ロタティオン
『ねぇ優弥くん、なんの本読んでるのー?』
『ん? いやこれ漫画な? "鬼滅のSPY廻戦リベンジャーズ"ってやつ。面白いぞー』
『うわーいっけないんだー、学校に漫画とかー』
『うるせーやい』
ボクは覗いた教室の中で、楽しそうに女の子と会話をしている彼を見て自分の胸がズキリと痛むのを感じた。
(……やめて、ボク以外とそんなふうに会話しないで……)
いつからだろう。
最初はただ意識していただけだったのに、だんだん目で追う頻度が増え、最近ではそんな嫉妬心まで覚えるようになってしまっていた。
あれからケンカでボコボコにされないよう体を鍛えはじめた優弥。
放っておけばそんなことする必要なんてないのに、ボクがいじめられないよう傍にいてくれるようになった優弥。
そんな彼を見るたびボクの胸は高鳴り、頭が彼のことでいっぱいになっていった。
……でも、彼は優しいから他の子が困っていたら迷わずに助けてしまう。
そんなわけだから密かに女子の間でも人気があるのをボクは知っていた。
(……やだ。他の子に優しくしないでよ)
イライラした時の癖で思わず爪を噛む。
最初に優弥を好きになったのはこのボクだ。
だから後から湧いてきた他の女なんかに取られたくない。
かといって振られるのが怖すぎて自分から告白する勇気もない。
(……もし、誰かが優弥に告白してそれを優弥がOKしたらどうしよう?)
考えただけで膝から崩れ落ちそうだ。
絶対にそんなことは許されないし許さない。
しばらく考えた後、ボクはあることを思いつく。
「あっ、そうだ」
なんでもっと早く気づかなかったんだろう。
(そうだよ、彼の周りにいる子を先にボクが全員落としちゃえばいいんだ!)
それなら彼を取られることはない。
彼の傍にいるのはボクだけでいい。
「……優弥、キミは誰にもあげないよ♡」
ボクは教室の優弥を見て、ウットリしながらそう言った。
◆◇◆◇◆◇
「セナさんってどこの化粧品使ってるの~?」
「化粧? してないよそんなの。してたとしてもリップくらいかな」
「え!? なのにそんな肌とかキレイなの!?」
「そうかな? キミのほうがキレイだよ」
「……え///」
真顔でそんな事を言っている隣の友人に俺は内心で毒を吐いた。
(またやってらぁ、この天然タラシが)
高校に入学してからというもの、セナの周りには女子生徒の姿が絶えない。
俺のほうには1人も寄ってこないと言うのに。
ちょっとくらい分けてくれたってバチは当たらないはずだ。
……まぁそんなこと言ったらセナは『キモ。キモいよ優弥』等と言って睨んでくるだろうが。
俺が頬杖をつきながらボーッとしていると女子生徒達をさばききったセナがこちらにイスを近づけてきた。
「なーに考えてるの?」
「お前が将来、女に刺されるんじゃねーかなって」
「え? なにそれ怖い」
わりとありえそうだから笑えない。
ほら、今も女達がこちらを見ている。
というか俺を睨んでいる。
あながち『セナくんを取るな』ってところだろうか。
やめろ俺は悪くねぇぞ。
「いやー、でもまぁ疲れるよたくさんの女の子の相手はさ」
そう言ってセナも俺の机に頬杖をつく。
なんだか顔が近い。
俺は距離を取るために頬杖をやめて、イスにもたれかかった。
「俺も言ってみてぇな、そんなセリフ」
「言ったら殺すよ?(相手のほうを)」
「え?」
「え?」
この幼なじみは時々物騒なことを言う。
厨二病にでもかかったか?
まぁそういう時期だもんな。
ここは大人の対応としてスルーしてやろう。
「ま、くれぐれも女の子泣かしたりするなよ」
「あのさ、何回も言ってるけどボクはノーマル。こんな感じだけど好きなのは男性(優弥限定)ね?」
「なんか前にも言ってたなそれ」
うんうんとセナが頷く。
女の子にモテるくせに女の子に興味がないとは腹の立つ奴だ。
だが、世の中とは案外そういうものかもしれない。
自分が本当に欲しいものは手に入りずらく、そこまで欲しくないものに限って容易く手に入る。
これが俗に言う物欲センサーというやつか。
……ん? 物欲センサー?
「あ」
「どしたの優弥」
「物欲センサーで思い出したんだけど、やってるゲームの新キャラのガチャが今日から来るんだったわ」
「あー、幻神だっけ?」
「そうそう。やべー、石足りっかなぁ」
俺は頭を抱えた。
最近欲しいキャラの連続で石に余裕がない。
運営め、絶対に許さんからな(いつも本当にありがとうございます)。
「その欲しいガチャキャラの性別は?」
セナが何気ない顔で尋ねてくるが、そんなもの決まっている。
「え? 普通に女だけど? 胸がデカくて最高なんだなぁこれが」
「……あっそ、引けるといいねバーカ」
「応援ありがとう。えっと、今日からガチャ終了日までのログボとイベントぶんの配布を足して────」
"男キャラとかなら引けるまでボクが石買ってあげたのに"
石の計算中、そんな声が聞こえた気がした。