父さんにかな?」
バステラは、そう言いながら倉庫の扉に鍵をかける。
バステラを見送るレオン。
背後から声をかけられる。
ユラン「おーい!レオン。今朝は何人の手伝いしてきた?」
レオン「ユランおじさん!そんな、大袈裟な。荷物運ぶ手伝いをしてただけですよ。」
ユラン「まったく。相変わらず忙しいやつだな。この前はエルマのばあさんとこの井戸修理したんだって?」
レオン「はい。なんとか修理できました!」
ユラン「お前は、村一番の何でも屋だな。」
レオン「好きでやってるだけですよ。手が空いてると、つい体が動いちゃって。」
ユラン「まったく、お前さんは・・・親父のセレスに似て真面目なんだか、ただのお人好しなんだか。・・・で、昼飯食ったのか?」
レオン「あっ!忘れてました!」
ユラン「だと思った。ほれ、うちの自慢のパン、食ってけ。」
レオン「ありがとうございます。って、これ売り物じゃないですか!?」
ユラン「んなこたぁ関係ねぇさ。助けてもらった人たちの感謝の気持ちよ。パンもお前に食べてもらえたら喜ぶだろうさ。」
レオン「じゃあ、お言葉に甘えて。いただきます!」
パンを頬張るレオンの前に、市場で買い物した帰りの女性が通りかかる。
村人「おや。レオンじゃない。市場の方でセレスがあちこち探し回ってたよ?」
レオン「え?父さんが?」
村人「約束の時間がなんとかって言ってたけど。」
ユラン「お前、のんびりパン食ってる場合か!さっさと行ってこい!」
レオン「え!もうそんな時間!?ありがとうございます!・・・あ!ユランおじさんも、パンありがとうございました!」
ユラン「はいよー。やれやれ。忙しいやつだな。」
レオンはパンを頬張りながら、市場の方へ走って去っていく
<鍛冶屋>
セレス「レオン!今日は、誰の頼みを聞いてきたんだ?」
鍛冶屋の奥に、セレスが腕を組んで静かに座っている。
その様子を見て恐る恐るレオンが入ってくる。
レオン「ちょっと・・・その、バステラさんの荷物を倉庫まで運んで、子供達に少し剣を・・・」
セレス「なるほど、ティノには剣、ユリエルとミリーナは、またケンカか?」
レオン「あはは。今日は、ケンカはしなかったよ。」
セレナ「珍しくケンカは無しか。お前が何かに首を突っ込んでると鍛冶場が静かになるからな。」
レオン「えっと・・・父さん。時間に遅れてごめん!約束してたのに。」
セレス「人のために動けるのは強さだ。でも、約束を守ることも同じくらい大切な強さだぞ?」
レオン「うん。わかってる。・・・気をつける。」
セレス「わかればよし。」
セレスは工房の奥の引き出しの奥から、小さな布包みを取り出す。
セレス「今日は、お前の十八の誕生日だったな。これはな、母さんから託されていたものなんだ。レオンが十八になる日に、渡してほしいってな。」
レオン「母さんが?」
セレスは、布包みをレオンに手渡す。
レオンはセレスの顔をうかがいながら、ゆっくりと布を開く。
中には、淡く光を帯びた指輪「アルテミスの環」
レオン「これは・・・」
セレス「あいつは、これをお守りだって言ってた。母さんにとって、その指輪は特別なものだった。俺にもただの指輪には見えなかった。時々、光っているように見えたんだ。まるで、何かを伝えようとするみたいに。」
レオンはアルテミスの環をゆっくりと指にはめながら。
レオン「・・・ありがとう、父さん。母さん。」
指輪をはめた直後、ほんの一瞬、空気が揺れるような感覚。
セレス「どうした?レオン。」
レオン「いや・・・わからないけど。何か聞こえたような・・・」
セレス「母さんの想いが詰まってるからな。大事にしてくれよ。」
レオン「うん。わかった。」
レオンは指輪を見つめて、優しく微笑んでいる。
<鍛冶屋>
セレスが農具の鎌を熱心に鍛造している。
職人の目つきで鎌の刃先を確認し終える。
セレス「よし、完成だ。・・・レオン!今から、ユリエルのとこに農具一式届けに行ってくれるか?」
レオン「わかった!他に配達はある?」
セレス「今日のところは、これだけだな。」
セレスは農具一式を包み、レオンに渡す。
レオン「意外と重い・・・」
セレス「お?そうか?まだまだ修行が足りんなぁ。」
レオン「う・・・修行代わりに配達頑張ってくるよ!」
セレス「おう!頼んだぞ!」
レオン「はーい!」
レオンが振り向いて店の入り口に向けて歩き始めた時、一瞬、指輪が光る。
レオン「ん?・・・気のせいかな?」
そう思った瞬間、静かだった外から風が吹き込む。
入り口近くに乾かしていた布が1枚、ひらりと落ちる
レオン「雨でも降るのかな・・・」
レオンが店の外に出て空を見上げるが、天気は良く風一つ吹いていない。
セレス「どうかしたか?」
レオン「いや・・・なんでもない。行ってきます!」
レオンは店を出て道を歩いていく。
晴れ渡ったまだ明るい夕方。向こうの空に、わずかに黒い歪みが現れて消える。
<村の市場>
父から預かった荷物を持って歩くレオン。
市場はお店の人たちが、店仕舞いの片付けをしている。
突然どこからか声が聞こえる。
アルテミス「気をつけて・・・」
レオン「え!?」
レオンは驚いて後ろを振り返るが、村人たちは一様に自分の店仕舞いをしていて誰とも目は合わない。
レオン「なんだ?今の・・・」
道の端で馬が急にいななき、繋がれたロープを引くように暴れる
馬の飼い主「おっと!どうした?落ち着け!」
飼い主が慌てて馬をなだめて、馬も落ち着きを取り戻した様子。
市場の家々の屋根から一斉にカラスが飛び立つ。
レオンも他の村人たちもカラスの飛び去っていく方を見ている。
レオン「動物たちも落ち着きがない・・・」
空に再び黒い影がうごめくが、レオンは気づいていない。
そのままレオンは道を歩いていく。
空を映し出し、夕陽が傾いていく。
すっかり陽が落ち、星が広がる空に、わずかにパキッとヒビが入り、ヒビの向こうから怪しげな光が漏れ出している。
<鍛冶屋・レオンの部屋>
レオンの指輪がひときわ強く光るが、レオンは気づいていない。
月明かりの下、熱心に本を読んでいるレオン。
ふと、思い立ち、本を閉じて右手にはめた指輪を見つめる。
<回想・森の小道>
幼いレオンは手に持っていた木の剣をぽとりと落とし、俯き座り込む。
母のイレーネがレオンを守るように抱きしめている。
その傍には、倒れた子羊がいる。
幼いレオン「守れなかった・・・僕があの狼から守るって言ったのに・・・全然動けなかった・・・怖くて・・・足が・・・」
イレーネ「怖くて当然よ。お母さんだって怖かった。でも、逃げなかったでしょ?レオンは。」
幼いレオン「・・・うん。でも、意味なかった。僕じゃ何も守れない。」
イレーネ「違うわ。あなたが飛び出してくれたおかげで、村の人たちが駆けつけられたのよ。それは決して、意味がなかったなんて言わないの。」
レオンの両手を取りながら、まっすぐ見つめるイレーネ
イレーネ「レオン?ちょっとだけ、目を閉じてみて?」
幼いレオン「(目を閉じる)」
イレーネ「目を閉じた時、何が見える?」
幼いレオン「・・・何も見えないよ?暗いだけ。」
イレーネ「そう。でも・・・その暗い中に「見たいもの」を思い浮かべてみて。できる自分。誰かを守って、笑っているあなた。信じたい未来。」
少し間があり、鳥のさえずりが風に混じって聞こえる。
イレーネ「目に見えないものを信じるって、すごく勇気がいること。でもね、信じる力って、時々それだけで不可能を可能に変える力になるのよ。」
幼いレオン「(ゆっくり眼を開く。)」
イレーネ「きっとレオンは、それを使える子になるわ。だから、どんな時でも、信じることを忘れないで。」
光が柔らかく揺らぎ、回想がフェードアウト
<鍛冶屋・レオンの部屋>
レオンは指輪を優しい笑顔で見つめている。
レオン「ありがとう。母さん。・・・僕、信じるよ。できるって、自分を。誰かを守って、笑っていられる未来を・・・必ず。」
<夜・村の星空>
再び、星空に歪み。
<夜・村の外れ林の奥>
低い脈動の音と共に、地鳴りのような振動。
空間が歪み、空間の裂け目から全身が黒く闇に覆われた狼のような姿が2体飛び出してくる。
四足歩行の獣の足音が地を叩き、村に向けて走り出す。
<村・市場前>
夜、村の広場は静まり返っている。
<鍛冶屋・レオンの部屋>
レオンはベッドで眠っている。
レオンの右手の指輪が微かに光を放っている。
外が村人の騒ぎ声が聞こえてくる。
その騒ぎに目をさます。
アルテミス「気をつけて・・・」
レオン「んー・・・」
窓の外に三日月が輝いている。星空を見上げていると、月明かりの中、空に歪みが見える。
レオン「・・・空が・・・揺れてる?」
外から村人の叫び声が聞こえる。
村人「な、なんだあれはーー!」
ただ事ではない空気を感じたレオンは飛び起きて、外へ駆け出す。
<村・市場前>
逃げ惑う人々。
みたことのない真っ黒な狼が2匹、家の壁や屋台を蹴り飛ばして暴れている。
現実とは思えない光景に、一瞬怯んでしまうレオン
村人たちは、木の棒や農具で応戦するが、まるで効果がない。
その先頭に、父セレスの姿を見つける。
レオン「父さん!」
セレス「レオン!?くそっ・・・安全な場所まで早く逃げろ!」
レオン「え・・・」
<記憶の中で声だけが響く>
幼いレオン「僕じゃ何も守れない。」
レオンは、手を振るわせながら、拳を握り、真っ黒な狼に立ち向かう村人たちを見ている。
レオン「くそっ。僕は・・・」
<記憶の中で声だけが響く>
イリーナ「逃げなかったでしょ?レオンは。」
頭の中を駆け巡る不安を振り払うように、頭を振り、剣を手に父セレス達の元へ走る。
村人「うわぁああ!助けてぇ!!!」
レオン「逃げてください!・・・父さん、こいつらは、狼?」
セレス「レオン!来るんじゃない!こいつらは、普通じゃねぇ!」
レオン「なんで突然・・・」
剣を構えるレオンの手に指輪が月に照らされて光っている。
セレス「レオン!その指輪・・・光ってる。」
レオン「え?・・・やっぱり、気のせいじゃなかった・・・」
黒い狼達は、こちらの様子を伺っているように硬直状態になった。
セレス「何がどうなってる?」
レオン「指輪の光が・・・僕を呼んでいる気がする・・・でも何に呼ばれてるかわからなくて。」
セレス「母さんか?」
レオン「わからない。」
アルテミス「気をつけて」
レオン「まただ・・・」
セレス「どうした?」
レオン「気をつけて。って誰かに何度も呼びかけられるんだ。」
レオンが指輪に集中している間に、狼が1匹飛びかかる。
セレス「レオン!危ない!」
セレスが剣で狼を弾き返すも、反動でセレス自身も後ろへ倒れ込む。
セレス「くそっ!」
弾き返された狼が再び、セレスに飛びかかろうとする。
レオン「父さん!」
セレスを庇うように、レオンが飛び出す。
その瞬間、月の光に指輪が眩く輝き出す。
光の中から、白銀の神に星空のようなローブを着た少女が現れる。
少女は右手を軽く振り払い、光で狼を弾き返した。
レオン「え!?」
アルテミス「・・・あなたの中に、希望は、まだ息づいていますか?」
レオン「君は・・・」
アルテミス「信じる力が、道を照らす。」
アルテミスはゆっくりと左掌を前に突き出すと、その手に月の光が収束し弓が姿を現す。
<記憶の中で声が響く>
イレーネ「暗い中に「見たいもの」を思い浮かべてみて。できる自分。誰かを守って、笑っているあなた。信じたい未来。」
アルテミス「守りたい未来を。想い描いて。」
アルテミスは左手に現れた弓に対して、右手で、弦に指をかける。
<記憶の中で声が響く>
イレーネ「どんな時でも、信じることを忘れないで。」
レオン「信じる・・・!誰かを守りたい。守って、みんなが・・・笑っていられる未来を!」
アルテミスの右手に、再び光が収束し、光り輝く矢が現れる。
アルテミス「放ちましょう。あなたの未来を。」
アルテミスは、輝く矢を放ち、狼の一匹を鋭く貫いた。
光に貫かれた狼は、一瞬にして霧散した。
もう一体の狼が咆哮を上げる。
レオンは、反射的に剣を構える。
剣も同じく光を帯び始める。
アルテミス「あなたの希望は、剣にも宿った。迷わないで。今、あなたは一人じゃない。」
レオン「僕は、逃げない!今度こそ!」
狼はレオンに向かって飛びかかる。
レオンはそこに真正面から切り掛かると、眩い光と共に狼も一瞬にして霧散した。
村を襲っていた2匹の狼を打ち払い、一安心して村を見渡すレオン。
あらゆる場所が狼によって破壊されていた。
だが、村人に大きな怪我は無かった。
セレス「どうなってるんだ・・・レオン。立てるか?」
レオン「ありがとう。父さんこそ怪我はない?」
セレス「俺は大丈夫だ。それより・・・」
レオン「・・・あの・・・助けてくれてありがとう。君はいったい何者?」
アルテミス「私の名はアルテミス。星々の導き手。」
レオン「アルテミス?」
二人の視線がアルテミスに注がれる。
アルテミスは、意に介さずこちらを無表情に見返している。
アルテミス「私自身をあなた方に説明するのは難しい。レオン。あなたのその指輪。」
レオン「え?これ?」
アルテミス「そう。私はその指輪に宿った想いのような存在。」
セレス「ただの指輪じゃないとは思ってたが、まさかこんなことが起きるとは・・・」
アルテミス「あなたの未来を信じる希望の心が、私をここへと導きました。」
レオン「希望の心・・・」
アルテミス「この世界で、微かに星々の揺らぎを感じます。」
セレス「さっきの狼は、その影響か?」
アルテミス「私にも全ては分かりません。少なからず関係している可能性はあります。」
レオン「さっきみたいなの、また現れるの!?」
アルテミス「それも含めて、全ては分かりません。そのために私は、知らなければならない。何が起きているのか。何が起きるのか。そして、私には導く責務があります。」
レオン「導くって、何を?」
アルテミス「星々を・・・いえ、今は、レオン。あなたを。」
レオン「僕?」
アルテミス「そうです。そのために私は今ここにいるのです。」
レオン「突然、そう言われても・・・」
状況が飲み込みきれず、ぼんやりしていると、村人達の声が聞こえる
村人「おーい。大丈夫か?」
村人「さっきのバケモンは、どこいったんだ?」
子供「ママー。怖かったよー。」
村人「もう大丈夫よ。」
レオン「みんな!怪我はない!?」
セレス「無事か!?」
ユラン「セレス!レオン!お前達こそ大丈夫か!?」
セレス「ユラン!無事か。」
レオンの元に子供達が駆け寄ってくる。
しゃがんで子供達の無事を確認してホッとする。
レオン「みんな、怪我はない?」
ティノ「レオンがみんな倒したのか!?」
ミリーナ「すごい!レオンお兄ちゃん、やっぱり騎士様みたい!」
ユリエル「レオン兄ちゃん、やっぱりかっこいい!」
レオン「僕だけじゃ無理だった。この人が・・・」
冷静に村中を見回しているアルテミス。
レオンの視線には気づかない。
レオン「この人も一緒に戦ってくれたんだ。」
ミリーナ「お姉ちゃんが?ありがとう!」
ティノ「ありがとう!」
アルテミス「・・・」
ユリエル「お姉ちゃん?大丈夫?」
アルテミスは、首を傾げながら子供達を見下ろしている。
バステラ「やれやれ。セレス、レオン。無事かい?」
セレス「バステラ婆さん!俺たちは大丈夫。婆さんこそ怪我はないか?」
バステラ「あぁ。大丈夫だよ。それよりも、さっきの怪物・・・真っ黒な闇のような姿。ありゃ、昔話で聞いたことのあるような姿だったよ。」
レオン「昔話?」
バステラ「もう、ワシのような年寄りしか知らないかもしれない。闇を呼ぶ封印、とか言ったかね。こんな星空の夜に、寝静まった後、闇に包まれた化け物が世界を食い尽くすんだとさ。」
セレス「闇に包まれたって、さっきの狼みたいなやつか?」
バステラ「あぁ。今、思い返してみたら、そんな話に似てると思ってね。怪物が現れるとオルディナ大書院に記録が残されたとか、その書物を読み解いた賢者が世界を闇から守るんだとか。まぁどれも昔話で、今となっちゃ誰が言い出した話かもわからんがね。」
セレス「オルディナ大書院?・・・イレーネも、昔よく通っていたな。」
レオン「そうなの?」
セレス「あぁ。研究のためだとか言ってたが、詳しくは話してくれなかった。あそこには世界中の色々な文献が集まっているからな。」
アルテミス「選定の書架。星々の記憶を映す場。世界の過去と未来、その全てが記されている場所。」
セレス「なんだ?」
アルテミス「星々の微かな揺らぎ。その地へ行けば、何かわかるかもしれません。」
セレス「オルディナ大書院って、そんなすごいところだったのか・・・」
アルテミス「今はまだ、微かな揺らぎですが、いずれそれは大きな歪みとなり、世界は均衡を失う。星々の導き手として、揺らぎを正す責務があります。・・・しかし、私だけでは止められません。レオン。私は、あなたの希望が呼んだ存在。そして、あなたの希望が、あの闇を打ち払った。あなたと共にでなければ、未来は変えられない。」
レオン「僕!?・・・」
セレス「イレーネは、もしかすると何か感じていたのかもしれないな。その指輪をお前に託したことも、理由があったってことだ。」
レオン「母さんが見ていた世界に、僕が辿り着けるのかな・・・でも、村がこんな風に壊されるのも、みんなが悲しむ顔も・・・見たくない・・・」
アルテミス「あなたのように希望を力に、変えられる者は、他にいません。オルディナ大書院へ共に確かめに行ってくれませんか。」
レオン「母さんが託してくれた、この指輪に、何か意味があるんだとしたら・・・僕は知りたい。母さんが見つめていた未来を僕も見たい。僕が、誰かを守ることができるのなら、守るために選びたい!」
セレス「行け。村は、父さんが守る。レオン。これは、きっとお前にしかできないことだ。母さんも同じ考えだったんだろう。」
レオン「うん。アルテミス・・・行こう。何が起きているのか、原因を突き止めに。」