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紫水晶の双子 アメシストジェミニ

     0


「姉ちゃんの半身である君にやってもらいたいことはただ一つ。ここまで言えばわかるんじゃない?」

 キスできそうなくらい顔を近づけたモリくんが「最悪だ」と呟いた。

「何言ってるの? 最高の間違いじゃない? 曲りなりも君が愛する男と子作りができるんだから」

「はっきり言わんでいい」モリくんの顔が紅潮する。

 間違えた。

 喜ばせちゃったかな。

 経慶けいけい寺本堂前。

 夕刻。黄昏時。

「そうと決まれば話は早い」

 一時いっときでも君が愛した男の身体なら問題ないはず。

 さあ、

 次の巫女を作ろう。













タウ・デプス 紫水晶の双子 アメシストジェミニ






     1


 そもそも僕には名前がなかった。

 納家が封じてきた呪いの総体。

 人格だってなかった。

 それを納家の何代目かの巫女がニンゲンの形に整えた。

 ノウ深風誼みふぎ

 歴代最高量の呪い保有量を誇る、間違いなく最強(最凶)の巫女。

 僕を産んだから母親と呼ぼうとしたら、姉がいいんだって。

 猛天幡たてま

 名前まで付けて。

 これじゃあ本当にニンゲンになっちゃうよ。

 姉ちゃんの紹介をしようと思う。

 ノウ美舞姫みぶきが、岐蘇キソ克仲かつなかとの間に宿った命を半分に分けた女のほうの人格。

 それが姉ちゃん。

 もう片割れの男のほうの人格が、岐蘇盛仁。通称モリくん。

 モリくんに残った姉ちゃんの名残みたいなのを結実させて、姉ちゃんよりもすごい巫女を作る。

 巫女の力が強いほうが呪いの僕としてはありがたい。

 それだけ大きな呪いになれるから。

 保有量が少ないと早々に呪いに呑まれて消えちゃうから。

 僕より強いほうが望ましいってわけ。

 姉ちゃんを超える巫女を作るとなるとモリくんの協力は不可欠。

 だって、姉ちゃんの片割れで、姉ちゃんはもうこの世にはいないんだから。

 場所はどこでもよかったけど、モリくんが指定した。

 モリくんの事務所の居住部分。

 ビルの3階。

「入れよ」

 モリくんは終始そわそわした様子で僕をちらちら見ている。

 ああそうか。

 ここで一回交わってるのか。

 クリスマスに。

 姉ちゃんに乗っ取られたモリくんが、この身体の持ち主を襲ったんだった。

「どっちがどっちだよ」

「何の話?」

「だから、どっちが女役かって」

「あのときはモリくんが女役だったんだっけ? ぶっちゃけどっちでもいいよ。子作りって言っても肉体的にじゃなくて精神的なやつだし。だから別に実際にセックスしなくたって問題ないんだけど、ニンゲン式に従うとまあ仕方ないよねって言う」

「ごちゃごちゃうるさい奴だな」

 モリくんはすでにやる気満々で上半身をさらけ出している。

 なんでこんなに潔いんだろうか。

「ほら、早くこっち」

 モリくんはベッドに腰掛けて手招きしている。

「あのさあ、僕はシマくんじゃないんだよ? 呪いの総体」

「俺がシマを愛してるのと、深風誼みふぎさんの次世代を作るのとは別の話だろ?」

 こうゆうところが、人たらしなんだろう。

 まずいまずい。

 たらされてる場合じゃない。

「病院にいたあの赤ん坊は違うのか」

「あれはつなぎ。巫女がいない状況がまずいから。姉ちゃんの後継者が生まれるまで巫女をしてもらうだけ」

 慣れてるほうがいいだろうからモリくんのいつもやってるように任せた。

 ぶっちゃけ儀式だから何も感じないんだけど。

「痛くないか?」

 とかいちいち気にしなくていいのに。

「痛かったら言えよ?」

 これじゃあシマくんが惚れても仕方ない。

 ねえ?

 そこで見てるんでしょ?

 悔しい?

 憎らしい?

 そう思って見遣ったけど、存外顔には出すまいとしている。

 顔に出さざるを得ないような状況を作って嫌がらせしてもいいんだけど、

 あんま余裕ないかも。

 ニンゲンのやることはよくわかんないや。










     2


 結論から言うと儀式はうまくいった。うまくいかせるようにやったんだから失敗はない。

 これで僕の中である程度呪いが満ちれば。

 そうだ、名前。

羅亜波らあは

 モリくんが手帳の切れ端に書いて見せてくれた。

「へえ、考えてたんだ」

「名前ないと困るだろ?」

「お父さん気取り?」

「気取りじゃなくて父親のつもりでいる」

「ミツ姉が子ども欲しいって言うんじゃない?」

「そうしたらそのときはそうする」

 娘二人。

 女なら巫女になる可能性があるかもしれないけど。

 ここに最有力候補がいるから優先順位は低いかな。

 ああ、そうか。

 いまわかった。

 自分の子どもを巫女にしたくなくて僕の申し出を受け入れたんだ。

 なんて醜い。

 ニンゲンてそうゆうもんだよね。











     3


 娘たちが生まれてしばらく経った後、猛天幡たてまが赤ん坊の羅亜波らあはを連れてきた。

 俺が育てたかったけど、仕方なく手を引いた。

 でも様子は見たかったから、物心ついた長女に仲良くするよう言いつけた。

 こんなことを言っては駄目だし比べることもしちゃいけないのはわかってる。

 でも、羅亜波が一番かわいかった。

 羅亜波が物心ついた頃、俺のところに挨拶に来た。

 そうしたら俺の付けた名前をぽんと変えてあろうことか「みふぎ」と名乗った。

 深風誼さんとは違う字。

 水封儀。

 水封儀は水を使って呪いを封じる儀式という意味らしい。

 実際、水封儀はその方法で呪いを封じていた。

 嗤ってるのか。

 怒ってるのか。

 悲しんでたら困るから今日も俺は後ろを見ない。

 そこにいるのかどうか、もうわかんなくなってきたよ。

 シマ。













     4


 水封儀は、満心炉みしろという女の子を産んだけど、生まれてすぐ亡くなってしまった。

 つまり次世代は生まれていない。

 巫女は引き継がれていない。

 巫女になるためには、納家の血を引いていること。女であること。処女であること。

 呪いを祓うために処女ではなくなるが、僕が見染めるために処女であるのが望ましい。

 だって処女じゃないと、呪いを胎に溜められないからね。

 処女用件が結構厳しいから、モリくんの娘たちは駄目だ。

 とすると他にいるだろうか。

 まずいな。

 水封儀が消えると他に誰もいなくなるかもしれない。

 時寧を操って水封儀にもう一人女の子を産んでもらおうか。

 いや、いる。

 姉ちゃんの兄貴。モリくんの兄貴。

 小張オワリエイスの娘。

 あの子はまだ処女だったはず。

 でもあの子けっこう素質があったのに。

 一人殺したくらいで壊れちゃって使い物にならない。

 困ったな。

 また巫女を探さないと。












タウ・デプス 紫水晶の双子 アメシストジェミニ


岐蘇 盛仁キソ・もりひとKRE次期社長


納 深風誼ノウ・みふぎ(故人)呪祓いの巫女 納家前当主


群慧 島縞グンケイ・しまじ経慶寺住職の息子


納 猛天幡ノウ・たてま納家が祓った呪いの総体



納 水封儀ノウ・みふぎ呪祓いの巫女


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