62 恋と卵5:宴の余韻
「ねえ! それにしても、おいしかったね、昨日のうたげ!」
「また言ってる」
シャノンがぱたんと扉を閉めて、四人の娘たちはわらわらと廊下を歩き出す。
「お肉も、お魚も、お豆もいっぱいいっぱいでさあ……。あのくんせいと炒めたにじます、次はいつ食べられるのかなあ……」
仇敵の葬式と言う宴の理由は、誰もがさっぱり忘れ去っていた。
「私は、あの素揚げが忘れられなくなりそうです」
「料理長が泣くくらいの、会心のできだったんですって?」
「昼の料理長って、よく泣いてますよね。感激屋さんなのかな」
「泣けちゃうって言えば、あの金柑煮! 誰が作ってくれたのかしら。懐かしい味で泣けちゃったわ。たぶん屋上になってたのだと思うけど、忘れずに収穫してもらえて良かった」
「パスクアさんが、すっごい変な顔して食べてたよね」
「ぷふっ、何か別のものを想像してたのかもね」
「あと、りんごとくるみが……」
食べ物の話、たわいもないやり取りの中に、ふふ、ふ、とふんだんな笑いがはさまる。
――いいね。結構だね。こういう時の女の子達は最強と言うか、向かうところ敵なし、無敵だね。
娘たちの並んだ背を眺めつつ、数歩離れた後ろを歩くメインは、彼女らの淡い幸せな気持ちを“見て”、ほっこりとした心もちになる。
大きな薬籠を背負い、両手に木箱を抱えて、彼は今受け持ち負傷者の朝の手当を終えて来たところなのだ。
王になっても、奥さんをもらったとしても、この仕事は続けなきゃと思っている。
目の前をゆく娘たちは、ふわふわくっついたり離れたり、行きかう傭兵がいれば二人ずつにくぎれたりしながら、やっぱり幸せ色をぽっぽと光らしている。
のっぽのシャノンの草色外套、おかっぱリフィの深緑、黒髪がつんつんはねる小さなケリーの褐色の背中、彼女たちのそれぞれの外套の色に重なって、メインだけに見えるその気持ちがしみ出ているのだ。
おや、とメインは目を見張る。
太くまとめた白金の三つ編みが揺れる、草色外套のほっそりした背中。
――あれはお姫さまのエリンだね? どうしたのかな。
祝福すべきあの感情が、そこで小さく、ひそやかに薫っていた。
微笑を口元に浮かべてから、階段を降りてゆく娘たちを見送り、自分は階上へと歩みを進める。
今日もイオナと、朝ごはんを食べるのだ。




