05 ユカナの略奪5:うたわれる挽歌
やや日の落ちかけた頃。
海上の風は冷たかったが、男は全く気に留めなかった。
高値で売れそうな女子供に、毛並みの良い牛と肥えた鶏。男どもの着けていた首環は装飾の美しいものが多く、予想を大きく上回る収穫があった。自分の好みに良く合う女も見つけたし、あとはこのまま帆にいっぱい順風を受け続けて、ねじろの島へ全速力で帰還するばかりなのだ。
♪波に抱かれ ねむりゆくあなた
永遠にかわらぬ ぬくもりを
わたしの胸の 中にのこし
離れゆく いとおしいあなた
だから、漕ぎ手の後方にぎっしりと寄せ合わせられている、収穫品の中から妙な調子の歌声が流れてきても、男にはそれを面白がる余裕まであった。
「なあ。さっきから、何を歌っているんだろう? あいつら」
横にいる、腹心の男に話しかける。
「ああ、挽歌ですね」
風でぱらぱらと眼前にかかる銀髪を手で払いながら、腹心は即座に答える。
「この地方特有のとむらいなのでしょう。ああやって海に向かって歌い続けるのは、水難死が多い所によくある習慣と、聞いたことがあります」
抑揚のない調子に、憐れみは微塵たりとも混じらなかった。
「ふうん」
――水難死ね。海賊に襲われて死んだ場合も、そう言うのかな?
悲劇を主謀したのは自分なのにも関わらず、男はひとごとのように考えた。
「黙らせましょうか?」
腹心は節くれだった杖を持たない方の手で、毛織の長衣の襟をかき合わせながら男に聞く。
浅黒い肌に、澄んだまなざしが映えていた。
「いや、いいよ」
腹心の視線をふいと流すようにして、男は答えた。歌い続ける女達の方を見やり、そしてその後方、海原へと意識をむける。つややかな長い黒髪が風にたなびいた。
まだずいぶん若いその男は、狡猾な微笑を浮かべて呟く。
「……海の挽歌、か。 美しいじゃないか」
♪波に抱かれ ねむりゆくあなた
永遠にかわらぬ ぬくもりを
わたしの胸の 中にのこし
離れゆく いとおしいあなた