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灰よ

 

 とある昼休み、俺が机に座って弁当を食べているとクラスメートの女子が話しかけてきた。

 ちなみにセナはお花摘みにより席を外している。

 素直にトイレに行くと言え。


「ねぇ風間くん、放課後に皆でカラオケ行くんだけど風間くんも一緒に行かない?」


 そんな女子生徒の言葉に思わず固まる俺。

 こんな誘い、今まで生きてきて受けたことがなかった。

 ……やはり高校生って最高だぜ!


「あ、あぁ。別にいいけど」

「ホントー!? 良かったぁ。あ、それで悪いんだけど」


 繋がる言葉に俺はなんだか嫌な予感がする。


「風間くんのほうからセナくんにも声かけてくれない? ほら、2人仲良いでしょ? 私達が誘っても来てくれなくてさー」

「……」


 オォイ!? 俺はセナを連れてくるためのエサかよ!


「……わかった。一応声かけてみるよ。来るか分からんけど──」

「えーありがと! 絶対連れてきてね! 絶対だよ!!?」

「いやだから約束は──」


 ……行ってしまった。



 ◆◇◆◇◆◇



「はぁ。俺ってこんなんばっかりだよな」

「なんでため息ついてるの?」

「……なんでもねーよ」


 あの後、セナに声をかけると「え! 行く!」と秒でOKをもらえた。

 これでエサとしての役割は全う出来た、というわけである。トホホ。


「初めてだよね、一緒にカラオケに行くのなんてさ」


 カラオケへの道中、隣のセナが感慨深そうにそう言った。


「まぁ俺たち陰キャだし、カラオケなんて陽キャしか行かないだろあんな場所」

「あはは、偏見すご。てか今さりげなくボクも一緒に陰キャ扱いしたよね? 違うからね?」


 心外だとでも言いたそうなセナ。

 俺といつも一緒にいるくせにこいつは何を言ってやがるのか。


「いや陰キャだろ、休日に家で漫画読んでるような奴だし」

「それは優弥と──! ……バカ、もう知らない」

「???」


 それからセナはカラオケに着くまで俺と口をきいてくれなかった。

 どういうことだってばよ。



 __1時間後。



『~~~♪』


 カラオケで他のクラスメート達が歌う中、俺はジュースを飲んだりスマホをいじったりして過ごしていた。

 そんなことをしていても誰も俺に話しかけたりしないし、歌わないの~? と声をかけてくれることもない。

 完全に"アウトオブ眼中"というやつである。

 そしてそんな俺に比べ、セナはというと___。


『セナくんって歌上手いんだねぇ』

『そうかな? 普通だと思うけど』

『いやホントに上手だったよ! ウチビックリしちゃった!』

『ふふ、嬉しいよ。ありがとね』

『ッ!///』


 めっちゃ人気者だった。

 なんとか気を引こうと群がる女子達にイケメンスマイルを振りまいている。


(……まぁ、こうなる事は分かりきってたけどな)


 見れば一緒に来た男子生徒達も隅の方から死んだ顔でそれを眺めていた。

 完全にお通夜ムードである。

 ……分かる、分かるぞ。

 たくさん女子いるし少しくらい美味しい思いが出来ると思ったよな? 甘酸っぱい青春が味わえると思ったよな?

 でも残念、セナが来た時点でそれはもう不可能なんだ。

 俺達は添え物は添え物でもカレーの福神漬け以下の存在、弁当を仕切るためのプラスチックの草"バラン"でしかないんだ。本当にすまない。


(……はぁ、外の空気でも吸いに行くか)


 それと一緒に飲み物のおかわりでもしようとコップを持って立ち上がる。

 飲まなきゃやってらんねぇよ。ジュースだけど。


「優弥、どこ行くの?」


 すると、部屋から出ようとしたところで声をかけられた。

 女子達との会話を打ち切ったセナだった。

 おいおい、女子達がこっち睨んでんじゃねーか。

 逆に男子達は嬉しそうな顔を浮かべているが。


「ジュースのおかわりに」

「それならボクも行くよ、喉乾いちゃった」

「いやいいよ、お前のぶんも取ってきてやるから。何がいい?」

「やだ、ボクも一緒にいく」


 セナは一度言い出したら聞かない。

 そんなわけだから2人で一緒に部屋を出た。


(男子諸君、怪物は俺が引き受けた。青春を謳歌するならチャンスは今だぞ。無理だろうけど)


「つまんない」


 暗い部屋から一転して明るい廊下を歩きながら隣のセナが言った。

 言葉通り、かなり不満顔だ。


「そうなん? 結構楽しそうだったじゃねぇか」

「だって優弥全然歌わないし、かと思えば女の子達に話しかけられて優弥と喋れないし」

「そりゃあ女子に睨まれたくないからな」


 おそらく彼女達は全員セナが目当てでここにいる。

 目立てば無駄にヘイトを買いかねない。


「むぅ。つまんないつまんないつまんない!」

「イヤイヤ期の子供かよ」

「ね、もう2人で帰らない? ボクの部屋でのんびり漫画でも読もうよ……2人きりでさ」


 セナが上目遣いで俺を見た。

 いやいや、それは流石にまずいだろ。

 主に俺が。

 後で女子達に囲まれてボロクソに言われた挙句、確実に土下座させられる。

 そんな勇気、俺にはない。


「そんな事してたら友達いなくなっちゃうぞ? 俺以外との付き合いも大事にしろ」

「優弥だけいればいーもん」

「皆お前のことが好きなんだからそんなこと言ってやるなよ」

「……優弥にだけ好かれてたらそれでいーもん」


 最後のは声が小さくてよく聞こえなかった。

 俺はジュースサーバーでコーラのボタンを押しながら言う。ちなみにセナはメロンソーダだ。


「ま、お前がつまんないってんなら俺が歌っていっちょ盛り上げてやるか。盛り上がるかは知らんが」


 瞬間、セナがパァーっと顔を輝かせた。

 情緒不安定かよ。


「え、優弥ホント!? ホントに歌ってくれるの!?」

「お前がそれで楽しめるならな」

「うん! うん! じゃあ皆を静かにさせて録音しとくね!」

「それだけは絶対にやめろ」


 どんな恥辱プレイだ。


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