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海の挽歌  作者: 門戸
ユカナの略奪
5/256

05 ユカナの略奪5:うたわれる挽歌

 やや日の落ちかけた頃。


 海上の風は冷たかったが、男は全く気に留めなかった。


 高値で売れそうな女子供に、毛並みの良い牛と肥えた鶏。男どもの着けていた首環は装飾の美しいものが多く、予想を大きく上回る収穫があった。自分の好みに良く合う女も見つけたし、あとはこのまま帆にいっぱい順風を受け続けて、ねじろの島へ全速力で帰還するばかりなのだ。




♪波に抱かれ ねむりゆくあなた


 永遠とわにかわらぬ ぬくもりを


 わたしの胸の 中にのこし


 離れゆく いとおしいあなた




 だから、漕ぎ手の後方にぎっしりと寄せ合わせられている、収穫品・・・の中から妙な調子の歌声が流れてきても、男にはそれを面白がる余裕まであった。



「なあ。さっきから、何を歌っているんだろう? あいつら」



 横にいる、腹心の男に話しかける。



「ああ、挽歌ばんかですね」



 風でぱらぱらと眼前にかかる銀髪を手で払いながら、腹心は即座に答える。



「この地方特有のとむらいなのでしょう。ああやって海に向かって歌い続けるのは、水難死が多い所によくある習慣と、聞いたことがあります」



 抑揚のない調子に、憐れみは微塵たりとも混じらなかった。



「ふうん」



――水難死ね。海賊に襲われて死んだ場合も、そう言うのかな?



 悲劇を主謀したのは自分なのにも関わらず、男はひとごとのように考えた。



「黙らせましょうか?」



 腹心はふしくれだった杖を持たない方の手で、毛織の長衣の襟をかき合わせながら男に聞く。


 浅黒い肌に、澄んだまなざしが映えていた。



「いや、いいよ」



 腹心の視線をふいと流すようにして、男は答えた。歌い続ける女達の方を見やり、そしてその後方、海原へと意識をむける。つややかな長い黒髪が風にたなびいた。


 まだずいぶん若いその男は、狡猾な微笑を浮かべて呟く。



「……海の挽歌、か。 美しいじゃないか」





♪波に抱かれ ねむりゆくあなた


 永遠とわにかわらぬ ぬくもりを


 わたしの胸の 中にのこし


 離れゆく いとおしいあなた





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