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ラインブレイカー  作者: 藤林保起
9/15

約束の13時。巧の足取りは重く、疲れを感じていたが、Seventeen Hourのカフェに向かった。カフェに到着すると、小島さんはすでに席に座って待っていた。巧が「待たせて申し訳ない」と言うと、小島は微笑みながら「いえ、話を聞きたくて呼んだのは私ですから」と答えた。

ウェイターに巧はカフェモカを注文すると、小島は早速話を切り出した。「いただいた死亡者のURLから得た内容なんですけど、治験について触れたものが全くなくて、同時期という状況証拠しかありませんでした。仁科君については、アルバイト先の死亡時期の前に1週間くらいのまとまった休暇があるのはタイムカードで証拠を取れましたが。」

巧は小島の真剣な表情を見ながら、意外にも本格的に調査していることに驚いた。彼女はまるで探偵のようだと感じ、思わず聞いてみた。「探偵志望なの?」

小島は首を振りながら微笑んだ。「実際の志望はライターなんです。元々文章は読むのも書くのも好きで、紀行を読んで色々なところを旅して記録するのが夢なんです。」

巧は感心した様子で小島を見つめた。「ライターか、それは素敵な夢だね。こんなに熱心に調査をしてくれて、本当に感謝している。」

小島は軽く肩をすくめた。「いえ、好きなことをしているだけです。でも、これだけ調べていてもまだピースが足りない気がします。もっと深く掘り下げないといけないですね。」

カフェモカが運ばれてきて、二人は一口ずつ飲んだ。巧はその温かさに少しだけ気持ちが軽くなった気がした。


小島が「教来石はるかさんなんですが」と口にした瞬間、巧は思わず息が止まった。ここからの展開は予知でも見たことがある。小島が続けた。「ブログにたっくん、という人が多く出てきて、どうも将来を誓い合った人みたいなんですよね。」


巧はあまり良い気分ではなかった。一度だけ見た教来石のブログは、彼女の妄想全開であり、知り合って一週間プラス二日の段階で自分との思い出がたくさん書かれ、将来を誓い合った仲、という妄想にまで展開している。それ以降の更新内容は、正直怖くて見ていない。最後に親が更新したものを除いては。


小島は「たっくんというのは、曽根さんのことですよね?」と言われ、余計気まずかった。否定したいが、ここは予習した通り「よくわかったね」と答える。すると小島は「…大変でしたね」と言って続けた。


「教来石さんのブログを読んで感じたんだけど、彼女はたっくん、つまり曽根さんのことを本当に大切に思っていたみたいですね。そして、彼女が亡くなった今、一人残された曽根さんは、彼女の無念を晴らすべく、彼女が参加した治験について調べ始めたんですよね?」


巧はその推測に全力で乗る。いや、乗らざるを得ない状況なのだ。そうしないと、教来石の否定はすべて死者の冒涜になり、自分がひどい男として噂が広まり、大学で居場所がなくなる展開を知っているので、もはやこれに乗るしか選択肢がなかった。


「そうなんだ、彼女のことを調べているのも、少しでも彼女の無念を晴らしたいからなんだ」と巧は感情を込めて言った。


小島はうなずきながら「それなら、私も協力するよ。彼女のためにできることがあれば、力になりたいから」と言った。


そして、小島は続けた。「曽根さんのこと、たっくんと呼ばせてください。で、私のことは、弥生と呼んでください。」


巧はその申し出に驚きながらも、「わかった、弥生さん」と答えた。


小島は微笑んで「ありがとう、たっくん」と言い、二人の間には少しだけ信頼の絆が芽生えた。巧は内心ではこの状況をどう乗り切るかを必死に考えていた。自分の未来を守るために、そして何よりも教来石の記憶を尊重するために、巧は一歩一歩慎重に進むことを決意した。


巧はたかち保カフェの閉店後、三枝君に連絡を取るために指定された待ち合わせ場所へ向かった。三枝君は仁科君の調査での協力者であり、彼との関係も良好だったため、巧は彼に対しても信頼を寄せていた。

泉さんに敵地である前橋テルサからの脱出後の顛末と、甘利さんは洗脳されていない可能性を報告、それをもとに甘利との接触手段を考えた結果、甘利とは今もバイトが同じである三枝君の協力を仰ぐことにしたのである。


待ち合わせ場所に到着すると、三枝君がそこにいた。彼は少し緊張した面持ちで巧を迎えた。


「曽根さん、こんばんは。お待たせしました。」


「こんばんは、三枝君。今日は頼まれていた件について話をしたいと思っている。」


巧は三枝君とともに、カフェの近くの静かな公園に移動し、情報を共有することにした。巧は甘利さんに関する情報を三枝君に詳しく説明し、協力を求めた。


「三枝君から教えてもらった通り、甘利さんは仁科君に短期のバイトを紹介したようだけど、どうも僕には話せない、というより、彼女にその短期バイトの関係者の見張りがついているらしくて、本気で話せない状況みたいだ。彼女が持っている通信手段も、その短期バイトの関係者からの支給品らしく、情報が抜かれていて、安全に会話ができない。なので、直接話がしたい。」


三枝君は巧の話を聞きながら真剣な表情になり、頷いた。「そういうことですか…それなら、甘利さんの生活圏や動向を調べて、直接話ができる機会を作るしかないですね。」


「それで、君のバイト先でのつながりを利用して、彼女の生活圏について調べてもらえないか?特に自宅住所を特定して、彼女が帰宅するタイミングを見計らって接触を図りたい。」


三枝君は少し考え込んだ後、「わかりました。バイト先での同僚から情報を得て、できるだけ早く調べてみます」と答えた。



翌日、巧は講義を終えた後、大学の食堂に向かい、昼食をとりながら新聞ブログをチェックすることにした。講義の内容は頭に入らず、心ここにあらずだったが、気を取り直して食堂の一角に腰を下ろし、スマートフォンを取り出してブログを開いた。その瞬間、巧は飲んでいた飲み物を噴きだしそうになった。


ジャーナリズム研究会の新聞ブログには、驚くべき記事が掲載されていた。昨日、同研究会の小島弥生に会って調査の進捗を聞いていたが、その内容にほぼ沿っているものの、被害者女性のK(おそらく教来石のことであろう)について、彼女が思い人への純粋な愛情を持ったまま他界してしまう悲劇のヒロインと、その調査をしている情報提供者というストーリーが出来上がっていた。情報提供者というのは巧自身だ。


「なんてこった…」巧は小声で呟きながら、記事を読み進めた。自分が思い描いていた調査の流れと、記事にされた内容とのギャップに愕然としながらも、これがどのように影響を及ぼすかを考え始めた。


そんなことを考えている最中に、例のジャーナリズム研究会の陽キャ・齋藤あすかと、お嬢様・小島弥生が挨拶してやってきた。


「あ、曽根さん!」齋藤あすかが明るく声をかける。「正直驚いたけど、そんなことがあったなんて、大変だったんだね。」


巧は一瞬、どう返答すべきか迷ったが、すぐに平静を装った。「そうなんだ。まあ、いろいろとね。」


小島弥生は少し気まずそうな表情を浮かべながらも、真剣な眼差しで巧を見つめた。「私たちもできる限り協力するから、何かあったら言ってね。」


巧は微笑みながら、頭の中でこの状況をどう切り抜けるかを考えていた。このストーリーにいつまで乗らされるのかを危惧しながらも、彼女たちの協力を得ることが今後の計画に有益であると判断した。


「ありがとう、弥生さん、あすかさん。みんなの協力が本当に心強いよ。」巧は感謝の気持ちを込めて答えた。


「じゃあ、私たちも引き続き取材を続けるから、何か新しい情報があったら教えてね!」あすかは元気よく言い残し、弥生と一緒にその場を去った。


巧は再び一人になり、ブログの記事を見つめながら考え込んだ。このストーリーが拡散されることで、敵側に情報が漏れるリスクがあるが、同時に彼らの注意を引くこともできるかもしれない。巧は慎重に次の一手を考えながら、三枝君からの情報を待ちつつ、行動計画を練り直すことにした。


巧と別れた後、あすかと弥生は食堂を出て、キャンパスの道を歩いていた。あすかは巧の言葉を思い返し、心配そうに口を開いた。

「曽根さん、大丈夫かな…。『自分に関わると良くない事が起きるかもしれない』って言ってたじゃない。なんか無茶しそうで心配だよ。」

弥生は少し前を歩きながら、ふと足を止めた。振り返ってあすかの方を見つめ、ため息をついた。

「あすか、実は私、教来石さんの両親と接触したの。ブログを通じてね。」弥生の告白に、あすかは驚愕の表情を浮かべた。

「え、どういうこと?そんなこと、聞いてないよ!」

「うん、言ってなかったからね。」弥生は静かに続けた。「教来石さんの両親に連絡を取って、話を聞いたの。それだけじゃなくて、彼女のお墓参りまでしてきた。」

「ええ!?そんなに深入りしてるなんて…本気だったんだね。」あすかは目を見開き、驚きと同時に感心の色を浮かべた。「ここまで食らいつくとは、あなたの方が心配だよ。」

「分かってる。」弥生は真剣な眼差しであすかを見つめた。「でも、もう覚悟を決めたの。一連の事件の全貌を暴くためにね。」

あすかはしばらくの間、弥生の言葉を噛み締めるように沈黙していた。彼女は弥生の決意を感じ取り、その覚悟に感動しながらも、危険が伴うことを心配せずにはいられなかった。

「弥生…あなたがそこまで本気なら、私も力になるから。だけど、無茶だけはしないでね。私たちでできることを、一緒に考えていこう。」

「ありがとう、あすか。」弥生は微笑みながら答えた。「でも、私たちの力を合わせれば、きっと真実にたどり着けると思う。」

二人はそのままキャンパスを歩き続け、これからの行動について話し合った。弥生の決意とあすかの協力で、彼らの調査は一層進展していくことだろう。



その日の夕方17:00頃、巧のスマホに三枝君からのメールが届いた。甘利さんのパート上がりの時間帯と自宅住所の情報が詳細に記されていた。巧はその情報を確認しながら、三枝君のメッセージを読んでいた。


「甘利さんの住所、オーナーの杜撰な個人情報管理のおかげで手に入りました。事務所に誰もいない時間帯にスマホで撮った写真を送ります。パートは週に2回で少ない方。今日はそのパートがある日だから、上がり時間は19時頃になるはず。」


巧は「ありがとう。後日お礼がしたい」旨を返信した。


巧は、メールに添付された甘利さんの履歴書の写真を確認し、住所とパート上がりの時間帯を頭に入れ、甘利の住所を地図アプリに入れた。計画を練りながら、自宅付近で待ち伏せすることを決意した。



同日18:45頃。巧は甘利さんの自宅付近で彼女のパート上がりを待っていた。通りの角に立ち、周囲の様子を観察しながら、甘利さんの姿を探していた。やがて、遠くから甘利さんが歩いてくるのが見えた。巧は一呼吸置いて、偶然を装いながら彼女に近づいた。


「甘利さん、お疲れ様です。」巧は笑顔で挨拶した。


甘利さんは驚いた表情を浮かべたが、すぐに表情を取り繕った。「あ、巧君。偶然ですね。」


巧はメモボードを取り出し、事前に書いておいた字を指し示した。「今から時間取れますか?」


甘利さんは一瞬戸惑ったようだったが、巧のメモボードを手で要求し、字を書いた。「定期連絡があるので、ついてきて、部屋の前で待ってて。」


巧は頷き、甘利さんの後をついていった。彼女の自宅に到着すると、甘利さんは部屋に入り、巧はドアの前で待つことにした。


甘利さんの部屋の中から話し声が聞こえてきたが、やがて静かになった。巧は緊張しながら待っていると、数分後にドアが開き、甘利さんが顔を出した。


「お待たせしました。今、大丈夫です。」


巧は再びメモボードを取り出し、次のメッセージを書いた。「話したいことがあります。安全な場所で話せますか?」


甘利さんは一瞬考えた後、頷いた。「ここから少し離れたカフェがあります。そこなら大丈夫かもしれません。」


巧は頷き、二人でそのカフェへ向かうことにした。互いに警戒しつつも、真実に近づくための重要な一歩を踏み出したのだった。


巧と甘利さんは最寄りの個室喫茶店「ジュテーム」に入った。店内はシックな内装で、落ち着いた雰囲気が漂っていた。個室のドアを閉めると、外の音はほとんど聞こえなくなり、二人だけの空間が広がった。


巧はメモボードを取り出そうとしたが、甘利さんはそれを手で遮った。「言いたいことは山ほどありますが…」と彼女は静かに言い始めた。


「まず最初に、薬を盛ったり、ビルからの脱出をさせるような事態に追い込んでしまったこと、本当にごめんなさい。」甘利さんの声には真剣な謝意が込められていた。


巧はその言葉を受け取りながら、彼女の話を続けるように促した。


「私と木曽さんは、実は情報を共有しているの。木曽さんは無事で、洗脳の異能者と独自交渉に成功して、今は洗脳が解かれている。でも、それは製薬会社にはバレてはいけないことなの。」甘利さんは慎重に言葉を選びながら続けた。


巧は驚きを隠せなかった。「木曽さんが無事で、洗脳が解かれている…?それは本当なの?」


甘利さんは頷いた。「はい、木曽さんと私はずっと連絡を取り合っていて、情報を共有しているの。彼女も私も、洗脳から解放されたの。でも、製薬会社にそれがバレたら、私たちの命が危険にさらされる。」


巧はしばらくの間、甘利さんの言葉を消化しようと黙って考えた。そして、ゆっくりと口を開いた。「じゃあ、どうして僕たちを助けようとしているの?なぜリスクを冒すの?」


甘利さんは少し迷ったが、やがて決意を込めた目で巧を見つめた。「私たちは、真実を知りたいの。そして、もう一度自由になりたい。あなたたちが協力してくれるなら、私たちも力を合わせて戦える。」


甘利さんの言葉に巧は深くうなずき、次の質問を考えた。その時、甘利さんが重い口を開いた。


「実は…」彼女の声は震えていた。「私にはたった一人の家族がいるの。妹よ。彼女が人質に取られているの。だから、製薬会社に逆らえないの。通信手段も住居も、すべて製薬会社に握られている。」


巧はその言葉に愕然とした。「そんな…妹さんが人質に?」


甘利さんは苦しそうに頷いた。「そう。彼らは私たちに逆らったらどうなるかを知っているから、絶対に逃げられないようにしているの。紹介している治験の危険性も、あなたが拉致に関わることで初めて知ったの。本当に申し訳ないと思ってる。」


巧は少し黙った後、問いを続けた。「じゃあ、仁科君に治験バイトを紹介したのも、甘利さん自身だったということ?」

甘利さんは目を伏せながら頷いた。「そうよ。彼に治験のバイトを紹介したのは私。でも、その時はこんな危険なことになるとは思わなかったの。」

「木曽芳恵さんの異能については?」巧は少し躊躇しながらも、核心に迫る質問をした。

甘利さんは首を横に振った。「彼女の異能については何も知らないの。本当に。」

巧は甘利さんの目をじっと見つめた。彼女の目には真実が映っているように感じられた。


巧は甘利さんとの対話を聞き取り、木曽芳恵のことを頭から離すことができなかった。彼女が拉致された直後、自前のデバイスを隠し持っていた可能性があり、そのデバイスを使って甘利さんに連絡を取っていたのではないかと考えた。

「もし木曽さんがデバイスを持っていたなら、彼女がそれを使って甘利さんに連絡を取っていた可能性がある。」巧は独り言をつぶやきながら、次に取るべき行動を考えた。甘利さんが木曽さんの連絡先を巧に渡し、木曽さんと巧が繋がることで、情報を流すことができるかもしれないと考えた。

しかし、木曽さんのデバイスの充電が切れてしまった場合、連絡が途絶える恐れがあった。充電が切れる前に連絡が取れるかどうかが、計画の成功に大きく影響するだろう。

巧はこのリスクを考慮し、心の中での焦りを抑えつつ、冷静にその意志を甘利に伝えた。「甘利さん、木曽さんのデバイスの電源が切れる前に、何とかしたいんです。情報が途絶える前に、木曽さんとの連絡を維持し、彼女の状況を把握しなければなりません。」

甘利は頷きながら、状況を理解している様子だった。「わかりました。木曽さんのデバイスの充電が切れる前に、何とか連絡を取る手立てを考えましょう。私も協力します。」

巧は次に、敵を誘い出し、その手の者を拉致する計画を提案した。「敵の手の者を誘い出し、その詳細を探ることで、製薬会社の情報を得ることができるかもしれません。例えば、甘利さんが提供できる情報や状況を利用して、敵を引き寄せることができるかもしれません。」

甘利は少し考え込んでから答えた。「私が持っている情報は限られていますが、製薬会社の事務所や関係者については一切わからない状態です。ただ、もし私を使って敵を誘い出すことができるなら、何らかの手立てを考えましょう。」

巧は頷き、計画を練るための詳細を話し始めた。「まず、木曽さんのデバイスが充電切れになる前に、最後の連絡を試みる必要があります。私たちがこの情報を得られることで、製薬会社に関するさらなる手がかりを見つけることができるでしょう。」

甘利はその意図を理解し、手伝いの意志を示した。「私が協力できることがあれば、何でも言ってください。敵を引き寄せるための策を考えましょう。」

巧と甘利は、その後の計画について詳細に話し合い、次のステップを決定した。巧は、木曽さんのデバイスの充電が切れる前に最後の連絡を試み、甘利の協力を得て、敵の手の者を誘い出すための具体的な行動計画を立てた。


巧と甘利は、約束を交わしながら、その場を後にした。巧は甘利の要望に応じ、自分の名義でスマホを契約し、VPNも導入することで、製薬会社との通信を断絶する計画を立てた。これにより、甘利が安全に連絡を取り合える環境を整え、製薬会社からの追跡を防ぐための準備を整えることができる。

約束したスマホの手渡しは後日行うことになり、通信料金は手渡しで徴収する形になった。巧は慎重に計画を進め、甘利との連絡を絶やさないように、あらゆる対策を講じた。

甘利は内心、大学生である巧に定期的に会うことができる口実ができたことに喜びを感じていた。その喜びは、愛情という名の欲情として彼女の心に広がっていた。自覚しているその感情に対し、甘利はどう向き合うべきかを考えながらも、巧との関係を築いていくことに対して内心の期待を高めていた。


巧が自宅に帰ると、待っていたハルカがご立腹の様子で、彼のことを猫パンチで責め立てた。どうやら、巧が甘利さんと会っていたことが気に入らなかったらしい。

「俺はハルカのこと、世界一愛しているのになぁ」と巧が呟くと、ハルカはその言葉に反応し、急に機嫌を直して喉を鳴らしながら、彼の足元にすり寄ってきた。どうやら、巧の愛情表現には満足したようだ。

その瞬間、リビングに巧の父が入ってきて、彼の姿を見つけるとすぐに声を張り上げた。「何をっ!ハルカを世界一愛しているのはこの俺だ!」と、巧の愛情に対抗するように宣言した。続けて「我が屍を超えて行け!」と、冗談めかして張り合い、ハルカを抱き上げ「おおーッ、よしよしーッ!」と猫っ可愛がりを始めた。

巧はそんな父とハルカのやり取りを見ながら、苦笑いを浮かべた。「何を張り合っているのか…」と心の中で呟きながらも、この平和な空気が続くことを願っていた。家族と愛猫が織りなす、微笑ましい日常のひとときに、巧は心から安らぎを感じていた。

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