表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海の挽歌  作者: 門戸
恋と卵
69/256

69 恋と卵12:うつくしい骨

「……で?」


「で、って?」


「どういう意味だよ」


「意味って……今読んだそのままよ。意訳すれば、エノ軍の皆さんごきげんよう、くらいかしら」


「だから、その意味っすよ。何かこう、あるんでしょ? その長ったらしーい挨拶の裏に隠された、イリー貴族だけに通じる符牒みたいなのが」



 エリンは、ぱちぱち瞬きした。



「ないってば」


「あやしいなあ」



 ぺかっと白眼部分を光らして、若い傭兵は上目遣いにエリンを見る。


 時々見かける、別部隊の若いのである。


 実に面白い顔をしている、声も面白いのでエリンは彼にどう接したらよいのかわからず、時々途方に暮れる。本気と冗談の区別はどこなのだ。



「……あったとしても、わたしにはわからないわ。外交書簡なんて、実際に見たの初めてだもの」



 嘘は言っていない。


 直接目にした事はなくても、兄やミルドレから詳しく内容を教えてもらってはいたけど。



 旧テルポシエ宮廷の核であった中広間の長卓に、今ちんまりかたまっているのはエリン、パスクア、面白顔の兵である。シャノンはエリンの後ろに立っていた。


 彼らの中央、卓上にはオーラン国印で封されていた羊皮紙の公式書簡が置かれている、そこには実際長々と時候の挨拶が記されているのみ。


 ルニエ公のきれいな署名がくっきり映えているが、本当にそれだけのしろものだった。


 財産管理庫から呼び出されて、がらんとした中広間で読まされたものは、オーラン公国からの親書であった。


 テルポシエから西へ約二十愛里※、やはりシエ湾の沿岸地域にあるイリー系小国である。


 エノ軍の次の侵略対象だった。



「まあ、ご挨拶には間を置かず、きちんと答えるのが礼儀でしょうけど」



――次はお前んとこだから、覚悟しとけってまんま書くのか?



 思いつつパスクアはエリンを見た。



「わたしは文作りが上手ってわけじゃないから、ここまで長い挨拶はできないけど。単なる返し文なら、いつでも書くわよ?」



 いつもと同じく、自然体きわまるエリンの挑戦的態度。


 そろそろパスクアも慣れてしまって、違和感を感じなくなってきている。



「ありがとう。二人とも、もう行ってもいいよ」


「じゃ、エルリングさんの所にいます」



 そそくさと中広間を出てゆくエリンとシャノンに目をやって、ウーディクはパスクアに低く言った。



「いい骨っすよねえ、二人とも」


「……は?」


「ほらぁ、陽気がよくなってああいう恰好されると、骨がよーく見えるじゃないすか。来たばっかの頃は、首巻に外套でほとんど顔しかわかんなかったけど、今は少し安心してんのかな? 二人とも鎧してないし」


「……骨はどうしたって見えねえよ?」


「そうすかね? おひいちゃんの鎖骨、なっかなかかわいいけど。騎士姉さんはも~、背骨がたまらん程うっっつくしい」


「全然わかんないんだけど、お前ああいうのが好きなの?」


「まさか」



 ウーディクは真面目なおもしろ顔で、パスクアを見据えた。



「審美観の話っすよ。俺が雄としてときめくのは、もちもちふっくらのまろやか女子だけ、骨も性格も七難包み隠す包容力」


「ごめん、すっごい混乱してきたんだけど」


「気にしなくていいすよ。でもパスクアさん、そういうふかふかした女の子どこかで見つけたら、まじで教えて下さいよ。俺、全力でなんぱに行くんで」


「はあ……」


「で、返しの親書は会議に内容だけ通してから、ひいちゃんにちゃちゃっと書いてもらいましょう。あともう一つ、東部からの報告で」



 頭の回る若僧であるが、どうもついて行くのにこつのいる奴である。


 彼が叔父のウーアと長年組めているのが、本当に不思議に思えるパスクアだった。




 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ※一愛里(アイレーにおける一里)は、おおよそ2000メートル。(P.S.)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ