白虎野の娘
「お前女なのに変なカッコーだな!」
「オレ知ってる、こーゆーのオトコオンナって言うんだぜ!」
「キモイから近寄んなよー!」
小学校の帰り道、近くの公園からそんな声が聞こえてきたので俺は気になって覗いてみた。
見れば1人の子を複数の男子達が囲んで突き飛ばしたり石を投げたりしている。
その子は泣いていた。
"優弥、困ってる子がいたら助けること。いいわね?"
どうしようか考えているとそんな母親の言葉が脳裏をよぎる。
俺は勇気を振り絞り、声をかけることにした。
「たのもー!」
___10分後。
「大丈夫?」
「……あの、キミの方が大丈夫?」
地面に倒れている俺をその子が心配そうに見ている。
……アイツら俺を容赦なくボコボコにしてきやがって許せねぇよ。
なんで勝ったか明日までに考えといてください。
「……どうしてボクを助けてくれたの?」
その子が俯きながら言う。
凄い綺麗な顔をしている。
まるでお人形さんみたいだ。
「別に。気まぐれ」
親に言われたから、とはかっこ悪くて口が裂けても言えない。
いや、やっぱり流石に裂けるのは嫌なので言うかもしれない。
「そ、そうなんだ……えっと、大丈夫? 立てる?」
「すまん。ちょっと肩貸してくれ」
その子に肩を支えられながら起き上がる。
体の節々が痛い。
これは何日か痛みが残るな。
マジでいつか覚えとけよアイツら。
「……聞かないの? なんでボクがいじめられてたか、とか」
歩いている途中、そう尋ねてきたその子に俺は首を振った。
「聞かねぇよ。自分がいじめられてる理由なんて普通人に言いたくないだろ」
「……」
まぁ、さっき聞こえてきた言葉から大体は察せる。
"普通"じゃないから。
周りと違うからこの子はいじめられていたのだ。
短い髪で男の子のような格好をしていて一人称が"ボク"だが、間違いない。
この子は女の子だ。
「……ボクが変なのかな?」
涙をポロポロと流す女の子。
俺は鼻を鳴らした。
「くだらねぇ。お前がお前らしくいるのに他人の許しなんて必要ないだろ」
現に俺がそうだ。
教師の言うことなんて聞かずに毎日騒いで生活している。
……怖いので母親の言うことは聞くが。
下を向いて無言になる女の子。
どうしたもんかと考えた時、ふといいアイデアが浮かんだ。
「お前、名前は? 俺は風間 優弥」
「……四天王寺 瀬凪」
「よしじゃあセナ。もしまた次にいじめられたら俺を呼べ」
「え?」
セナが驚いた顔をする。
ただでさえ大きな瞳がさらに大きくなった。
「俺が駆けつけて助けてやるよ」
「え!? え、あの、でも」
「なんだよ」
「……また、ボコボコにされちゃう」
ドギマギした様子でセナが言う。
かちーん。
「はー!? お前バカにすんなし!! 今回は油断しただけで次は勝つし!!」
「……ほ、ほんと?」
「おう、だから呼べよ。いつでも来るから」
それを聞いてセナの表情が少しやわらかくなったような気がした。
心なしか目も潤んでいるような。
……いやいや、頼むからまた泣くなよ?
どうも女の子の涙は苦手である。
「……うん。わかったよ優弥くん」
「くんはいらん。優弥でいい」
「……ゆ……優、弥」
「おう。……なんだよ、顔赤いなどうした?」
「……な、なんでもないよ!」
そうして、俺達は一緒に帰ったのだがセナの家が結構近くにあったのには驚いた。
しかも豪邸。
◆◇◆◇◆◇
それから季節は流れ、俺は高校生になった。
学校に到着し、自分のクラスなんかを確認してから教室に入る。
「おはよ優弥、また同じクラスだね♡」
見れば俺の机の横にセナが座って手を振っていた。
俺も手を振り返す。
『なにあの子。めっちゃイケメン』
『いやいや女の子でしょアレ』
『えー、じゃあ王子様系女子ってこと?』
『あそこの2人どーゆー関係なんだろ』
そんなヒソヒソ話にもなっていない会話が周りでされているのを聞きながら、俺は自分の席に座る。もうこの感じにも慣れたもんだ。
あれからセナはどんどんかっこよく、可愛く、綺麗になっていった。
昔セナをいじめていた連中も、逆にセナガチ恋勢や親衛隊が出来てからはボコボコにされて大人しくなった。
俺は隣に座るセナに手を差し出す。
小学校の時からの2人のルーティン。
ハイタッチだ。
「これからよろしくな、セナ」
「うん♡」
___
「ねー優弥、帰りにファクドナルド寄ろうよ」
入学式等もろもろが終わり、教室を出ようとした俺にセナが言った。
「ファックか。別に俺はいいけど、いいのか? お前と話したがってるやつたくさんいるんじゃねぇの? ほら」
俺が顎で示した先にはこちらを興味津々で見つめる女子や男子達の姿。
こいつはいつもそうだ。
どこに行っても人を惹きつける。
オーラというんだろうか。
とにかく一般人とは明らかに違う何かがセナの周りには漂っているのだ。
「えー、いいよ。ボク優弥以外と仲良くする気ないし」
笑いながらそう言うセナに俺はため息を吐いた。
今や皆から大人気のセナだが、彼女はずっとこのスタンスを崩さない。
常に俺の隣にいて笑っている。
「お前なぁ、友達の1人や2人作っとかないとこれから先大変だぞ?」
「必要ないね、ボクには優弥だけいればいーもん」
「まぁそれは嬉しいんだがな。俺ばかりに構ってたら彼氏なんて出来ないぞ?」
俺がそう言うとセナがどうでも良さそうに欠伸をする。ネコみたいで可愛い。
「んー、どちらかと言ったら彼女じゃない? ボク女の子から告白されることのほうが圧倒的に多いし」
「はぇー、羨ましい話だな」
「む。何? その羨ましいって」
不機嫌な顔を浮かべるセナ。
「いや、普通に女の子からモテモテとか羨ましいじゃん。俺なんて1回も告白されたことねーよ、どーゆー事だよふざけんじゃねーぞくそが」
「そりゃあ優弥は顔が怖いからねー。一緒にいてくれる人なんてボクくらいだよ、感謝したまえ」
ほっとけ。
「へーい、あざーす」
いやテキトー!とポカスカ叩いてくるセナを受け流しながら俺達は教室をあとにした。
『……なにあれ、恋人?』
『めちゃくちゃ2人きりの空間出てたよね、あれが領域展開ってやつ?』
『いーなー羨ましい』
背中からそんな声が聞こえてきたが、残念ながら俺とこいつはただの幼なじみ兼友達です。
___
「熱っ!」
放課後、ファックでポテトを注文し食べようとしていたセナが手を引っ込めた。
「いやいや、そんな熱いわけないだろ嘘つくな」
「むぅ、嘘じゃないよ。嘘だと思うならほら、優弥もポテト持ってみなよ」
言われたとおりポテトを1本つまんでみる。
揚げたてだから多少熱いが、セナのような反応をするほどではない。
「全然じゃねーか」
「おかしいなぁ、凄い熱かった気がしたんだけど」
セナが首をひねりながら唸っている。
そして少しして何かを閃いたようにこちらを見た。
「ねぇ優弥、また触って熱かったら嫌だからこのポテトをボクに食べさせてくれない?」
「いやなんでだよ、少し冷めるまで待ったらいいだろ」
「優弥のバカ! ポテトってのは熱いうちに食べるのがマナーなんだよ?」
「そんなマナーねぇよ、冷めたのわりと食ってるわ」
「ねぇ、お願いだよー」
「いやだ」
「……おねがい」
「……」
観念した俺はポテトの1本をセナの口に運んだ。
それをパクっと効果音がしそうな勢いでセナが口に入れる。
勢い余ってセナの唇が俺の指に触れた。
「えへへ、美味しい♡」
「お前持つ時は熱がってたのに口に入れる時は平気そうじゃん」
「あ、あふーい」
「遅せぇよ」
「ひん」
わざとらしく口をハフハフさせたセナの頭にチョップをかます。
「残りは自分で食え」
「うー、いじわる」
涙目の幼なじみに呆れながら俺は自分の指に付いたポテトの油を舐める。
そして舐めた後、セナがそれをジッと見ていることに気付いた。
……しまった、つい品がない真似をしてしまった。
普通に紙ナプキンで拭けば良かったな。
こう見えてこいつお嬢様だから引かれてなければいいが。
「って、なんで笑ってんだよ」
「べっつに~♡」
「???」
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