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ラインブレイカー  作者: 藤林保起
6/15

巧は緊張した面持ちでカフェ「seventeen hour」のドアを開けた。店内は落ち着いた雰囲気で、テーブルには少人数の客がまばらに座っていた。視線を巡らせると、奥の席に甘利が座っているのが見えた。

彼女は以前の制服姿とは打って変わり、胸元を強調したスーツを身にまとっていた。第一印象は「欲求不満のお姉さん」そのものだった。顔は癒し系で、髪もキレイな可愛いお姉さんなのだが、変なアンバランスさを感じた。巧は内心で眉をひそめながらも、丁寧に挨拶をして席に着いた。

「お久しぶりです、甘利さん。」

「お久しぶり、曽根さん。元気にしてた?」

一通りの挨拶を交わした後、ウェイターが注文を取りに来た。甘利はカフェモカを勧めたが、巧はあえてコーラを選んだ。注文を終え、甘利がふと紙を落とした。その紙を拾うふりをして、巧にそっと渡す。

「これを…」

巧は小声で礼を言い、紙をポケットにしまったが、甘利はその紙について何も触れず、仁科君の生前の思い出話を続けた。

「仁科君とは、よくバイトの後に飲みに行ったんですよ。彼の好きだった居酒屋があって…」

甘利は微笑みながら話し続けたが、その内容はどれも治験とは無関係だった。巧は焦燥感を覚えながらも、甘利の話に耳を傾けた。

やがて、ウェイターが注文を運んできた。甘利の頼んだアクアパッツァと、巧のコーラがテーブルに置かれた。しかし、巧はコーラに手を伸ばさなかった。

「コーラ、飲まないの?」甘利が不思議そうに尋ねた。

「いいえ、あげます。」巧はそう言ってコーラを甘利に差し出した。

「というか、飲んでください。」

甘利は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに笑顔に戻った。「なんだか、親切ね。でも、どうして?」

巧の脳裏には今朝の白昼夢が蘇っていた。睡眠薬を盛られる夢だった。同じことが二度も続けば、偶然とは思えない。甘利が何を企んでいるのかは分からないが、警戒を怠るわけにはいかなかった。

「今日は特に喉が渇いてないだけですよ。」巧は穏やかに答えたが、内心では警戒を強めていた。

甘利は少し困惑した様子だったが、無理に勧めるのを諦めたようだった。「そう。じゃあ、仕方ないわね。」

二人の間には一瞬の静寂が流れた。甘利は話題を変えるように、また仁科君の話を続けたが、巧の心は既に別の方向へ向いていた。彼はポケットに入れた紙の感触を確かめながら、甘利の真意を探ろうとしていた。



巧はポケットにしまった紙の感触を再確認した。甘利が話す仁科君の思い出話をぼんやりと聞き流しながら、心の中で紙に書かれた情報を確かめる時を待っていた。

やがて、カフェでの話が終わり、巧は甘利に丁寧に別れを告げて店を出た。安全な場所に移動しようと近くの公園へ向かい、ベンチに腰を下ろしてから紙を取り出した。そこには一つのメールアドレスが書かれていた。

「これが甘利さんの真意か…」

巧はスマートフォンを取り出し、躊躇なくそのメールアドレスに連絡を入れた。数分後、返信が来た。送信者は木曽芳恵。彼女は生きていたのだ。

「木曽さん…」

メールにはこう書かれていた。

「件名: 助けが必要です

本文: 曽根さん、こんにちは。木曽芳恵です。生きていてくれて本当に嬉しいです。私は現在、製薬会社に囚われています。彼らは私たちの治験データを使って何かを企んでいます。脱出の手助けをしてほしいのです。私も内部の情報をある程度把握できると思います。どうか、力を貸してください。」


巧は深く息を吸い込み、画面を見つめた。この瞬間、彼の心には新たな決意が芽生えた。木曽芳恵を救うために行動を起こさなければならない。

その夜、巧は自室に戻り、ハルカがベッドの上でくつろいでいるのを見つけた。ハルカは甘利との会話を妬むように、巧に猫パンチを見舞ってきたが、巧は笑ってその攻撃を受け流した。

「ごめんよ、ハルカ。今日は忙しかったんだ。」

巧はハルカを撫でながら、次の行動を考えた。木曽を救うためには、まず彼女のいる場所を突き止め、製薬会社の動向を探らなければならない。そして、彼の中にはもう一つの疑問が芽生えていた。甘利はなぜ木曽の連絡先を知っていたのか?彼女の真意はまだ明らかではない。

巧は思案に暮れた。この連絡は本当に木曽からのものなのだろうか?取り敢えず、木曽から内情について情報を聞き出し、泉さんに意見を伺って精査しよう、と方針を決めた。


巧は木曽からのメールに期待と不安を抱きながら返信を送った。彼は木曽に対して、既に泉さんから得ていた情報をもとにいくつかの質問を投げかけた。


「件名: 製薬会社について教えてください


本文:

木曽さん、お疲れ様です。以下の質問について教えていただけると助かります。


①新薬とは具体的に何か?

②被験者の死と新薬にはどのような関係があるのか?

③自分もその影響で死ぬ可能性があるのか?

④拉致グループの人数と詳細な情報

⑤あなたが現在囚われている場所について

ご回答いただけると非常に助かります。


よろしくお願いします。

曽根」


巧はメールを送信し、しばらく待っていると、木曽からの返信が届いた。


「件名: Re: 製薬会社について教えてください


本文:

曽根さん、


以下の質問についてお答えします。


①新薬は異能発現薬と呼ばれ、被験者に異常な能力を引き出すことを目的としています。

②被験者の死は新薬の副作用によるものであり、制御が難しいため多くの被験者が死亡しました。

③あなたが新薬の影響で死ぬかどうかは私にはわかりません。ただし、リスクは高いと思います。

④拉致グループは雇われの傭兵団と、洗脳された異能者がいます。

傭兵団:

リーダー:ジェイコブ・ハーディング 屈強アメリカ白人

アンドレア・モレッティ スナイパー

イーサン・ブラック 戦闘狂

レイチェル・ミラー 策略家

ミハイル・ペトロフ 格闘家

キャメロン・ジョンソン 黒人忍者


異能者:全員男で、コードネームで呼ばれています。

マニピュレーター 洗脳の異能者 35歳

センサー 五感強化の異能者 30歳

スピードスター 高速移動の異能者 39歳

タイタン 超筋力の異能者 32歳

グラビティ 重量転移の異能者 40歳

クラッシャー 触れたものを破壊する異能者 27歳

ヒーラー 瞬間治癒の異能者 22歳

ロック 硬化の異能者 38歳


⑤私が囚われている場所は、製薬会社の地下施設です。場所の詳細な住所は以下に記載します:

住所: 群馬県前橋市神沢の森

助けが必要です。よろしくお願いします。


木曽」


巧はメールを読み終え、深呼吸をした。得られた情報は非常に貴重だった。特に、拉致グループの詳細な情報と木曽が囚われている場所は、今後の行動を計画する上で重要な手がかりとなる。

巧はすぐに泉さんに連絡を取り、木曽から得た情報を共有した。泉さんは慎重に情報を精査し、以下のように返信してきた。


「件名: 木曽さんの情報について


本文:

ナンマルさん、


木曽さんから得た情報は非常に重要です。特に拉致グループの詳細と、木曽さんが囚われている場所についての情報は我々にとって大きな前進です。


被験者の死については、証拠として製薬会社の実験データを入手することが重要です。

木曽さんの安全を最優先に考え、慎重に行動することが大切です。リスクを最小限に抑えるため、内部で信頼できる仲間を確保してください。


拉致グループについては、僕が把握している以上の内容です。情報を元に対策を練ります。彼らの動きを監視し、行動を予測する必要があります。


内容的に、洗脳の異能者を知っていながら洗脳にかかっていないようです。そして、彼女自身の異能について書かれていないので、

①洗脳の異能者との接触に注意する事

②木曽さんの異能についての情報

を押さえておきたいところです。


木曽さんの救出計画を立てるために、さらに詳細な情報を収集します。製薬会社の地下施設へのアクセス方法や警備体制についても調査が必要です。


次のステップとして、信頼できる仲間と連携しながら、製薬会社の内部情報を収集し、木曽さんの救出計画を具体化しましょう。私も全力でサポートします。


よろしくお願いします。

泉」


巧は木曽にメールを送るため、慎重に文面を考えた。彼は木曽の安全を最優先に考えながら、必要な情報を得るための質問をまとめた。


「件名: いくつかのお願いと注意事項について


本文:

木曽さん、


お世話になっております。以下の点についてご注意いただきたいことと、お願いがございます。


①木曽さんが既にご存知の通り、洗脳の異能者が存在します。その影響を受けないよう、常に注意を払ってください。


②木曽さん自身の異能について、詳しく教えていただけますか?特に、その能力の範囲や制約について知りたいです。私たちが助ける際に役立つ情報となります。


③製薬会社の新薬による死亡データを確保することが非常に重要です。ただし、木曽さんの安全が最優先ですので、危険を冒さずに可能な範囲で情報を集めていただければと思います。


以上の点について、ご協力をお願い申し上げます。何かあればすぐに連絡してください。私も全力でサポートいたします。


どうぞよろしくお願いいたします。


曽根」


巧はメールを送信し、木曽からの返信を待った。彼は木曽の安全を祈った。そこで、ふと疑問が浮かび上がった。

木曽からの情報には、拉致グループの詳細が克明に記されていた。そのリストには、外国人の傭兵団と異能者たちの名前が並んでいた。だが、奇妙なことに甘利の名前はそのどちらにも含まれていなかった。傭兵団は名前を見る限り全員外国人、異能者ははっきりと「全員男」と書かれていたのだ。


巧は眉をひそめた。甘利がこのグループの一員である可能性はないのだろうか?それとも、彼女はもっと別の目的を持って接触してきたのか?さらに気になるのは、彼女に会った2回とも、巧は睡眠薬を盛られそうになっていることだ。


「甘利は何者なんだ…?」


巧は机に向かい、泉新吉にメールを打ち始めた。


「件名: 甘利と木曽についての見解


泉さん、


木曽のメールには拉致グループの詳細が書かれており、傭兵団は全員外国人、異能者は全員男と明記されていました。


しかし、木曽芳恵との連絡先を教えてくれた甘利という女性の名前はそのリストにありませんでした。彼女とは2回会いましたが、どちらの機会も彼女は私に睡眠薬を盛ろうとしていたようです。

甘利は仁科君のバイト先に入って1年になる人物です。


以下の点について、泉さんの見解をお聞かせいただけますでしょうか。


甘利は何者なのでしょうか?

木曽と甘利はどのように知り合ったのでしょうか?

甘利が拉致グループのリストに含まれていない理由について、何か考えがありますか?


以上、よろしくお願いいたします。


ナンマル」


巧はメールを送信し、しばらくの間考え込んだ。甘利の目的が不明なままでは、今後の動きが定まらない。巧は泉新吉からの返答を待ちながら、メールの内容を何度も読み返していた。時間が経つにつれ、彼の焦燥感は募るばかりだった。しかし、しばらくして、泉からのメールが到着した


「件名:甘利の正体に関する見解


ナンマルさん、


ご依頼いただいた甘利に関する見解について、以下のように考察しました。


まず、甘利の行動から見て、彼女が敵製薬会社と繋がっていることは明白です。ナンマルさんに睡眠薬を盛ろうとした行為は、あなたの行動を監視・制御する意図があると推測できます。しかし、彼女が木曽に外部との連絡手段を提供したことから、単純に敵の手先というわけではない可能性もあります。彼女は製薬会社に所属している可能性が高いです。傭兵でも異能者でもなく、特別な任務を負っている立場にあるのでしょう。例えば、治験バイトの口コミ要員、或いは治験参加者の監視員として活動しているのかもしれません。


木曽との関係ですが、同じ製薬会社のプロジェクトに関わっているか、共通の目的を持つ別の組織からの指示を受けている可能性があります。


慎重に行動してください。今後の動向を見守りつつ、次のステップを決める必要があります。


よろしくお願いします。


泉」


巧は泉のメールを読み終え、内容を精査したうえ、製薬会社社員であるより、嘱託で治験バイト集めるブローカーではないか、と考え始めた。泉さんには返信のメールを入れた。


「件名: 甘利の立場と木曽との関係についての考察


泉さん、


見解をお送りいただき、ありがとうございました。泉様の見解を基に、甘利の立場について再評価し、木曽との関係について考察しましたので、ご報告させていただきます。


1. 甘利の立場に関する考察


甘利が製薬会社の社員ではなく、治験バイトを紹介することで報酬を得る立場にあった可能性について検討しました。以下の二つのシナリオを考慮しています。


製薬会社社員としての立場:

製薬会社の社員であれば、治験のバイトを集めることが主な業務となり、会社の規定に従って活動することが求められるでしょう。これは、治験の進行状況や参加者の管理についての明確な記録や内部情報にアクセスする可能性が高いです。しかし、甘利がバイトとして治験に関わり続ける時間的拘束や、彼女の行動が治験のバイトを紹介するのみであったことを考慮すると、単なる社員である可能性は低いように思います。


嘱託でバイトを集める立場:

一方で、甘利が嘱託やフリーランスとして治験バイトを集めていた場合、彼女は製薬会社と直接的な契約を結ぶことなく、治験参加者の紹介に専念していた可能性があります。この立場であれば、治験自体のリスクや詳細について深く知る必要はなく、単にバイトを紹介する役割を果たしていたと考えられます。これにより、治験に関する情報が記録に残らず、バイトが行方不明になってもすぐにはわからない背景を持つ可能性が高いです。


2. 木曽との関係について


木曽のメールアドレスを手渡された点と、甘利が治験で木曽と関わりを持っていたことを踏まえ、以下の考察が得られました:


木曽との接触の背景:

甘利が木曽と接触していた理由として、治験バイトの紹介業務の一環として木曽と接触していた可能性があります。木曽は治験の参加者であり、甘利が木曽に治験の詳細を伝える役割を果たしていたと考えられます。木曽が甘利に対して情報提供を求めていたのか、または甘利が木曽に特別な指示を出していたのかは不明ですが、少なくとも甘利と木曽の関係には治験バイトの選定や紹介に関連する要素があると推測されます。


木曽の情報の意義:

木曽から得た情報に拉致グループの詳細が含まれていた点について、甘利がその情報に関与している可能性も考慮する必要があります。もし甘利が嘱託やフリーランスとして治験バイトを集めていた場合、彼女が知っていた情報や木曽との接触に関しても、治験の範疇を超えた意味を持つかもしれません。


以上が、甘利の立場についての見解と木曽との関係に関する考察です。もしご意見や追加の情報がありましたら、お知らせいただければ幸いです。


引き続き、よろしくお願いいたします。


ナンマル」


しばらくして、泉さんからの返信が来た。


「件名: Re: 甘利の立場と木曽との関係についての考察


ナンマルさん、


お送りいただいたメールを拝見しました。甘利の立場や木曽との関係についての詳細な考察、ありがとうございます。内容については非常に納得しました。


以下、私の見解をお伝えします。


1. 甘利の立場について


甘利が製薬会社の社員ではなく、治験バイトを紹介する嘱託のような立場であった可能性については、確かに合理的です。特に、治験に関する情報が記録に残らない形でバイトを集め、行方不明になってもすぐに把握できない背景を持つバイトを選ぶといった行動は、彼女がフリーランスであった場合に特に当てはまるでしょう。従って、甘利が製薬会社の内部情報にアクセスする立場でないことから、彼女の役割はあくまで治験バイトの紹介にとどまっていたと考えられます。


2. 木曽との関係について


木曽との関係に関しても、甘利が治験バイトの紹介業務の一環として木曽と関わっていた可能性が高いという点には同意します。木曽が甘利に対して情報提供を求めていたのか、または甘利が木曽に特別な指示を出していたのかの詳細は不明ですが、治験の範疇を超えた関連性も考慮する必要があります。


3. 今後の対応について


甘利との連絡を維持する必要がある一方で、注意が必要です。甘利がデバイスを使用して情報を管理している場合、製薬会社に情報が漏れるリスクがあります。特に、彼女が治験バイトを紹介する過程で使用しているデバイスや通信手段が外部に漏れる可能性があるため、その点については慎重に監視する必要があります。


木曽との連絡も引き続き重要です。彼の情報が治験の進行に関わる可能性もありますし、彼から得られる情報は慎重に扱う必要があります。


引き続き、情報の取り扱いには十分注意し、必要に応じて適切な対応を行っていきましょう。


よろしくお願いいたします。


泉」


巧は、甘利との直接連絡が出来ない状況を何とかできないか、と思案し、検索したうえで、メールを打ち込み、泉に送信した。


「件名: 甘利への安全なデバイスの提供について


泉さん、


お世話になっております。巧です。


泉様のご返信、ありがとうございます。甘利のデバイスに関するリスクについて、詳細なご指摘をいただき、大変助かりました。


甘利のデバイスに関する問題について、以下のような対策を考えています。ご意見をいただければ幸いです。


安全なデバイスの準備:

私としては、甘利に安全なデバイスを用意する方法として、以下の案を考えています。


①スマホを用意し、街中に隠す: 新しいスマホをこちらで準備し、街中の適切な場所に隠しておきます。木曽を通じて甘利にこのスマホを渡すことで、甘利との連絡をこのデバイスのみで行うことができます。これにより、甘利が通常使用しているデバイスで情報が漏れるリスクを避けられると考えています。


②セキュアな通信手段の導入: 甘利に対して、安全な通信アプリやメッセージングサービス(エンドツーエンドの暗号化を提供するもの)を推奨し、彼女がそのアプリのみを使用するように指示します。ただし、この場合もデバイスのセキュリティが重要です。


③仮想プライベートネットワーク(VPN)の利用: 甘利が使用するデバイスにVPNを導入し、通信のセキュリティを確保する方法も考えられます。これにより、デバイスからの通信が外部に漏れるリスクを軽減できます。


④定期的なデバイスの確認: 定期的に甘利のデバイスをチェックし、セキュリティに問題がないか確認する方法も有効です。これには時間と手間がかかりますが、リスク管理には役立つでしょう。


これらの対策について、泉様のご意見やその他の提案があれば、お聞かせいただければと思います。


どうぞよろしくお願いいたします。


ナンマル」


甘利の立場は微妙だし、薬を盛られるあたり、相当に製薬会社とズブズブだが、木曽のこと、仁科君のことについて、本音で語れていない印象がある。明らかに製薬会社の目を気にしているように思えるのだ。

そう考えるうちに、泉さんからの返信が来た。


「件名: 甘利へのセキュリティ対策について


ナンマル様、


お世話になっております。泉です。


ご提案いただいた内容について、詳細な検討をしていただきありがとうございます。以下の点についてコメントさせていただきます。


1. スマホを用意し、木曽を通じて甘利に渡す案


この方法は確かに有効だと思われます。木曽を通じてのデバイスの受け渡しで、甘利が使用するデバイスを安全に管理することができます。ただし、スマホを隠す場所や受け渡しの手順については慎重に計画する必要があります。


2. セキュアな通信手段の導入


エンドツーエンド暗号化された通信アプリの使用も一つの手段ですが、甘利がそれを導入し、使用方法を理解するためにはサポートが必要です。この点も考慮する必要があります。


3. VPNの利用


VPNの導入は良いアイデアです。これにより、甘利のデバイスからの通信が暗号化され、セキュリティが向上します。特に製薬会社のデバイスを使用する場合、VPNは非常に有効です。


木曽に対して、VPNの導入を甘利に勧めるよう指示するのが良いでしょう。木曽には、甘利のデバイスに適切なVPNサービスを設定するように依頼し、セキュリティ面でのリスクを最小限に抑えるためのサポートをお願いしてください。


どうぞよろしくお願いいたします。


泉」


これを受け、巧は木曽へのメールを用意し、送信した。


「件名: 甘利さんの立場について、そしてセキュリティ対策のお願い


木曽様、


お世話になっております。巧です。


実は甘利さんから密かに木曽さんの連絡先を教えていただきましたが、二人の関係性については直接伺ったことがありません。しかし、ここでの連絡が必要だと感じており、メールをお送りします。


実は、私は甘利さんとこれまでに二度お会いしていますが、その際に二度とも睡眠薬を盛られそうになりました。これからも分かるように、甘利さんは製薬会社と深く関わっていることが伺えます。ただ、彼女が木曽さんや仁科君のことについて本音で語れていない印象を受けています。明らかに製薬会社の目を気にしている様子も見受けられます。私はその状況を非常に同情しています。


そこで、甘利さんの立場について、彼女から直接聞くのは難しいと感じています。木曽さんから甘利さんとの関係についてお聞かせいただけないでしょうか。

また、甘利さんには木曽さんから直接VPNの導入を推奨していただけませんか?これにより、製薬会社が介入できないセキュアな連絡手段を確保することができると思います。


どうぞご協力いただけますよう、お願いいたします。


曽根」


以前、泉さんから「信頼できる仲間を作れ」と言われて、木曽さんと甘利さんを引き込む方向性をつくった。甘利さんがどこまで僕を信用できるかという問題もあるが、それ以上に僕が彼女をどれだけ信用できるのかが課題だ。しかし、こういった情報を引き出し得る相手が多いほうが良いのも事実だ。

甘利さんの立場や彼女とのやり取りを通じて少しずつ全貌が見えてきたものの、不安や疑念は消えない。それでも、彼女が情報提供者として重要な役割を果たす可能性があるなら、信頼関係を築くことが不可欠だ。

気が付けばもう深夜だ。疲れがどっと押し寄せてくる。少しでも休息を取らなければならない。ハルカの柔らかいモフモフに触れながら、深い眠りに身を任せることにしよう。明日は明日の風が吹き、明後日にはアサッテの風が吹く。そんな思考法に、今だけは身も心も任せよう。

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